前夜祭は続いていく。会場のあちらこちらでは食事に勤しむもの、挨拶をしたり情報交換、中央のトップスターたちにサインを求めたりと様々な事が起きている。取り合えずステージは解放状態にして誰でもライブを行えるようにしておいた、本来はG1の舞台で勝たなければ歌えないものを歌ったり故郷の歌を歌ったりと色んなものが流れている―――
「流石にカサマツ音頭やりだした時は事故かと思ったけどな」
オグリも上がったが、何と彼女がチョイスしたのはカサマツ音頭だった。初のウイニングライブにやったというそれをこの舞台でもやった、その理由に関しては折角カサマツの代表としてきたんだからカサマツの良さの一つを知って貰おうと思って……という完全な善意だった上に簡単オグリ顔で行われた音頭は普通に好評だった。そして今は……
ホウショウツキゲが十八番だという歌を熱唱しているのだが……あれは、ある種の中の人ネタという認識で良いのだろうか。ウイニングライブでも歌っているというがあれはあれで良いのだろうか……そう思っていると隣に一人のウマ娘が来た、確りとしたスーツに身を包んで知的な眼鏡を掛けているその顔には何とも言えないような表情を張り付けている。
「隣、失礼する。このような場でアニソンはやめろと言ったのですが……」
「まあ盛り上がってる訳だし問題は無いだろう、そもそも歌唱力普通にスゲェから高評価な訳だし」
背後モニターに出るコメントは称賛の物ばかり、士気を挙げるのはお手の物という訳なのだろうか、流石軍馬。なんてくだらない事を考えていると彼女は咳払いしながら自己紹介をした。
「ブラッククラウド、一応ウツキの先輩になるのだろうか……今は唯の会社員をしています」
「ご存じメジロランページだ、地方将軍にご挨拶をされるとは恐悦至極」
「やめてください、立場で言えば貴方の方が格上です」
「俺は唯のトレーナーだよ、ラフでいいさ」
しかしと言いよどむ彼女を強引に説き伏せて敬語を解かせる、彼女はホウショウツキゲのライバルと言われたウマ娘で彼女が地方の軍神ならば地方将軍と言われたウマ娘。前回のパーティーは仕事が入っていた為に欠席だったが今回は来てくれた模様。というか、上杉の軍馬と思ったら今度は武田の軍馬か。
「彼女とは長いので?」
「ウツキは私の一つ下の後輩で最大のライバルだった、普段からよく絡んできてハッキリ反りが合わない関係だったな」
極めて真面目そうなウマ娘と極めて自由かつ楽天的なウマ娘、確かに対照的だ。プレアデスで言えばエアグルーヴとステイゴールドと言った所だろうが。
「そんなあいつがレジェンドレースに出ると聞いてね、いけ好かないアイツが出て私が出ない訳にはいかない。最後のレースで私は奴に負けた、だが今度は勝つ―――そのために私はこの伝説に出走する」
彼女にとって自分達は全く物の数には入らない、と言っても彼女が出るのは長距離部門でツキゲが出るのは中距離部門で異なっている。それなのに何故、と思ったのだがそれを聞いて彼女は笑う。
「仕事の都合で中距離には出られなかった、だから都合のついた長距離に出させて貰った―――だから、来年は是が非でも中距離に出させてもらおう。その時には是非貴方と大逃げ勝負がしたい」
「来年ね、余裕はあるかもしれないからな―――待ってるよ」
そう返せば、彼女は姿勢を正したうえで頭を下げて敬意と礼儀を示したうえで去っていく。真面目な方だと思いながらも手にしてジュースを口にする、そして同時に思う、本当にレースを企画してよかったと。まだ見ぬ強者は多くいる、そして彼女らも望んでいたのだ。己の力を出せる場を、機会を、これを逃し続けて来たURAの鈍さには呆れるしかない。
「改める機会はあった、それを蔑ろにした豚共が利益ばかりをむさぼった結果か……」
―――ええ、その通りよ。
視線をそちらへとやれば、美しい着物に革ジャンという何処かで見たぞこれという物と、何方かと言えば侍のような雰囲気を纏った着物のウマ娘が此方を見ている。
「ランページ、会いたかったわ。こうして話もしてみたかったの、スーちゃんから何時も貴方の話をされてたの」
「スーちゃんから?という事は……あらららっこりゃまたすごいレジェンド様にご対面しちゃったって訳ね」
「やれやれ、ただの田舎娘が今じゃレジェンド何て言われるようになっちまった。時間というのは恐ろしいもんだ」
目の前に居る二人、ヒカルタカイとトウメイ。レジェンドと呼ぶにふさわしい二人だ。
ヒカルタカイ。史上初の南関東三冠を達成した、古馬になって中央に移籍、春の天皇賞を重馬場にも関わらず18馬身差で圧勝した後に宝塚記念でも良馬場でレコード勝ちするなど芝においても無類の強さを発揮したという。
トウメイ。ネズミ馬からシンデレラになったとまで言われる名牝。その成り上がりはリアルマキバオーと言われる程だったという、牝馬にも拘らず秋の天皇賞と有馬記念制覇を達成し、史上初の牝馬による年度代表馬となった。
「私は出ないけどトウメイは出るの、私はURAの役員をやってるのだけど貴方の活躍は何時も楽しませていただいてるわ」
「あれま、URAの役員様だったとは。さぞかし役員の皆様は俺の事が目障りなんじゃないですかね」
「最初の内はね、でも今更あなたに反逆しようなんて愚か者はいないわよ。因みに私は最初から貴方派よ」
「そりゃどうも」
URAの中に居た親ランページ派に属していると語るヒカル、彼女自身はスピードシンボリの一つ下で彼女とも仲良くさせて貰っている。そんなスーちゃんが孫のようにかわいがっているランページとは是非とも話したかったのだ。そしてトウメイは何処か鋭い瞳をこちらに向け続けている。
「私もレジェンドレースには出るが……生憎中距離は少し合わなくてな、長距離での登録なんだ。此方に来てくれてもいいんだが?」
「来年は検討しときますよ」
しかし、想像していた以上のレジェンドがレジェンドレースに出るようになってしまったのは計算外だった。自分の考えではルドルフやラモーヌ辺り、TTG世代位までかな、と思っていたのにそれ以上のレジェンドまでもが来るなんて……名ばかりの予定がマジのレジェンドレースになってしまった。
「やれやれ、レジェンドなんて名前にしなければよかったかな?」
「日本が誇る伝説の筆頭が何を言うのやら」
「初の凱旋門制覇ウマ娘がレジェンドだというのならば、誰も文句など言わんさ。名を構えてしまえば君の実績が本当にしてしまう」
「あ~あ、全く一介のウマ娘がよくもまあここまで来たもんだぜ……全く以て―――人生は面白い」
その言葉に二人のレジェンドも同意を浮かべた。そしてそのまま二人に連れられてワインを傾けるのであった。そのまま前夜祭はどんどんと盛り上がっていく、永世三強が揃い踏みで歌ったり、タマとイナリが抱負を語ろうとしたら口プロレスに発展してそれを煽ったりと前夜祭とは思えぬほどに賑やか且つ騒々しいものになっていった。だがそんな様子をランページは笑みを浮かべながら見つめ続けた。
「さて、もう一度乾杯といこう。明日からいよいよ始まる戦いに、乾杯!!」
『乾杯!!』
マイスイートザナディウム様よりブラッククラウドを頂きました、有難う御座います!!