貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

394 / 635
394話

桜花賞、メジロランページの始まりのG1レースは自分を先輩と慕って配信の手伝いもしてくれたドラグーンランスが制覇。だがこれは別の意味もあった、同一のチームがG1レースを3連続で制覇したという大きな意味があった。カノープスのトレーナーである南坂は当然それについて言及されこそしたが

 

「そう言えばそうだな、とは思いましたが別段意識した事はありませんね。制覇したのは私ではなくドラグーンランスさんですので称賛されるべくは彼女の努力ですしヒシアマゾンさんは3着でしたので私はそちらの方も重要です、勝てなかったのではあれば次は勝てるように努力するのがトレーナーとして当然ですし勝てたのならば次も同じように勝てるようにするのがトレーナーです」

 

これを真顔で勝利インタビューの場で言って見せた。流石はあの独裁暴君の相棒だという声が世間から溢れたという。加えて言うなれば、南坂がこの桜花賞の勝利に浸っている暇なんてない、何せカノープスには皐月賞に出走するローレルがいる。しかも相手が―――リギルのナリタブライアンなのだから。

 

 

「今日も悪いわね、貴方も自分のチームで忙しいのに」

「上ちゃんの経験蓄積には丁度良いっすよ、俺ばっかりが美味しい所吸う訳にはいきませんからね」

「あらっ可愛くないね」

「俺を可愛いなんて言う奴は少ない方が良いですよ、俺も自分を可愛いなんて思った事はかけらもないですから」

 

相変わらず普段着なのかスーツなのか分かりにくい勝負服を着ていると思いながら、来てくれたことに感謝する東条。ブライアンの調整相手を頼んだのだ、リギルからメンバーを出そうとも思ったのだが、矢張り最上級の相手を用意できるならばそれを立てた方がブライアンの方の為にもなる。

 

「カノープスにもよく呼ばれますしね、ローレルの奴もいい仕上がりですからブライアンもうかうかしてられませんぜ」

「……やっぱりそっちにも呼ばれるのね」

「あっちはリギル以上に断りにくいですから」

 

何せ惚れてしまった弱みを存分についてくれるからカノープスからの要請は断れないのだ、と笑うランページに東条はやっぱり南坂は侮れない相手だと再認識する。どれだけの事があっても揺らがないし慢心もしない上に自分のコネを最大限に使う事を戸惑わない。自分のチームのウマ娘になる為ならば平気で頭を下げる、その姿勢は自分以上だ。こういう相手を負かすのは簡単ではないから困ってしまう。

 

「ンでどうですか、ブライアンの調子は」

「絶好調よ」

 

それは断言出来た、ターフを今も走って春の天皇賞に向けて調整を行っているハヤヒデの併走相手も行えるぐらいに調子はいい。矢張りハヤヒデの方が上だが、それもあくまで現状では、そう思える程にブライアンの潜在能力は高い。ルドルフ以上かもしれないと夢を持てる程に。

 

「このままなら無敗の三冠も期待できると」

「ええ、あの子はルドルフを越えられるかもしれないわ」

 

そんな存在を更に上の力でねじ伏せる、お前にはまだまだ上がいる、だからこの程度で慢心するのではなくそれを上回るつもりで行けと言いたいのだろう。まるで自分がラモーヌやマルゼンスキー、エースに潰された時のようだ。なんだかんだで彼女の指導は南坂にどこか似ている気がすると思っているとブライアンが戻ってきた。

 

「よっブライアン、三冠取る準備は万端ってか」

「ああ。だが最大の障害が残っているがな」

「お前さんがそんなに言うとは、何方よ」

「ローレル」

 

短く放たれた言葉に少しだけ驚いた、ブライアンが此処までローレルの事を重要視している事は知らなかった。朝日杯で勝っている相手ではあるローレルだが、油断する気はないと言った所だろうか。

 

「お前がそんなに危険視するとは……サクラローレルはそこまでの実力者なのか?」

 

自分の言葉を代弁するかのように尋ねるハヤヒデ、自分に頭を下げつつもブライアンの言葉を待つと妹はローレルについての事を語り始める。

 

「実力もそうだが奴は私の研究をし続けている。全てのレースを見返して徹底的に研究し、どのタイミングで仕掛けるべきなのか、この戦法なら如何するのかを徹底的にな」

「そんなに、なのか」

「以前、奴のノートを誤ってみてしまった事がある。本人曰く、それは過去の自分の物で今の自分には適応出来ないから見られてもいいと言っていたが……此方が取ったであろう戦法を完璧にシミュレーションしていた。私もそうしたであろう全てを」

 

ランページもローレルがブライアンを最大のライバルとして見ているのは知っている、その為の資料を自分にも求められたこともあった。そしてその研究は間違いなくブライアンを脅かすものへと昇華されていた。しかもそれは、間違いなく自分が取っていたであろう戦法だった。

 

「朝日杯は運が良かった、他のウマ娘が掛かったお陰で奴の予想から少し離れた位置だった。だが……」

「次はそうはならないと言いたい訳ね」

「私の勘が間違いなければ―――奴は皐月賞を捨て石にする」

 

ブライアンの言葉に東条とハヤヒデは絶句した。一生に一度しか出られない舞台であるクラシック三戦、そのうちの初戦たる皐月賞を捨て石にすると予想したその言葉に。

 

「流石にそれは、ないのではないか!?前哨戦ならばありえなくもないが……」

「いや間違いない。だから私は常に奴の予想を上回るスピードで強くなるしかないんだ、先輩併走を頼む。アンタの強さは私の強さを鍛えるには絶好の物だ、G1想定だったな着替えてくる」

 

着替える為に一度離れていくその背中をトレーナーと姉は信じられないと言いたげな顔で見送るが、唯一先輩だけが口角を僅かに持ち上げていた。

 

「―――ランページ、貴方から見てローレルがそうする可能性はあるのかしら」

「さてね、それはローレルか南ちゃんのみが知るって所でしょ。流石に南ちゃんだってそういう情報を言うとは思えないし……個人的な話をすれば一生に一度しかない舞台でそれは勇気がいる決断だと思いますけどね」

「そう、よね……ブライアンの勘が違う事を願いたいわね」

「私も同感です」

 

二人がそういう中でランページはあの二人ならその選択は取る可能性はある、と頬をかいた。確かに勇気がある決断ではあるが―――勇気さえあればとれる選択でもあるのだ。何故ならばローレルはクラシック三冠を目指している訳ではない―――あの子が目指しているのは凱旋門の制覇、その為にもクラシックを自らの成長の為の機会として使う事は考えられるしランページにはもう一つの根拠もある。

 

「(身内にクラシックよりも悲願を取った奴を知ってるからな)」

 

メジロマックイーン、彼女はメジロの天皇賞制覇という目的に向かう為にその想定の為に向かっていた。菊花賞も京都の舞台と長距離、春の天皇賞の前哨戦にしていた。故にローレルがそうしたとしても驚かない自信はある。そしてブライアンにとって一番手強いと思わせたのは―――

 

「(自分を研究していると言いながら、自分に勝つ事は必須ではないと思われている事……だろうな)」

 

自分は世界に向かう為の経験値の一つと思っている、その一つの為にも決して努力を惜しまない。それが一番怖い所だとブライアンは思ったのだろう。このクラシック戦線、ブライアンには思った以上に苦しい1年になる事は明白だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。