「いやぁそれでカサマツにオグリが帰って来た時はもうお祭り騒ぎだったな」
「皆元気そうで安心したし、話せたし楽しかったぞ」
北原トレーナーから聞くオグリがファイナルズ出走の為にカサマツトレセンで予選にエントリーした時の話は実に面白い。オグリの帰郷、これだけでもお祭り騒ぎなのにカサマツの代表になるべく戻ってきてくれたというのが更に皆を喜ばせた。
「そのせいで予選一日遅らせてお帰りオグリパーティをやったからなぁ」
「ああそう言えば、カサマツトレセンの予選が遅れるって連絡着てたな……初年度だから気にしてなかったけど」
それこそトレセンを上げてのお祭り騒ぎだったとの事。そしてオグリもそれを大いに楽しんだのだが……久々に帰ってきたカサマツと皆に囲まれて食欲が爆発して用意した食材を全て食い尽くしたうえでお代わりを要求したのをツッコまれたり、物置で寝ようとして凄い勢いで止められたりとオグリとしては本当の楽しい時間だった。
「ンで、予選では如何でした?」
流石に今のオグリの圧勝かな?と思ったりもしたランページの予想はあっさりと打ち砕かれた。オグリの圧勝、という訳ではなくかなり喰いつかれてギリギリの勝負だったという。
「あれには俺も驚いたぜ、ドリームトロフィーリーグであんだけの走りをするオグリに肉薄するんだからな。ほらっ精神は肉体を越えられる、だっけか」
黒沼トレーナーの言葉を引用するように説明する北原。曰く、元々オグリをライバル視していたり憧れとしていたウマ娘達は目標にしてトレーニングをしていたり、帰ってくる彼女を出迎える為だけに必死にトレーニングを積んだとの事。その結果としてオグリがギリギリの所まで勝利をもぎ取るまでの展開になったとの事。
「私は……カサマツの皆に元気と勇気を貰って戻ってきた、そして約束した。私の持ちうる全てをお前にぶつけるぞ、ランページ」
そこに居たのはよく知っている大食漢のオグリキャップではない、地方から来た葦毛の怪物、オグリキャップだ。鋭い瞳と凛々しい表情、一時代を作ったと過言ではない彼女に思わずランページは抑えたような笑いを浮かべ―――途端に北原は寒気を覚えた。先程までフレンドリーで冗談も通じる面白い同業者という認識が出来つつあったランページへのそれは、一変した。
「その面はお初じゃねえか怪物、生憎こちとら暴君だ。テメェのそれを俺が持ちうる暴力で蹂躙しつくしてやんよ―――アンタが負けたワールドレコードの先の先、見せてやる」
「望むところだ」
これが、世界か。握手をする両者にどうしようもないプレッシャーを感じてしまった、これがあの世界を制したウマ娘。オグリを破ったホーリックス、そのワールドレコードをクラシッククラスで破り、凱旋門ではそれすら越え、BCクラシック、有馬で連続ワールドレコードを樹立。ワールドレコーダーとも呼ばれる怪物。それが一転しトレーナーになると言った時の衝撃は今でも覚えている。一部では衰えを感じたから現役を引退したのではとも噂されるが……北原はそれが虚言でしかない事を知る。
「私は負けないぞ、タマにも、イナリにも、クリークにも―――お前にも」
「こちとら生涯無敗だ、アンタから貰える敗北ならその値打ちもあるだろうよ――――そのつもりはないけどな」
その言葉を最後に二人は分かれた、そして直ぐにオグリは食事に手を付け始めて何時もの調子に戻ってしまってそのギャップに北原は風邪をひきそうになる。だが先程の雰囲気の変貌は恐らくだが一生忘れる事は無いだろう、これが本当の意味で真のオグリキャップなんだ。肉体と技術、精神が完璧に調和したベストコンディション。それを引き出したランページの気配も忘れられないと思っていると背中を叩かれた。
「如何だ、嬢ちゃんの様子は」
「ロ、ロッペイさん」
「六平だ。あれが世界を渡り歩きその全ての戦いに勝ってきた世界最速のウマ娘だ、まだまだ衰えちゃいねぇ、寧ろ技術の面では成長してるだろうな」
「……マジかよ」
オグリの現トレーナーの六平の言葉に思わず震えた声が漏れた。まだまだ成長出来る余地があるのに引退して後進の育成に入った事もそうだが、あれだけの走りの先が存在する事に驚きしかない。
「本人曰く、全盛期は引退レースらしいがな」
「確かにあれは凄かったけど……あれ、ベルノは?」
「そこだ」
自分の後ろを見せるとそこには、腰が引けているベルノライトの姿があった。彼女もオグリと共に中央に行った元自分の教え子にして今は共にオグリを支える仲間。そんなベルノが完全に腰砕けになってへたり込んでしまっていた。
「おまっ大丈夫か!?」
「す、すいません……なんか、凄い迫力にこ、腰が……」
「その気持ちスゲェ分かる、メジロ家の当主にシンボリ家の相談役が後見人なのも頷ける……」
これほど恐ろしい対戦はない、ファイナルズの芝中距離レースの距離はダービーと同じ2400。それは最早ランページの領域と言っても過言ではない世界、自らが誇る世界記録を叩き出した距離で彼女の敵になる者はいるのだろうか……だがオグリはそこに挑む、それだけではない、其処に挑む全員が並々ならぬ実力者ばかりなのだ―――だがそれがいい。
「ほれ確りしろってベルノ、俺達が確りとオグリを支えてレースで最高の走りが出来るようにしてやるんだ」
「そ、そうですよねハイ確りします!!」
「あの嬢ちゃんには世話になりっぱなしだな全く―――オグリ、その礼を返すつもりであいつの初の敗北をプレゼントしてやれ」
「ああ、分かった」
打倒ランページに燃えるオグリ陣営、様々な恩がある彼女にオグリは先達として、先輩として、友達として挑む。ライバル達と走れる興奮故か、身体は震えて低い音が鳴る。獣のような唸り声は地獄の亡者のように響き、オグリを奮い立たせ―――
「……おいオグリ、お前飯食ってる最中だよな?なんでそんな腹の音してるの、可笑しくね?」
「まあうんそれは……」
「何時もの事だ」
「お代わりだ」
「畏まりました」
壁に寄りかかりながら握った拳を見つめるランページ、それを開き閉じる。どうしようもない程に身体が震えている、楽しみでしょうがない。早く当日にならないかという思いで身体が可笑しくなりそうだ。武者震いが止められない。
「ぅっ……くくくくっ……」
顔を手で隠すようにしながらも笑う、如何足掻いても何処まで行っても自分は競争ウマ娘なんだ。それはきっとオグリ、タマと言った先輩方も同じはずだ。強い相手と走ってみたい、そんなウマ娘としての本能が疼いて致し方ない。だが今は我慢しなければ……。
「静めなきゃ……ぁぁっ……」
肌に爪を立てながらも必死に自分を抑え付ける。誰にもバレぬように静かに、穏やかに……自分を変えていく。それを数度繰り返して漸く自分を抑え切る事が出来た。自分はこんな感じだっただろうかと思った瞬間、電波が飛んできた。
『子羊君、急に興奮しちゃだめだよ。前にも言ったけど君のウマソウルは大きくなっているんだから、私たちが調整したのに自分でそれを乱しちゃダメだぞ。フフッまた君の所に行くとしよう、その時は別のご飯―――あっちょっと待って、ターク冗談だから怒らないで、ごめん子羊君これで!!』
「……自由だなぁ」
「ランページさん、歌い終わりましたよ~いやぁアンコールされるとは思いませんでした―――それと、何かありました?歌ってる最中、なんかランページさんが興奮してるように感じましたがもしかして歌って踊る私の姿に!!」
「さ~て司会しないと(ガン無視)」
「ハァッ☆」