貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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38話

『駆ける駆ける!!スタートからフルスロットルで駆け抜けていきます!!先頭は依然ランページ、二番手にはアグネスフローラも続きますがこれはもう届かない!!まさに独裁、圧倒的なまでの強さで今ゴールイン!!』

 

春風が頬を撫で、桜が咲く時期も迫り始める季節となった頃に行われた同じ花の名前を冠する重賞レースであるチューリップ賞。桜花賞のトライアルレースでもあるこのレースに出走したランページは文字通りに圧勝で勝利を収めた。

 

『さあこの女王が向かうのはいよいよティアラ路線の桜花賞!!独裁者は真の女王となり、新たな王権の布告とするのか今から期待されています。そして、そんな彼女を討ち果たす者はいるのでしょうか!?』

 

「ジュベナイルよりもずっと強くなってるじゃない……」

 

そのレースを見届けていたチームリギルの東条トレーナーは思わずそんな言葉を口にした、今回出走したアグネスフローラはリギルの所属、その名に恥じぬ強さでチューリップ賞まで無敗で勝ち上がって来た。間違いなくトリプルティアラも狙えると彼女はそう思っていた、そしてランページの対策にとリギルの逃げウマ娘達との併走トレーニングをさせ続けてきたのにも拘らず逃げ切られてしまった。

 

「ええ、あの日からずっと強化トレーニングをさせ続けてきましたから」

「南坂」

 

そこへカノープスの南坂がやって来た、その手にはドリンクやらがあるので恐らく一緒に見に来た子達の為に買ってきたのだろう。トレーナー自らやる辺り、ウマ娘の身体や関係を重んじている彼らしさを感じる。

 

「経験を積ませる方針って言ってなかったかしら?」

「はい。ジュニアは兎に角走らせて空気、技術を肌で感じる事で勝負勘を鍛えて行きましたがそれらを活かす為の身体作りを去年の年末から始めてました。その成果があれです」

 

そう言われて視線を向けた先ではリザードンポーズで勝利に応えているランページの姿がある。脚も長く体格も大きいからか、脚は細く感じやすいが言われてみたら脚がかなりがっしりとした印象を受ける感じになっている。

 

「無事是名バ、それを目指すと言ってた貴方が今回は取りに来た、と思ってもいいのかしら?」

 

世間的にリギルのライバルはスピカだと言われている、それは当然シービーとルドルフの影響がある。しかし東条としてはチームの中で一番怖いのはカノープスだと思っている。無事是名バを掲げている為に侮れない相手が絶対に出走してくるプレッシャーが襲って来る。確かな実力者が確実に、間違いなく迫って来るというのはある種一番怖い事なのである。だが、南坂は少しばかり困った顔をした。

 

「私というよりかは皆さんがですね、目指すなら上を目指そう、学園最強カノープスになろうと」

 

自分はそこまでを目指すつもりなどは無かった、寧ろ自分はウマ娘が一つの勝負に人生を掛けすぎる事を心配していた。一生の一度の舞台で華やかな活躍をする為にその後の一生を不意にする事は非常に辛い事だと。だからこそ掲げたものこそが無事是名バ、カノープスで学んだ事や培った事をその後の人生で活かせるようにしていく為、引退したらそこで終わりではなく繋がるようにしたい。

 

「だからこそ輝ける、無事是名バで本当の名ウマ娘になって最強になろうって皆さんが言ってくれました……だから私もそれを手伝おうと思ったんです」

「(目が……違うわ)」

 

同じ中央のトレーナーとして付き合いは長い、時折同じチームトレーナーとして飲みに行く事もある。歳も若い事もあって甘く見られる事もあるがそれは普段から温和で押しの強いウマ娘達に振り回されてしまっている姿が見られたから。だが……今、目の前にいる南坂からはそんな雰囲気は感じられない。

 

「(六平さんと同じ物を感じる……)」

 

オグリキャップの現トレーナーにしてフェアリーゴッドファーザーの異名を持つベテラントレーナー・六平 銀次郎。彼の雰囲気に近い物を感じてしまった、そんな物を纏う南坂とは一体何なのかと思ってしまった。

 

「貴方、一体何かあったの」

「いえ何も。私は唯の―――カノープスのトレーナーです」

 

温和な表情のまま、頭を下げるとそのまま皆の元まで戻っていく姿を見送る。

 

「トレーナー、どうかしました?」

 

そこへやって来たのは同じようにフローラの応援へとやって来ていたルドルフだった。しかし、如何にも表情が硬く汗をかいている自分を心配してくれた。

 

「……今年、一番厄介なのはカノープスね」

「カノープスが、ですか。スピカではなく」

「其方も不安だけど、一番はカノープスよ」

 

メニューを見直さなければならない、ランページを破る為には根本的に変えなければならないかもしれない。次の桜花賞に勝たせる為にもトレーナーとして手を尽くさなければ……

 

「リギルとしても負けられないわね」

 

 

「はぁ~……快勝だわ」

「お疲れ様です、と声を掛けるほど疲れてませんよね?」

「心のつっかえも取れたからな、気分上々だ。こんな時に酒飲んだら美味いんだろうな」

「駄目ですよ飲んだら」

「分かってるって」

 

控室で気分よさげに笑っているランページ、正しく圧勝の言葉通りの勝ち方を見せた彼女だが全く疲れを見せていない。勝利による精神的な高揚もあるだろうが、それ以上に今まで心の重しになっていた物が無くなった故にテンションが非常に高い。

 

「次はイクノがフィリーズレビューか……にしてもあいつ短距離も普通に行けるとかどうなってんだよ、マジのサイボーグか」

 

ランページの言葉に苦笑しつつも確かにイクノの幅広い適正には驚いている。これで走ろうと思えば長距離も走れるのだからとんでもない、まあ恐らくだが彼女も優先出走権を得て同じ桜花賞に挑むのは確実だろう。其処でどうなるかと思いながらも好調なランページに南坂は問う。

 

「絶好調ですね、決着が付いたからですか?」

「まあな。区切りは付けられたけど、後は遺産を完全に返還して貰ったら一先ず終わりだな」

 

朋一と明衣の叔父夫婦に対する制裁は成功した。弁護士から遺産の返還と接近禁止命令などを出して貰えた。矢張りと言うべきか遺産は二人の借金の返済に使われていたので残っていなかった。これから二人はそれを返還する為に、メジロ家お抱えの企業で監視されながら働いて返して貰う事になった。

 

「なあ南ちゃん―――俺今すっげぇ良い気分」

「そうですか」

「ああ、もう世界一だわ世界救ったわって気分」

 

それを聞いて嬉しさを覚える反面、あの二人にそこまでの気持ちを向けていたのかというのも分かった。当然だ、家族だった者からの裏切りを受けたのだから。

 

「んでさ……御婆様から本当にメジロ家の子にならない?って言われちまったんだけど」

「それは……凄いですね」

 

元々ライアンからの繋がりでメジロ家に世話になっている身分だが、それを正式な物にしないか?と言われてしまっている。ウマ娘の名門中名門、メジロ家の一人になるというのは滅多にない話、流石の南坂も反応に困るレベルの話である。

 

「その場合ってどうなんの、メジロランページになるの?」

「恐らく……本格的に入る時期にもよると思いますが……」

 

家族の事が片付いたらと思ったら、今度は新しく家族になろうと言われてしまった問題が起きてしまった。だが今度の問題は何方かと言ったら嬉しい悲鳴なのか、彼女は笑っていた。

 

「んで今度他のメジロ家のウマ娘と面識を作るお茶会に来てねって言われちゃってさ……如何しよう」

「行くしかないと思いますよ、家族になる云々抜きでお世話になってる訳ですし」

「だよなぁ……なんかデュレンやモンスニーも会いたがっていましたから来てくださいねって言われたんだけどさ……如何思う?」

「……凄いお茶会になりそうですね」

「なんか胃が痛くなってきた……」




『おめでとう、君もメジロだ』

を祝うお茶会に招待されるランページ。
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