貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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397話

凱旋門、世界最高峰のレースにして芝レースにおける世界最強決定戦、そう言っても過言ではない程の一大レース。そんなレースを制したウマ娘は文字通りに歴史に名を刻み込んで讃えられる。そんな舞台を日本で唯一制したのが独裁暴君たるメジロランページ、しかも史上最悪と形容されるような不良バ場でワールドレコードを叩き出しての勝利。現状におけるウマ娘で間違いなく世界最速最強の名を冠するに相応しい怪物。

 

「つっても、今の俺は確実に全盛期(ピ-ク)過ぎてるんだよな。肉体と技術は別としてもどうしても精神をあの時にまで逆行させられねぇんだよなぁ……良くも悪くも俺は周囲の環境ありきでモチベーションを盛り上げるからなぁ……」

「つまりフローラさん達がいたからこそ、だと?」

「だと思うぜ、俺一強の時代だったら確実に俺は世界で通用する器じゃなかっただろうな。そういう意味ではお前と俺は似てるな、ライバルに事欠くことはない」

 

部室で珈琲とお茶請けとして桜ケーキを出しながら話に勤しむランページ、相手はローレル。改めて凱旋門の話を聞きたいと言って来たのである。

 

「ブライアンの事もそうだが、アマちゃんにドラランだってそうだ。まああの二人とは当たる事は無いだろうけど……まあいいか、ンでお前はマジでクラシッククラスで凱旋門を狙う気はあるのか?」

「あります」

 

あっさりと断言しよったとこいつ……と溜息を吐きたくなった。ハッキリ言ってクラシッククラスで凱旋門は色々と厳しいとは思う、まだまだ成長する余地があるのだから確りと準備をして臨むべきだと思うし海外の適性や凱旋門の地であるロンシャンレース場に適応出来るかという様々な問題もある。

 

「だから私はダービーを勝ちます、その為にランページさんにご協力してほしいんです」

「具体的に俺に何をしろと?ぶっちゃけ一緒に遠征してくれってのはムズいぞ、今年はマヤがデビューするしあいつにとってデビューするのにトレーナー不在じゃ不安だろうしあいつにもあいつの目指したい目標がある」

「いえ、私と走ってください。その中で私が勝手に見つけます」

 

併走ぐらいならば幾らでもやってやるが……と言おうとしたときにローレルがその先の言葉を遮った。

 

「ランページ鉄を装備した状態で勝負服、今出せる全力を出してほしいんです」

「―――ほう?」

 

併走とは、文字通りに合わせて走る事だ。お互いの実力を把握するための練習方法の一つであり、本気で走る事はしない。言うなればアップのそれに近い、だがローレルが望むそれはその域を遥かに超過している。最早真剣勝負を挑んでいるに等しい。

 

「南坂さんの予定では来年以降の凱旋門挑戦になると思います、だけど私はもっともっと強くなりたい。ブライアンちゃんに勝ちたい、それが私が目指す強さの最低条件です」

「あのブライアンが最低条件ねぇ……贅沢な事言いやがって」

 

ライバル視しながらも、ライバルと認めているのにライバルとして扱わない、そんなローレルに笑いが込み上げてくる。面白いじゃないか、本気でそうしたいなら本気でそうしてやる事にしよう。

 

「だが覚悟しとけ、お前が歩こうとしているのはマジの地獄だからな」

「私にとっての地獄は凱旋門に挑戦出来ずに終わる事です」

「ハッ言うねぇ……おう、表出ろ。久々にガチで走ってやんよ」

 

 

「さてと、そろそろ……おやっ?」

 

南坂は職員室で資料を纏め終わるとカノープスの部室に向っていた。そんな時にレース場の方が不思議と気になった、まるで虫の知らせだ。何事かと思いながらそちらへと行く……そこには倒れ伏して荒い息のままで焦点が定まらない瞳を作っているローレルとそれを見下ろすかのようにしながらも水分補給をしているランページの姿があった。

 

「これはこれは、何事ですかランページさん。随分と本気で相手をしたと見受けますが」

「まあな、ローレルがガチで走って欲しいって言ってきたからガチのマジで走ってやったまでの話よ」

「だからってこんななります?」

「それはローレルの戦術のせいだな、俺の大逃げにスリップストリームし続けたんだから」

「それはまた、無茶をしましたね……」

 

普通に考えればスリップストリームは悪くない手段だ、空気抵抗を減らして体力と速度を維持出来る。だがランページにそれは余りにも無謀、基本大逃げばかりのランページにそれをやってもオーバースピードし続けて体力を消耗し続けるだけ、他に走る相手が居て、その相手が一般的な逃げのペースでそれに対してスリップストリームをするのであればいい手段ではあるのだが……。

 

「だけどラスト200までスリップストリームし続けたんだぜ?根性で付いてきたとはいえ大したもんよ」

「―――200、ですか。ランページさんの大逃げにそれが出来たなら、それは確かに凄いですが、因みに距離は」

「2400」

 

言わずと知れたランページの最強の領域、それにそこまで着いて行ったという事なのか……それは大したものではあるがレース後にここまで憔悴しているという事は自分の実力を明らかに超過した走りをし続けたという事。全くそれは褒められたことじゃない、事ではないのだが―――

 

「流石ですね、一つ殻を破ったという事ですか」

「予定通り、だったって事かいローレルがこうするのを」

「ええ。クラシックで凱旋門を取る為には身体能力や技術も必要ですが、精神的な強さも必要です。ローレルさんはその精神面がどうしても物足りなかったんですよ、目の前のレースに対する気持ちが」

 

凱旋門を目標にして皐月やダービーを叩き台にするのはいい、それは自分も良いとは思うが―――敗北を気にしない、というのは宜しくない。実力を計る為だとしても、それを乗り越えてやる位の意気込みが欲しい。レースは生き物だ、どんな緻密な計算をしたとしても思い通りに成せる訳ではない。

 

「幸運と精神、不確定で不安と言われるそれらを考慮した上の計画こそが完璧と言えるんですよ」

「ラッキーパンチは祈るもんじゃない、狙って出すもんだって事かい」

「そういう事です。次のダービーでそれを成します―――ローレルさん、生憎貴方はこれから厳しいメニューを組みますのでお覚悟を」

 

恐らく起きているであろうローレルに対して南坂は静かに告げる、だがそれに対してローレルは笑って答えた。それを見て満足げに笑いながら今度はランページを見る。

 

「という訳ですので、これからもローレルさんと走って貰えませんか?」

「ヘイヘイ、分かりましたよ……ホント南ちゃんって怖いねぇ」

「恐れ入ります、この場合は恐れられ入りますでしょうか」

 

静かに微笑を浮かべるその姿は奇妙なほどに寒気を覚えてしまった。自分の現役時代は敵陣営はこれを常に味わっていたと思うと同情の念しかない。

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