「ほれほれっステゴ脚が上がってねぇぞ!!新入生の手前だ、カッコつけねぇと噂になるぞ」
「っそがぁ……!!負けるかぁ!!」
「スズカとサニーは1000mラン、但しラストの直線は出せる全力でだ!!」
「はいっ!よ~し負けないからねスズカ!」
「私だって負けないから」
「これが、プレアデス……」
「凄い、カッキ?デース……」
プレアデスへと案内されたキングとエル、改めて本当のトレセン学園の姿を見たような気分になって圧倒される。と言ってもプレアデスはまだまだ若いチームなので空気としては柔らかい方、リギルなんてこれの数倍は熱が入っているので新入生からしたら凄い面食らってしまうかもしれない。
「タイキ、エアエア、ドーベルは坂路。無理はするなよ、上ちゃんの言う事ちゃんと聞くんだぞ」
「OKでーす!!」
「分かりました」
「はいっ!!」
「任せといて」
「ンで、マヤヤは少し休んだら1600だ」
「はーい!!」
テキパキと指示を飛ばしていくランページの姿も初めて見る為か少しだけ呆然としてしまっている。
「ようこそプレアデスへっつってもまだ設立2年目のルーキーチームだけどな」
「き、聞いてはいたけどランページさんまだ2年目なのにもうチーム持ってるのね」
「理事長からの要請でもあってな、有能なトレーナーには出来るだけでチームを持って欲しいってね。因みに今年から初のデビュー者が出てな、それがこのマヤだ」
「マヤはね、マヤノトップガンって言うの!!今年、プレアデスのスーパールーキーとしてデビューするの!!」
ランページの腕を取りながら元気いっぱいに挨拶をするマヤ、マヤの元気に押されているのかキングとエルは少し戸惑っているように見える―――
「キ、キングヘイローです、よ、宜しくお願いしますマヤノトップガン……先輩」
「エルコンドルパサーデース。えっと、セ、先輩宜しく、お願いシマース」
「先輩なんてつけてなくていいよ、同じプレアデスのチームメイトなんだから、マヤって呼んでね☆」
ではなく、如何見ても自分達よりも年下っぽい幼いウマ娘が先輩だったことに戸惑っているらしい。まあマヤは見た目と精神のバランスが完全と言ってもいいので先輩として接するのが難しいの分からなくもない。
「んじゃまあプレアデスの基本的な方針を教えておこう。プレアデスは元々俺が所属していたカノープスの指導方針を引き継ぐスタンスを取っている。カノープスの基本方針は基礎を徹底する事と怪我をしない事だ、この二つを基本にしつつ俺なりのアレンジを加えて行ってるって感じだ」
「基礎を大切に……成程、当たり前な事だけどやっぱり大事な事よね」
「ムムムッパパとママも言ってました、土台が一番大事、そうしないとテクニックは積めないと」
「その通りだ。基本的に基礎能力が確りしてれば技術の覚えも早くなるし、同じ技術を使ったとしても基礎能力が高い方がその威力も大きい―――まあ世の中にはウチのマヤみたいに超天才気質で一発で応用をマスターしちまうのもいるけどな」
「えへへっ~ランページさん褒めるの上手~♪マヤ照れちゃう~」
まるで姉と妹のような距離感の二人、普通トレーナーと担当ウマ娘の関係はここまで密接ではない。矢張り同じウマ娘だから接し易かったりするのだろうか。
「それじゃあマヤ1600走るね~目を離したら、いやだからね~」
「分かってるよ」
「それじゃあ行ってきま~す!!」
そう言いながらターフへと乗り込んで駆けだしていくマヤ、先程の幼げで柔らかい雰囲気が一転、颯爽とターフを駆ける風となりながらも力強く疾駆し始めた姿に二人は驚いた。
「何あの速さ!?本当にデビュー前なの!?」
「凄い、デース……」
「やれやれ、こんなにも早く雛形が出来上がっちまうと俺の立つ瀬がねぇんだけどなぁ」
ターフを駆けるマヤ、その走りは全身を完全に使いこなした物。まだまだ上半身と下半身の同調が甘い部分こそあるが既に物にし始めている、これだから天才は……と言いたくなるがこれはこれで更に育てたくなるのがトレーナーという生き物なのだ。
「あの走り方をやりたいなら教えてやってもいいぜ、多分二人にもできるからな」
「ホ、ホントウにホントウデスカ!?」
「ホントホントお姉さん嘘つかない」
「あの走りを……」
二人の目に輝きと炎が灯った、才ある者でないと出来ないとモンスニーは言っていたがこの二人に才がないなんて事は絶対に無いだろう。望みであるのであれば教えてあげるだけの事。仮にそうなったら二人は一体どれだけ強くなってしまうのだろうか……夢があるような考えたくないような複雑な気分だ。
「あ、あのっ私、セイセキにプレアデスに入りたいデース!」
「成績?」
「正式かしら」
「あっそ、ソレです!!正式に、入りたいデス!!」
真っ直ぐと此方を見据えるようにしながらも入部希望を出してきた。素直な事を言えば彼女は如何しても欲しい、能力という事もあるが―――それ以上に、彼女と共に凱旋門制覇したいという気持ちがある。史実ではモンジューに敗れて2着に終わったが、この世界で彼女に世界一の景色を見せてあげたい。
「別に無理に此処じゃなくてもいいんだぜ、あくまで君を此処で預かるのは一時的な事で自分で好きなチームを決めていい。リギルにスピカ、カノープスという道もある。だが君はプレアデスを選ぶ―――それに、後悔はないか」
「ありません!!エルは、エルは―――ランページさんよりも強い世界最強のウマ娘になりまーす!!!」
先程のか細い声とは打って変わってレース場全体に響くような力強い声で答えた。思わず走っていた全員がそちらを見てしまう程に大きな声、キングも驚いてしまっていたが直ぐにその表情はよく言ったわ、と言いたげな笑みに染まっていった。そしてそれはランページも同じ。
「良い啖呵だ。なら俺を越えてみろ、俺から教わる全てを自分の物にして俺より強くなって見せろ、俺から世界最強の称号を奪って見せな!」
「やってやりマース!!なんだったら最速にもなりマース!!」
「それはダメ」
「「ウヒャッ!!?」」
突然背後から聞こえてきた声に吃驚したキングとエルは自分を盾にするようにしながら隠れる、何事かと思ったら走り終わったスズカがそこにいた。
「な、何デースカ……?」
「ランページさんよりも先の景色を見るのは私だから。世界最速には、私がなる」
「こ、これはまさか―――ライバルという奴デース!?でもエルは負けません、同じチームの先輩、とはいえエルは負けませーん!!」
「先頭の景色は絶対に譲らないわ」
何やらスズカとエルの間に生まれてしまったライバルのような関係性、これはあれだろうか、史実の毎日王冠繋がりだろうか。まあやる気があるのは良い事だ。そんな事を思っているとキングが何かを見つけたのか声を上げる。
「あらっ?」
「どったよキング」
「いえ、あれってもしかしてサンデーさんかしら……ってなんで誰かを抱えてるのかしら?」
「ハァッ?」
何を言っているんだと思って同じ方向に目を向けるのだが……そちらには確かに一人のウマ娘を肩に担いでいるサンデーの姿があった。
「ええっ~なして私、こんなことになってるの~!?」
「まあ細かい事気にすんな、お前気に入ったから俺が鍛えてやるよ」
「ええええっ~!?トレセン学園ってこんな事もあるの~?!お母ちゃんどうしよう~!!?」
「マジでどういう状況だあれ」
ランページの言葉に答えてくれる者はいなかった。