「やれやれ、走れないのがこんなにも堪えるとはねぇ……ジャパンカップ後よりも来る感じだ」
1月を半ばを過ぎたがランページはいまだに走る事を許可されない日々をやや陰鬱に過ごしていた。トレーナー業務に専念すればいいだけの話だが、矢張りウマ娘としては走れないことは想像以上にストレスになりうるらしい。と言ってもそこは確りと自重して走らないように気を付けた毎日を送っているのだが―――
「なんか、まだ年始なのに随分と賑やかだなぁ」
冬の間は調整や春に向けての特訓期間だったりでレースへと備えたりすることが多いのに随分と職員室の中は騒がしかった。体感的には新学期辺りの賑わいがあった、そんな中でものんびりと仕事をしているランページに東条がコーヒーを差し入れる。
「貴方のせいでもあるんだけどね、ブラックでよかったかしら?」
「あんがとございます、後俺のせいってのはどゆことですか。ここん所は割かし大人しくしてたと思うんですけどねぇ」
「ファイナルズのせいよ」
あの一件で中央と地方の確執が明確に浮き彫りになった上に地方トレセンどころか一般校にも中央にも匹敵するだけの脚を持ったウマ娘がいる事が明らかになった。地方とすればオグリのような地方を盛り上げる大スターが欲しく、中央からすればそんな逸材を逃す訳にはいかない。そうなればどうなるか、地方と中央のウマ娘の奪い合いである。
「それで年始なのにトレセンは地方に行ったりのスカウト祭りなの、勿論スカウトする為の奨学金制度とかの整備も急ピッチで進められてる」
「あらら~俺ってば大改革しちゃったわけね」
元々一般校のままだった理由としては金銭的な問題だったり語学的な問題があったりと様々。それを支援するためのシステム構築を秋川理事長が中心となって勧められているのだが、それに加えてメジロ家やシンボリ家、そしてあのウラヌスまでもが手を貸したりもしている。
「そんな奪い合いやって、URAは地方とうまくやれんですか?」
「思いの他、地方トレセンは協力的なのよ。結局の所本人の意思が重要な所は変わりないけど」
奪い合いと表現こそしたが、地方勢と中央の対立関係は大幅緩和されている。ファイナルズで中央は地方どころか一般出身にすら勝つ事が出来ずに全敗を喫し、ファイナルズの初代チャンピオンに名を連ねる事が出来なかった。加えて自分がURAに海外からの仕事をぶん投げた事でURAは創設以来の繁忙状態に陥っている。なのでURA自体はスカウトしたくても出来ないので中央トレセンがそれを担っている形になっている。
「私も今度地方トレセンに出向く事になってるわ、スカウトとしての出向は久しぶりね」
「なんかすいませんね、仕事振っちゃったみたいで」
「気にしなくていいわよ、これでリギルに新しい風を取り込める事を考えれば大きな利益になるし地方には独自メニューもあるらしいからそれを見るチャンスでもあるのよ」
そう言いながら自分の席へと戻っていく東条へと手を振りながらもコーヒーを啜る。自分のやったことは決して無駄になっていないと思うと苦労した甲斐もあったという物だ、今年度の開催を求める声も既に上がっているし、今年も走るかどうかを今から考えてしまう。
「今から考えても意味ねぇのに何やってんだかねぇ……まずは今年の事だっつうのに」
そう、今年のそれらに出るよりも先に自分にはやる事がある。今年からプレアデスからデビューするウマ娘がいる、マヤヤことマヤノトップガンがトゥインクルシリーズへと出撃する。自分のチームという事で注目度は否が応でも高くなる、マヤはそこまで緊張しないタイプなのは分かっているが思わぬことで躓くことがあるのがトゥインクルシリーズ。不測の事態を予測する天性の直感というものがウマ娘とトレーナーには求められてくる。
「アマちゃんとドララン、ローレルの方も気にはなるが、悪いがこっち優先だな」
今年のクラシック及びティアラ戦線も気になると言えば気になる。何せ、クラシックにはブライアンとローレルが、ティアラにはアマゾンとドラランが争う事になる。ブライアンが三冠を取るのか、それともローレルがそれを阻むのか。史実ではマル外という制約で参戦出来なかったアマゾンがどう影響するのか、ドラランのリベンジは叶うのかと色々と気になってしまうが自分のチーム優先にさせてもらう事にする。
「そろそろいい頃合かな?」
そんな呟きを残しながらも職員室を後にする。年始ではあるがトレセン学園にはそれなりの活気があり、あちらこちらから楽しげな声が聞こえてくる。中には教室を借りて新年会をやっている生徒たちの姿もちらほらとある。そんな日常に耳を傾けながら部室へとやってくると中にそれなりに賑やかだった。
「やっぱりここのコーナリングが肝だと思うの」
「う~ん……完全に芝を貫いてるよねぇ……どういうパワーしてるんだろう」
「私はココデース!!ストレートのスタートのこの瞬間!!」
「あっマヤも思った!!」
「つってもよ、このホウショウツキゲの走りだって見事だろ。俺的にはこれをベースだな」
「余りやり過ぎるなよ、自分の走りを見失っては意味がない」
「お姉様の走りは……流石に無理ね」
「何やってんのよアンタら」
部室へと入ればそこではファイナルズやレジェンドレースの映像を見ながらもノートに何かを書き込んでいるメンバーがいた。
『あけましておめでとうございます』
「あけおめことよろ、ンで自主的研究会って奴か?」
「はい。実は帰省した時に皆配信を見てたので、その時思った事を交換したりしてるんです」
如何やらプレアデスは思っていた以上に確りしていたらしい。それぞれ日本最高峰の走りを独自に観察研究し、自分の走りにどう生かすべきか、戦った場合はどんな風にするべきかという事を討論し合っていたらしい。
「成程ねぇ……ンでご感想は?」
「それが……正直な所、ハイレベル過ぎて私達が取り入れられる要素がまるでなくて……」
「まっだろうな」
それが妥当な所だろう、将来的にものにするという意味ならば収穫もあっただろうが……だがそれを聞いて安心した。全員が焦っている様子もなく冷静に判断して今はレベルアップの時期だと理解してくれている事が。
「だったらお前らがする事は一歩一歩階段を登るみたいにレベルアップする事だ、ほれっステゴ、お前用の新しいシンザン鉄だ」
「うげぇっ……もうレベルアップするんのかよ」
「恨むんならお前の身体能力を恨むんだな、2.5倍だからな。それとマヤ、お前は夏前にはデビューさせる方針で固める。こっからお前を一気に仕上げていくぞ、キラキラしたいなら気合入れてけよ」
「I copy!!」
「エアエア、お前さんも来年にはデビューだ。今年からはそれを本格的に見据えたメニューをやるからな」
「はいっ!!」
「スズカ、サニー、タイキ、ドーベル。お前たちは下手に焦るな、今年いっぱいは基礎的なレベルアップに努める方針で行く」
「OKでーす!!」「「「はいっ!!」」」
「よしそれじゃあ今年もプレアデス、張り切っていきましょう!!」
『おっ~!!』