貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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395話

「ハァハァハァッ……タイムは?」

「以前よりも3秒速くなってます、ですが目標タイムには0.7秒届いてませんね」

「南さんの予想通りでしたか」

「ええ、申し訳ありません」

「良いんです、私も納得してますし理解もしてます。正しい事です」

 

カノープスが練習するコース、その一角で走り終えたローレルが南坂と話をしていた。彼女は4倍のシンザン鉄を付けた上で2000mを走った、そのうえでのタイムは以前よりもずっと速くなっていたが目標のそれにはまだまだ及ばない。当初の予定通りに行動するしかない事に南坂は謝罪するが、ローレルは寧ろ予定通りに進んでいる事を喜ぶべきだと前向きな姿勢を見せた。そんな二人にドリンクが投げ渡された、投げたのはランページ。

 

「お疲れぃ、皐月賞に向けてかい」

「あっランページさん有難う御座います、そちらもお疲れ様ですブライアンちゃんのお手伝い」

「奴さん、走るたび強くなってる気がするから参っちまうよ。会長を越えられるっておハナさんが言ってるけど強ち冗談でもねぇよあれ」

 

クラシッククラスであの強さは驚くしかない、テイオーと同じ部類いやそれより一段高い逸材だと言われても自分は驚かないとお道化てみせるがローレルは当たり前だと言わんばかりの顔をしている。

 

「ブライアンちゃんですからね、あの子に勝つには並の努力じゃ足りませんね」

「本気で勝つ気があるって認識で良いのかい?」

「はい、本気で勝ちに行きます―――だけどブライアンちゃんは私の敵ではありませんから」

 

絶対に勝ちに行く程の相手だと認めておきながら敵ではないと断言するローレルに一種の寒気を覚える。ブライアンを強く意識してはいるがそれはライバルとして見ているのではない、自分がゴールに辿り着くためにはこのハードル(ブライアン)を越えられる程にならなければならないと思っているから。あのナリタブライアンをだ。

 

「んじゃ皐月賞を捨て石に使う気は満々か、ブライアンもそれに気づいてるぞ」

「ブライアンさんなら気づくでしょうが、おハナさんは半信半疑でしょうかね。何せ一生の一度の誉れのステージを捨て石に使うなんて思わないでしょうから」

「あらっ凱旋門だって普通に考えれば一生の一度の舞台って思ってもいいと思いますよ、だから気にしません」

「あららっカノープスに入ったばかりの可愛い優等生のローレルちゃんは何処に行ったんだろうねぇ」

 

根本的な所は一切変わっていない、だが心構えが変わったというか腰が据わった感じがする。どうしてこうなったかと問われればローレルはこう応える。

 

「私の目標である凱旋門を制したウマ娘、それが勝ち取った栄光を毎日見てたらこのままじゃいけないなって思ったんですよ。だから本気で目指す事にしたんです―――凱旋門を取る為に」

 

 

 

『さあ間もなく向こう正面へと入ります、ナリタブライアンはこの位置、かなりの好位置に付いておりますがその背後にピッタリとサクラローレルがマークについています!!』

 

訪れた皐月賞の舞台。1番人気を取るブライアンが筆頭、彼女が勝つだろうと思われる中で2番人気のローレル。

 

『先頭はサクラハイパーオウ、サウズオブサウズ、センターマルタ、オフサイドトラップそこから少し離れた2バ身差でナリタブライアン、そのすぐ後ろにサクラローレルが居ます。スタートしてから常にナリタブライアンの背後を付いております、これは怖い怖い体勢だ、さあ間もなく第3コーナーに入りますが此処でオフサイドトラップが仕掛けてくる!!オフサイドトラップが上がっていく上がっていく、黒沼トレーナーの教え子にしてミホノブルボンの弟子を名乗るオフサイドトラップがぐんぐんと上がって今、先頭を奪い取った。このままゴールまで一直線か』

 

「うおっしゃあああああ!!!このまま、このまま!!」

 

先頭を奪い取ったトラップ、黒沼トレーナーの下で厳しいメニューをこなしながらの脚部不安の改善メニューにも取り組んだというスパルタ指導を受け続けるウマ娘だが、その走りはキレがあった。あっという間に先頭を奪い取るとそのまま真っ先に第4コーナーを越えていく。最後の直線へ入った時、残っていた全てを全開にする。

 

「いっくぞぉっ!!」

 

『オフサイドトラップ先頭オフサイドトラップ先頭!!このまま皐月賞を取ってしまうのか!!いや、外から、外からナリタブライアンナリタブライアンが一気に上がって来たぞ!!』

 

お前の天下なんて許さないというように全力を出した瞬間に同じように本気を出すブライアン、それでも負けないと疾駆するが―――力の差が余りにも明白になる程の脚力の差が出た。

 

『ナリタブライアンが上がっていきます、オフサイドトラップ粘れ―――ないっあっという間の出来事、一瞬でナリタブライアンが先頭に立った!!オフサイドトラップも必死に追走、伸びているがナリタブライアンには全く追いつけない!!後続には差を付けているのに何だこの差は!?』

 

後方の差はどんどん開いていくのにどうして前への差は詰まらないどころか開いていくのかとトラップは理解出来なかった。間違いなく全力なのに、誰も追いつけないと思った時にそれは起きた。後方のバ群から一気に飛びだしたそれは一瞬で自分を追い抜いてブライアンへと迫っていった。それを感じ取ったブライアンは直感した、全力を出さなければ負けると。

 

『バッ、バ群から飛び出したのはサクラだ!!サクラが舞った、サクラローレルが一気に上がっていく!オフサイドトラップを抜いて今2番手!!ナリタブライアンに迫っていく!!200を切った、サクラローレルがぐんぐんと迫っていく、残り3バ身!!ナリタブライアン粘れるか、差がどんどん迫っていくぞ!!残り2バ身、1バ身!!だがナリタブライアンはそれを振り切って、今ゴール!!ナリタブライアン、皐月賞を制したのはナリタブライアン!!2着にサクラローレル、3着にオフサイドトラップ!!これがリギルの新星、ナリタブライアンだ!!』

 

爆弾が炸裂ような爆音の歓声が上がる中でブライアンは呼吸を整えながらもローレルの方を見た―――だが彼女の息は自分ほど上がっていなかった。そして自分が見ている事に気づくと頭を下げてからスタンドに手を振りながら歩きだしていった。

 

「成程ね……成程成程―――フフッ」

 

ブライアンは熱い闘争の中に居たのに身体の中が冷えるような感覚を味わった。ローレルの笑いはまるで自分の力を把握したかのような自信に満ちていた、矢張り彼女は皐月賞を捨て石に使った……しかも最後の最後に自分が本気を出すように本気で追い上げて来たんだ……その為だけに、自分に本気を出させる為だけにマークをしラストにスパートを掛けて来た……

 

「奴のゴールは……一体どこだ」

 

 

「次はダービーね、凱旋門と同じだからちゃんとやって出来上がりを確かめなきゃ」

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