390話
ドバイターフでターボが勝利を飾り、日本では海外遠征の話がますます本格化していく。今年はターボだけではなくフローラやテイオーと言った有力ウマ娘が既に海外遠征を表明している為、更なる期待が高まっている。そして季節は巡り―――新年度、今年も新しい息吹がトレセン学園へと吹き込む。将来を有望視されるウマ娘達、一体どんな活躍をしてくれるのかと期待が持たれる。
「う~ん……」
「どったのよ、お前さんがそんな風に唸るなんて珍しいな」
職員室で仕事に勤しんでいるランページに沖野が声を掛けた。今日も今日とて一番の働き者であるウマ娘トレーナーランページは記念すべき2年目を迎えるというのに如何にも困ったような顔をしている。
「いやさぁっ今年からは随分と海外からの入学者が多くてさ、俺にも翻訳のお鉢が回ってきちまってさ」
「あ~……そう言えばお前さんマルチリンガルだったな」
海外から日本にやって来てくれるのはトゥインクルシリーズの活性化としても有難い事ではあるが、語学問題というのはかなり深刻な物。実際ファイナルズでは語学問題を解決しきれずにトレセン入学を断念するケースも多かった。
「という訳でそっち系に明るいトレーナーのチームに一時的に在籍させながら、授業の補完とかを依頼するって形式になったって訳」
「おいおいおいお前其れ大丈夫なのか?今ですらチームを二つ纏める立場なのに」
「いや別に問題はない、寧ろファイナルズ云々が無くなって余裕あるから」
「相変わらず大変優秀な新人で可愛げがねぇな……」
「ンな事言ってる暇あったらアンタはローマンとかブリザードの相手を確りした方が良いだろ、なんせ相手は南ちゃんなんだからよ」
「それを言うなよ……マジで頭痛いんだからさ」
スピカに在籍しているオグリローマン、彼女はティアラ路線を想定しているのがその一番のライバルがカノープスのアマゾンとドラランなのである。確か史実ではローマンが桜花賞を取った筈だが、この世界ではアマゾンはガッツリティアラ路線に出るしドラランもいる。かといってクラシックはクラシックでブライアンという悪夢まである。今年のクラシッククラスは本当に魔境と言っても差し支えない。
「まあ俺は今年からデビューのマヤだし、頭痛めるのは来年からだからどうでもいいけどな」
「お前なら……ならクラシックでシニアレースに出るなら覚悟しとけよ」
「大統領とかと戦うよりマシだろ」
「お前のレスバ強すぎるから現役時代のそれら禁止カードにしてくれ」
まあ兎も角、プレアデスでも数人の海外ウマ娘を預かる事になっている。この試みは今年からだが、理事長にファイナルズでの事を話したらこんな制度が出来てしまって自分の首を絞めてしまった感がある。
「さてと、それじゃあ俺が預かるウマ娘に挨拶でもしてくるか」
「応、俺は英語しか出来ないけど一人預かる事になってるけどな」
「少しは勉強しろよ、アンタのはジャパニーズイングリッシュ過ぎて聞きづらいったらねぇよ」
「るっせぇよ」
そんなやり取りをしながらも職員室を後にする、正直な事を言えば一体どんなウマ娘が来るのかと少しだけワクワクしている自分がいる。何故ならば史実的に考えれば入ってくる新入生は98世代、黄金世代とも言うべき最強世代の年だ。代表的なマル外に絞ってもエルコンドルパサーにグラスワンダー、アグネスワールドにマイネルラヴとこれだけの充実っぷり。
「一体誰になるのやら……」
とそんな風に思っていた自分を殴りたくなった。待ち合わせ場所に行ってみれば自分が預かる事になっていた、そこには見覚えのあるウマ娘ともう一人、マスクを着けていたウマ娘がいた。そう来たかぁ……と内心で溜息を吐いた。
「あっ来たわっ!!ランページさ~ん!!」
「ホ、ホントウにメジロランページさんデース!!?ホ、ホントウに知り合い、だたデスカ!?」
「フフンッ言ったでしょう、このキングヘイローは入学前からランページさんのチームに入る事が決まっていたって!!」
「凄いデース!!」
何やら元気なやり取りをしている一方は学園祭で知り合ったキングヘイロー、宣言通りにトレセン学園にやって来たという事だろう。
「よっキング、プレアデスに入りでも来たか」
「勿論よ。お母様を越える為に貴方のチームに入るつもりよ!!」
「そりゃ結構な事だ、ンでお隣さんが海外から来た子だよな、なして一緒なんだ?」
「まだ日本語に慣れてないみたいでね、私は英語とかその辺りはペラペラだから先生にサポートを頼まれたのよ」
「ほ~う流石だな」
早くも教師からの評価が高い辺りは流石良血のお嬢様と言った所だろうか。実際能力は凄く高いのがキングヘイローだし……そしてこの子が自分が面倒を見る事になる海外ウマ娘。
「は、はっはじめまして私は、エ、エ、エル、エルコンドルパサーデース!!ほ、ホンジツはお日柄も良く?」
「落ち着きなさいエルさん、よろしくお願いいたしますでいいのよ」
「よっ宜しくお願いシマース!!」
「ハハッ元気があって宜しい」
エルコンドルパサー。最強馬と未だに推す者も多い競走馬。NHKマイルカップを制覇し、毎日王冠でサイレンススズカに敗れるまでは無敗を誇った程。そしてこの馬の一番の活躍と言えば海外遠征。長期のフランス遠征を敢行しイスパーン賞、サンクルー大賞、フォワ賞へと出走し、2勝1敗。そしてそのまま凱旋門制覇を目指したが、モンジューに敗れてしまい惜しくも2着となったが最も凱旋門制覇に近かった日本調教馬と言われ、年度代表馬を受賞した。
「まあ取り合えずようこそトレセン学園へ、暫くは俺のチームプレアデスに仮所属して貰いながら授業とかの補完とかの面倒を見る事になる。その気があるならプレアデスにそのまま所属してくれてもいいけどな」
「私、ラッランページさんのBCクラシックを見てました!!アメリカで!!」
「おやそうなのか」
「ハイッ!!それで、ニホンには行きたい、思ってたデース!!」
そう言われると何とも恥ずかしくなってくるな。と思っているキングからある事が教えられる。
「他にもランページさんに憧れて来たって子いたわよ、確かグラスワンダーさんにアグネスワールドさんって言ったかしら?グラスさんがリギルでワールドさんがスピカでお世話になるって聞いたわ」
「へ~」
成程、そういう事になるのか……そう言えばアニメだとエルは最初からリギルの所属ではなくて入部テストを受けて入っていたな、と思い返す。
「兎も角あんまり緊張はしなくていいからな、別に日本語面倒なら俺が英語で喋ればいいだけだしウチにもアメリカから来てる奴はいるから居心地は悪くないと思うから気楽にな」
「ハッハイ!」
「ンでキング、お前さんはプレアデスに入部希望って事でいいのか?」
「勿論よ。私の目標はお母様を越えるウマ娘になる事、つまり―――全距離G1制覇なんだから!!」
「キ、キングそれ挨拶でも言ってたデスけど、本気だタデス!?」
まさかあの目標を声高に教室で宣言したという事なのだろうか、それはそれで―――
「勿論本気よ、目標は高ければ高い程やりがいと意味があるのよ!!それに私にはランページさんというトレーナーがいるのだから、そこを目指して駆け出すだけよ!!」
……如何やらマジだったらしい。発破を掛けたのは確かに自分ではあるが、此処までやる気を出すのは予想外だった。だがまあそれを導くのもトレーナーの仕事なのだから覚悟して取り組むとしよう。
「やれやれ、本気でやる気ならメニューは組むぜ。エルちゃんはなんか目標あるかい?」
「わ、私デスカ!?わ、私は、その……せっ世界最強のウマ娘になる事、デース!!」
「それってつまり」
「そう、ランページさんよりも強くなる事、デース!……い、言っちゃい、マシタ……」
最初こそ自信満々だったのにだんだんと声は小さくなっていった。あの陽気で元気いっぱいなエルコンドルパサーにこんな可愛らしい時期があったとは……思わず笑ってしまった。
「はぅ……やっぱり、ヤッパリ……ルチャ、でしょうか……?」
「それを言うなら無茶だと思うのだけど……」
「いやいや笑って悪い、いやなプレアデスにもいるんだよ俺よりも速くなるって宣言したウマ娘がさ、それに被っちまってつい笑っちまった」
「ケ!?ランページさんよりも速く!?」
「良いじゃねぇか、キングも言ってたみたいに目標は大きければ目指す意味があるからな。なっちまえなっちまえ、俺よりも強くな」
笑いながらエルの頭を撫でてあげると先程まで気弱そうな表情だった顔は明るくなっていく。
「さてとお嬢さん方、プレアデスにご案内するがどうでしょうか?」
「フフンッ是非お願いするわ!!先輩方にもあいさつしないとね!!」
「エルも、行くデース!!」
「よっしゃ元気出していこう」
二人を連れてプレアデスに向かう間にランページはそう言えばとある事を思った。
「(そう言えばスペってどうなんだろう、アニメだと転入したんだよな……つう事は今年はまだいないのかな?)」
という訳で黄金世代が本格的にエントリーだ!!