「憧れのテンポイントさんとお会いできて光栄です。ですが、私は貴女には負けませんよ」
「ほうっ言うじゃないか、なら勝ってみせればいいさ。このテンポイントにさ」
「う〜んやっぱりレースは良いわねぇ!!強敵が居れば良いんだけど……って今言う台詞じゃないね、だって全員強敵なの間違いないも~ん」
「ハハハッすっとぼけた奴だな、気に入ったぞ。どうだレースの後、一杯付き合わんか」
「おっいいですなぁ~実はいいおつまみがあるんですよ」
「ほう?この皇帝を満足させられるのか楽しみだな」
レジェンドレースが間もなく行われるゲート前の一幕、それぞれが精神を集中したり一度話をしてみたかった憧れへと声を掛けたりと思い思いの時間を過ごす中でランページはジッと空を見上げながらハーブシガーを吸う。流石にここで火は付けないし吸いもしない、あくまでフリ……既に気持ちは出来上がっている、抑制するものなどは何もない。そんな自分の心を映し出すかのようにファンファーレが鳴り響いた。
「「「……」」」
全員がそれぞれのゲート前へと立つ、静まり返った空間の中でゆっくりゲートへと進んでいく。
『世紀の一戦が間もなく始まろうとしております、いったいどのような走りと展開が待つのでしょうか、予想も何も出来ません。順調にゲートインが進んでいき、最後の大外のメジロランページがゲートへと―――今、収まりました』
狭い場所は落ち着く、ウマ娘であればありえないそれが自分の最大の長所とも言える。今か今かと誰もが焦る気を抑えつけるかのように待つ中でランページは静かに前を見つめ続ける。ただ、時を待つだけ。
『さあレジェンドレース中距離部門、芝2400、今―――……スタートしました!!』
ゲートが開く僅かな刹那、その前に地面を蹴った。そして開門と同時に全速力で駆けだした。大歓声がシャワーのように降り注ぐ中で疾駆するランページ、間違いなく最高のスタートダッシュだが―――自分並に優れたスタートをした者もいた。
『メジロランページ素晴らしいスタートを見せました、がカツラギエースとマルゼンスキーも素晴らしいスタート!!早くも先頭に立ったのはメジロランページ、しかし直ぐ後方にカツラギエースとマルゼンスキーが控えている!!』
『やっぱりこの三人の先頭争いが開幕だった!!』
「やっぱり、来たな!!!」
「フフッこの3人で走るのも久しぶりね!!」
「ジャパンカップ前の借り、まとめて返してやりますよ!!」
この二人にはジャパンカップでお世話になった、だからこそ成長した今の自分の力の全てで打倒してやる。だが―――
「相変わらずお前も俺の後ろか、フローラぁ!!」
「私があなた以外の後塵を拝するなんてありえませんから!!」
「キモイこの変態!!」
「ちょっひど!?」
『メジロランページ、カツラギエース、マルゼンスキーに続くのはご存じアグネスフローラ、矢張りランページマークで行く作戦でしょうか。その後方にタマモクロス、テンポイント、グリーングラス、トウショウボーイ、スーパークリーク、オグリキャップ、シリウスシンボリが続いております。そこから2バ身程離れてクライムカイザー、ホウショウツキゲ、メジロライアン。そしてイナリワン、アカリポイントとなっております』
『いやぁ改めても凄いですねぇ……いやでもこのペース、かなり―――』
後方から感じる圧は現役に感じたどのレースよりも凄まじい、デバフとは違う圧を感じる。ほぼ全員が自分の走りを観察しているんだ、一体何時あの走りを切るのかに注力している、全身を使ったあの走りを―――だけど、残念ながらの注目は無駄に終わるだろう何故ならば―――
『さあ向こう正面に入って1000mの通過タイムが―――えっ!!?5、57.2!?』
『うそでしょ!?機械の故障じゃないんですか!!?』
余りに早すぎるタイムにレース場全体からどよめきの声が上がった。これではツインターボが作る超ハイペースよりもずっと速いじゃないか、どうなっているんだと皆が慌てる中で南坂だけが笑っていた。
「これはとんでもない作戦に打って出ましたね」
「ど、どういう事です?」
「これは唯の逃げではありません、ランページさんが全員を引き込んだのは超ハイペースの消耗戦。ほぼ全員がラストの直線で出すであろう全身走法に気を取られている、それを逆に利用したんですよ。ですが……普通は考えても絶対にやりませんって……」
南坂ですら呆れたような笑いを浮かべる事しかできなかった、そうランページがやっているのは―――
「スタートからゴールまで、常にアクセルを踏み続ける全力全開走法」
「このペース、やってくれたなランページ!!」
「くぅぅっ利くわね、このペース!!」
まんまと策に嵌められていた、最も親交があった筈のエースとマルゼンが最初に罠にかかっていた。あの全身走法を何れ出すと思っていたのに、まさか最初から使っていたなんて……それによって生み出される異常すぎる超ハイペース、気付いた時にはも手遅れ。ペースを落としたらもう二度と抜き返すチャンスは無くなる、この策の突破方法は唯一つ―――
「食い破るだけ!!」
「行くぞ、ランページ!!」
『第三コーナーへと入った、此処でアグネスフローラとオグリキャップが徐々に上がっていく!!カツラギエースとマルゼンスキーはまだ仕掛けない!!だが後方から一気に永世三強とTTGが上がってくる!!新旧三強が一気に来るぞぉ!!クライムカイザーも好位置につけている、ホウショウツキゲも位置を変えながらも前へと出始めている!!アカリポイント、少し遅れているか、無理もありませんこの超ハイペースは異常でしかありません!!!正しく独裁、正に暴君のレース展開です!!』
相手がレジェンドだろうがそんなのは関係ない、自分は走りたいように走るだけでしかない。他人が自分の事をどう評価しようが気に留める気もない。第四コーナーを回る、最大速度を維持したままのコーナーリング。普通ならば脚に多大な負担が掛かって終わりだろうが―――自分にはランページ鉄で鍛えたこの脚と身体がある、それに耐えたまま、芝を貫いてその下の地面をグリップして駆け抜けていける。ラストの直線だ、さあ来るなら来てみろ、最速の脚を見せてやる!!
『さあラストの直線に入った、メジロランページがいまだに先頭、先頭のまま坂に入るが物ともせずに駆け上がっていく!!信じられません一呼吸を入れる事もなくゴールする気だ!!だが後方からも一気に上がってくるぞ!!』
「おもろい、おもろいでぇランページ!!さぁっウチともやろぉやぁ!!」
「流星、その名の意味を味わってみるか!!」
「天を駆ける、それこそが私だ!!」
「刺客の意味を知れ!!」
「我が道を切り拓くっいざ出陣!!ニャー!!」
「犯罪皇帝、結構じゃないか。クライム―――その言葉の皇帝になってみせよう!!」
「偉大な記録も、記憶も私の輝きで塗りつぶしてやる!!」
次々と起動していく領域の数々。後方からの圧力も増していく、フローラも来ている。その時、その中でもひときわ巨大な物が打ち上げられた。
「今行くぞっ―――私の全てを、受けて見ろ!!!」
『オ、オグリキャップが猛スパート!!とんでもない脚です、ぐんぐんぐんと伸びる伸びていく!!あっという間にカツラギエースとマルゼンスキーを抜いて今2番手ぇ!!これが芦毛の怪物の本領かぁ!!?』
「負けるか、負けるもん……私が、私が―――絶対女王だ!」
最後尾を掛けていたアカリポイントが一気に上がってきた、息も絶え絶えで何時走りが止まっても可笑しくない筈なのに全霊を尽くして駆け抜けていく。坂で加速出来ない相手を抜いて前へ前へと突き進んでいく、先頭集団が見えて来た、後僅かでテンポイントと共に駆け抜けられる―――!!
『アカリポイントが上がって来て今6番手!!い、いや後方から一気に来たぁ!!メジロライアン、メジロライアンです!!メジロの三冠が猛スパートぉ!!スーパークリーク、イナリワンをごぼう抜きぃ!!シリウスシンボリを抜いたぁ!!メジロの一騎打ちか!?いやここでアグネス、アグネスフローラも行くぞぉ!!』
「あの人の、あの人のライバルだけは譲れないぃ!!」
「それはあたしだってそうだぁぁ!!!」
遥か先を走り続けていく親友を目指して、ライバルを越える為に走り続ける二人。誰にも負けない気迫、だが周囲とて伊達に伝説と言われたわけではないと一気に上がってくる。それらと戦いながらも駆け抜け続けていく―――
『メジロランページ先頭!!メジロライアンに伸びる、アグネスフローラ現役の意地を見せられるか!!?オグリキャップまだまだ伸びる、メジロランページを捉えきれるか後2バ身!!残り200を切った、ランページが粘る粘る!!タマモクロスも上がってきている、イナリワン、スーパークリークも来る!!TTGの三人も伸びて来るぞ!!ホウショウツキゲが凄い勢いで上がってくる!!もうどうなってしまうんだこのレジェンドレースは!!?今、オグリキャップが―――メジロランページを捉えきれない!?メジロランページ、此処で更なる一伸びだ、まだまだいけるのか!?これが世界を制したウマ娘の実力なのか!!?』
「オオオオオオオオラアアアア!!!」
『オグリキャップも伸びるが、メジロランページ先頭先頭!!!先頭を守り切っている!!今ッゴールイン!!!メジロランページ、世界最速が伝説を引き連れてゴール!!!二着にオグリキャップ、三着にメジロライアン、四着にテンポイント、五着にアグネスフローラ!!!そしてタイムが―――』
『2:20:9!!?自らのワールドレコードを再度更新してしまったぞメジロランページ!!これが絶対王者の力か、レジェンドレースの初年度に相応しい栄冠を自らに与えたァ!!!』
全てを出し切ったランページは思わずその場に崩れるように膝をついてしまった。尋常ではない位に疲れた……もう言葉を発する事が億劫になる程に疲労が全身に纏わり付いてくる。ワールドレコードをまた更新したとかもうどうでもいい位には疲れた。そんな自分を見下ろすように手を差し伸べてくるライアン、少しだけ微笑みながら
「お疲れさま、ラン」
「……ああ、サンキュラン」
差し出してきたその手を取った。
「負けたよランページ、勝ったと思ったんだが……」
「俺も負けたと思いましたよ……つうかオグリさんもワールドレコード更新じゃん」
「おおっそうか。これで私もワールドレコードホルダーなのか?」
あんな死闘の後で天然を発揮出来るオグリに思わず笑ってしまった。全く以て―――このレースは最高だ。
中距離初代チャンピオン メジロランページ