貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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386話

「ちょっとラン、本当に大丈夫?ほらっもうすぐ控室だから」

「あ"ぁ"~……今敵が来たら負ける……」

「敵って……」

 

ライアンの肩を借りながら歩くランページ、もうそうしないと動けない程に疲労困憊となってしまっている。いっそのこと気の毒なレベルに疲れ切っているランページは見た事がない、ある意味でレアな親友の姿を見た事でライアンは少しだけ笑うのであった。

 

「ほらっ着いたよ」

「サンキュ……だぁぁもう疲れたぁぁぁ!!」

 

身体を伸ばせる一段高い畳のスペースへと寝そべりながら四肢を放り投げる。その様子と声からも疲労の激しさが見て取れた。

 

「もう二度とやるかあんな走り!!」

「最初から最後までフルスロットル、いつも大逃げしてるランがこれなんだから余程なんだろうね……」

「ガチのアクセルベタ踏み状態だったんだよ、スピードメーターが200の車がアクセル踏み続けたらどうなるか知ってるか?」

「えっと……そのまま200以上出る?」

「そう、俺は今回それをやったんだよ!!現役でもやらなかったようなバカすぎる作戦を!!」

 

正真正銘の限界突破走法、現役時代に蓄積された経験やらも全て使った走り。一番先を走り続ければ誰よりも先にゴール出来るだろうという脳筋理論、ハッキリ言ってトレーナーとしての観点から見れば余りにも単純明快勝つ馬鹿馬鹿しい上に普通なら負担がデカすぎて脚を潰してしまう筈なのにシンザン鉄とランページ鉄で鍛え続けた結果として耐えられる身体になってしまったのである。

 

「でもそれってランのスピードメーターが200どころか2000は出せるだけの話じゃないの」

「あ~そういう事言うか」

 

否定できないのがなんとも怖い所、何せ本当の意味での限界なんてまだ自分が知らない可能性は十分にあるし今回のそれが真の意味での限界値だった可能性はある。

 

「つうかライアン、テメェは何処の砂漠の虎の愛人だ」

「誰それ?」

「アツクナラナイデマケルワ」

「だから何それ!!?」

 

まあ通じないなら通じないで良いと思う。

 

「それで初代チャンピオンになった気分は如何?」

「ドチャクソに疲れた、以上。閉廷。解散」

「え~……」

 

正直言ってそれ以外に言う言葉が見つからないのである、レースを振り返る前よりもまず疲労を抜かないとその作業も出来そうにない。冗談抜きで暫くは休養しないと走れそうにない。と言ってもトレーナー業務には関係ないのでこれから暫くは商店街にある鍼灸院通いになりそうだ……。

 

「この後長距離とダートだっけ……だけど悪い、俺見る余裕ない……」

「どんだけ疲れてるのよ……いやまああたしだってもうクタクタだけどさ」

「何でお前は俺よりマシなんだよ……こういうのは寧ろ1位の奴の方が精神的に楽でそこまで疲れてなくて、逆に2位以下が滅茶苦茶疲れてるってパターンだろ……」

「分かんないよそんなの……」

 

ランページにしてはこの手の愚痴を漏らすのは珍しい、如何やら心底疲れているのは事実らしい。そんな親友の隣に腰掛けながら頭を撫でる。

 

「本当にお疲れさま」

「……悪い、お前だって疲れてるだろ」

「まあランほどじゃないから気にしないでよ」

 

この後を考えるのは本当にあとにして今は休む事にだけに集中しよう、思っているといつの間にか意識を手放してしまったのかランページは寝息を立て始めてしまった。

 

「こういうランを見るのも久しぶりだなぁ……本当に久しぶり」

 

寝やすいように自分の膝を枕代わりにしてあげる、トレセン学園に入る前にも偶に遊んだ時も彼女が眠ってしまった時はこうしてあげていた気がする……随分と昔な気がしてくるけどほんの数年前の事なんだ。たった数年で自分達は大きく変わった、自分はクラシック三冠に、ランページはトリプルティアラから一気に世界最速へと駆け上がっていった。それなのに自分と彼女の立場はそれほど変わったりはしていない。あの時と同じ、親友のままだ。

 

「ねぇラン、今日がさ―――ランの誕生日ってこと、分かってる?どうでもいいんだよね、ランは誕生日に全然興味なさそうだったしどうでもいいって言ってたもんね」

 

12月31日、大晦日の今日がランの誕生日。メジロ家でもお祝いしようと言っても当人は極めて如何でもよさそうにしていた、ただ歳を一つ重ねる日を重要視する事はないと。そう言っているのに自分達はそれを許さずに無理にパーティを開いてワザと大々的に祝っていた気がする。

 

「今年からはまた一つ、お祝い事が増えたね―――ねぇっラン、お誕生日おめでとう」

 

たった二人だけの空間と時間、それを共有しながらも親友は大切な人への思いを贈る。それが届いていなくてもきっと送り続ける、それにこそ意味がある。これからも大変な日々を過ごすであろう家族であり親友の安らぎの場になれればそれでいい。何時でも彼女が休めるようなランであろうと決意する。

 

「ランページさん、今―――おっと、失礼しました」

「もう少しだけ寝かせてあげてください、あと少しだけ……」

 

長距離部門が終了し、初代チャンピオンにはトウメイが就任した事を知らせようとやって来た南坂が見たのは独裁暴君としてのランページではなく、唯のウマ娘に戻っているランページを優しく撫でているライアンの姿があった。そしてランページが漸く起きたのはダート部門が終わった辺りだった。

 

「ふわぁっ~……あ"~大分元気になったぞ、まだ身体重いけど何とか行けるな……ンでダートは誰が勝ったの?」

「レディセイバーさんです、チャンピオンズカップの雪辱を晴らした形になりましたね」

「ある意味順当か……」

「それと……サンデーサイレンスさんから伝言です、来年は絶対自分も出ると」

「……あ~日本に移住してる訳だし一応資格はあるのか……でもサンデーさん出すと海外からも私も出たい!とか来ないかな……」

「既に来てます、イージーゴアさんやアンブライドルドさんから是非という話が……というか世界中から大反響が……」

 

世界各国にレジェンドレース及びファイナルズ企画の流れが起き始めてしまった事にランページは思いっきり頭を抱え始めた。

 

「だから誕生日は嫌いなんだ……ロクな事が起きねぇ……!!」

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