「おい、何だ誘拐犯にでもジョブチェンジか?普段から口調は荒いガサツだと思ってたけど、元居た所に返してきなさい」
「応随分な言い草だなおい、こいつは俺がスカウトしてきたんだよ」
「それ、トレセンの中でだよな。外でそれやらかしたわけじゃねえよな、運命どころか法律に噛みついてねぇだろうな?」
取り合えず抱えているウマ娘を下ろすように言いつつ話を聞く、スカウトしてきたというがその実は攫ってきたような姿だ。というかウマ娘を肩に抱えているのだからもう絵面が完全に攫ってきました感が凄い。
「ちゃんとトレセンの中に決まってんだろ、そこいらをウロチョロしてて迷ってたっぽいからここまで連れて来てやったのよ」
「だったらもうちょっとやりようってもんがあるでしょうが……ンで君はレース場に来たかったでいいのか?」
「えっあっはい!!学園の中を見て見ようと思って、そうしたらチームの練習が見れるって聞いたので探してたら迷っちゃったみたいで……それで困ってたらこんなことに……」
「普通は想像せんよな……まあいい、取り合えず下ろしたれや」
「え~い」
という訳で漸く下ろして貰ったウマ娘は助かったぁ……と言わんばかりに深い息を吐いた。ネメシスの指導教官がこんな事してたのだから、これも統括チーフである自分の責任になるのかなぁ……と新学期早々に後でたづなさん辺りに謝りに行かなければ……とブルーになりつつも一先ずは少女のケアを始める事にした。
「あ~一先ず、察するに新入生か。トレセンに入って早々に災難だったな……」
「い、いえっ来たい所に来れましたから結果オーライです」
「頭と気持ちの切り替えも悪くないな、ますます気に入った」
「はいサンデーストップ、取り合えず名前を聞いてからだな……」
まあ何というか、声と流星を見る限りあのウマ娘である事は確実なのだが……と思っているとキングとエルが此方にやって来て顔を見ると声を上げる。
「誰かと思ったらスペシャルウィークさんじゃない」
「スペちゃんデース、一体ドウしたらああナルデスカ?」
「それは私の方が聞きたいです……ってキングちゃんにエルちゃん?!どうして此処に!?」
それを聞いてああ、やっぱりこの子だったか……と溜息を吐きそうになる。
スペシャルウィーク。黄金世代と称される98世代の一角であり、あのレジェンド騎手たる武豊に初のダービー制覇をプレゼントした名馬。ジャパンカップでは凱旋門でエルコンドルパサーを破っての制覇を成し遂げた世界最強馬とさえ言われたモンジューに日本総大将として挑み、見事にジャパンカップを制した。同世代のライバル達とも激しく競った事でも有名で特にグラスワンダーとの有馬記念は語り継がれる程。
「ほらっ私はエルさんの付き添いよ、日本語が不慣れなウマ娘はチーム預かりになって授業の補完を受ける事になってるでしょ。私は英語とか大丈夫だし、まあ、このキングは元々チームに誘われていたのだけどっ!!」
「へっ~やっぱりキングちゃんって凄いんだ!!ってそう言えばエルちゃんがお世話になるチームって……」
「フフンッあのプレアデス、デース!!」
「プレアデスってあのメジロランページさんの!?ってもしかして……」
ゆっくりと此方を向くとスペは尻尾を大きく立てながら、声を張り上げた。
「あのメジロランページさん!!?えええっ私、いきなり凄い人に会っちゃったぁっ!!?」
「い、今更過ぎるわよ貴方!?」
「気づくの遅いデース!?」
まあ唐突にこういう事があっても正常に処理が出来る訳がないというのは分かる、自分だって勝利を祝われたと思ってお礼を言ったら大統領だったときは流石に反応が遅れたし。と思っているとスペは姿勢を正すようにしながらも尻尾を揺れ動かしながら此方をキラキラとした目で見つめて来た。
「あ、あの私っ北海道で何時もランページさんのレースの中継見てました!!特に一番好きなのは有馬記念でお母ちゃんと一緒になって凄い熱くなってました!!」
「確かスペちゃん、それでニンジン持って応援してたらニンジンすっぽ抜けて頭に落ちてきたって言ってマシター!!」
「え、エルちゃん!!?」
「名前を覚えて貰う、インパクト!!」
「エルさん、抱えられてた時点でインパクトの塊みたいな感じよ」
矢張り同期故に3人の仲はいいらしい。この分だとセイウンスカイやグラスワンダーとも仲がいいのだろうか、そしてアニメの回想で見ていたレースが自分のレースだったのか……。
「ンでサンデーはこのスぺちゃんに見込みがあってスカウトしたって事か?」
「応よ、何か分からねぇが運命的な何かを感じてな、こいつを育てたくなってな」
運命的な何かとは随分とあれな表現だが、そう言えば史実ではスペシャルウィークの父はサンデーサイレンスだった、そういった意味での運命的な何かなのかかもしれない。
「つってもよ、アンタトレーナー資格なんてあったか?」
「ある訳ねぇだろ」
「だと思ったわ……ンでどうするんだ」
「お前のチームで預かってくれ、ンで俺が育てる」
「おいおいおい、自分で発掘しといてそれか」
「良いだろ便宜上の処置って奴だ」
まあ確かにチームを持っている自分ならば色んな意味で適任ではあるとは思うが……かと言っても断る文句も思い浮かばないし、形式上という意味でなら引き受けても良いか……なんというか黄金世代の三人を独占するというのは背徳感がしなくはないが。
「やれやれ、結局それで書類とかやるの俺じゃねえかよ」
「分かってるな」
「はぁ……結局は本人の意思だぜ、強制するなんて俺はしない―――
「ええっ!?キングちゃんとエルちゃん、ランページさんのチームに入るの!?いいなぁ~私も入りたい!!」
「それなら入りまショー!!ランページさんなら、きっとブエナ!!って言ってくれマース!!」
「その気があるならきっと歓迎してくれるわよ」
「よ~しけっぱるべ~!!」
「だとよ」
「はぁぁぁぁぁっ……」
自分のチームメンバーでありながら自分のチームの敵とも言える、何とも複雑な立ち位置になるそうな気もする……なんだかリギルの事を言えなくなってきたような気がしてきた。
「スペちゃんよ、お前さんプレアデスに入る気はあるかい?今ならアメリカで有名だったウマ娘、サンデーサイレンスの教導も付いてくるぜ」
「私、入りたいです!!私、日本一のウマ娘になるってお母ちゃんと約束したんです!!」
「おおっ日本一デスか、なら私の勝ちデース!!私、世界最強のウマ娘になりマース!!」
「ふふっ世界最強に世界最速、日本一を目指すウマ娘が集うなんて、ランページさんのチームに相応しいわね」
「やれやれ……こりゃまた、忙しくなるな」
結局、新学期早々にプレアデスは3名の新メンバーを迎える事になったのであった。
「南ちゃんも新しいメンバー迎えたのか」
「ええ、ツルマルツヨシさんという方を迎えました。少し身体が弱い方ですのでじっくりとやっていきます」
「リギルはグラスワンダーをそのまま迎えるつもりよ。あの子は中々の物よ」
「ふふん、スピカだってセイウンスカイってウマ娘をゲットしたぜ、ちょっとサボり癖あるけどあの脚は中々の物だったぜ?それにアグネスワールドもそのまま加入予定だ」
「あ~うん、あんま気にしなくてもよかったかもな」
という訳で、スペちゃんは中等部からトレセン学園に来たという事にしました。
転入も考えましたが、今作は色々と強化要素が目立つので置いてけぼりを防ぐためでもあります。それなしで張り合うとスぺちゃんのお母さん、何者なんだよって事になりかねないので。元トレーナーだったりしたのだろうか……。