間もなくオークス、ダービーが迫ろうとしているこの頃合。話題に上がるのはダービーを取るのは誰か、オークスを取るのは誰かという事ばかり。矢張り皐月賞ウマ娘のナリタブライアンか、そんな彼女を差し切る寸前まで追い込んだサクラローレルか、それともオフサイドトラップか桜花賞を制したドラグーンランスが女王となるか、それともオグリローマンか、はたまたヒシアマゾンかと様々な予想や評論が飛び交って人々は熱くなっている中でもう一つ世間を熱くしている話題があった。
『メジロランページ、担当チームプレアデス。新人デビュー』
『独裁暴君の教え子は如何なる』
『問われる暴君のトレーナーとしての才』
『マヤノトップガン、その名の通りのトップガンとなれるか』
プレアデスのマヤについての事だった。ランページの事もあるが、まだトレーナーとして2年目なのにも拘らずチームトレーナーに就任して既に11人というウマ娘を指導する立場になっている事も世間を熱くした。既にメンバーはランページチルドレンと言われており、次代を担う存在になるのではないかという期待を持たれている。それと同時に名選手は名監督になり得ないとトレーナーとしての実力を疑問視する声も根深い。故に、マヤのデビューは唯のデビューという意味合いでは収まらなくなっているのである。
「という訳でマヤ、お前さんは予定通りに6月にメイクデビューだ」
「という事は―――マヤはランページさんのテストに合格って事!?」
「YES.よく頑張ったな」
「やった~!!」
部室でそれを伝えるとマヤは手放しで大喜びだった。元々早めにデビューをさせて経験を積ませる方向性の予定だったので6月にするつもりではあったが、仕上がり次第では遅らせる予定だったのだが……流石は天才マヤ、自分の想像を超えるスピードで見事に成長してくれたので6月にデビューさせることに決定。
「メイクデビューは芝の2000だ。最初は短めも考えたがマヤヤは中長距離向きだからな、デビューとしては長めだが行けるか?」
「行けるかじゃなくて行けっ!!でいいよ!!マヤは走るだけだもん!!」
「お~元気なこって、んじゃ今のうちに言っておくが―――」
「うん大丈夫!!マヤね、ランページさんのウマ娘として絶対に頑張るから!!」
釘を刺すつもりが如何やら既に理解しているらしい、自分のデビューにどんな意味があるのかを。
「悪いな、世間は俺のチームの一番手だからって無駄に騒いでやがる。これで俺のトレーナーの才が如何たらこうたらまだ自称有識者が宣うのかねぇ……」
「大丈夫っマヤ頑張るから!!強い風は、突っ切って切り裂いちゃえばいいんだもん!!それに強い風って使い方一つで動きを助けてくれる追い風にもなるってパパが言ったの、マヤもそれをやるよ」
「パイロットの直伝か、こりゃ頼るになるお言葉だな」
「ふふ~ん!!」
と誇らしげに胸を張る、可愛いので撫でてやる。大人のレディを目指すと言っておきながら撫でられるとえへへ~♪という甘く心地よさそうな声と揺れる尻尾がどうしようもない幼さを演出する。
「折角だ、今の内から勝負服のデザインでも考えるか」
「えっもう!?良いの、良いの!!?」
「元々出すつもりだからな、距離を考えるとホープフルステークスが妥当か……その気、あるだろ?」
「もっちろん!!やっぱりランページさんって話が通じるよね~!!先生もランページさんみたいにマヤの事分かってくれたらいいのに~」
そう言えば偶にマヤについて先生から相談を受けた事があった。マヤノさんは成績は良いのだが、授業がつまらないからと言って居眠りばかりしている。かと言って問題を出しても簡単に正解してしまうので良い手は無いだろうか……と言われても自分はマヤにはちゃんと授業を受けるんだぞ、位しか言えない。それでも一応効果はあるらしく、マヤは真面目に授業を受ける事もあった。
『だって、ランページさんに迷惑かけちゃったのがマヤいやなんだもん……』
何とも可愛い理由だ、兎も角マヤが授業で居眠りする事はかなり減った。それでも態度はよくはないらしいが……。
「あっそうだ、この前ね、トレーナーちゃんに会いに行ったの」
「そのトレーナーちゃんっつうのは……前のトレーナーか?」
「うん、もう大丈夫そうだけどまだまだリハビリは必要なんだって」
元々マヤを担当していたトレーナー、事故にあったが現在はかなり良くなっているらしい。それでもまだまだリハビリは必要ではあるらしいが……元気そうである事を聞けて少しばかりホッとする。
「ンで何か話したか?」
「えっとね、マヤがトゥインクルシリーズに無事デビュー出来そうで本当に安心したって言ってた。ランページさんにマヤの事をよろしくお願いしますって伝えてって言われたよ」
「言われるまでもねぇけど……本当に優しい人だな」
「うん、マヤと何回もデートしてくれたりもしたんだよ」
本当なら自分がマヤのトレーナーとしてその役目を果たしたかったに違いないのに、マヤ程のウマ娘と何処まで行けるか試したかったに違いない。それなのにマヤの事と自分への応援まで……これは自分も本当に頑張らなければならないなと気持ちを入れる。
「マヤ、俺の事とか周りがとやかく騒ぐのは気にするな。お前はお前らしく走ればいい、バカ共が騒ぐなら俺が黙らせる―――出走規定は唯一つ」
「走り切れ、だね。大丈夫マヤは絶対にランページさんの所に帰ってくるから!!」
「その意気だ―――さて、まずは将来のライバルの偵察にでも行こうか」
そう言いながらも歩き出すランページの手をマヤは自然と取って一緒に歩きだし始めた。そんな二人の様子はまるで親子にも姉妹にも見える。楽し気で明るいそれは見ていて微笑ましい物であった―――
「っ!?」
「如何したのランページさん?」
「なんか、背後から邪気が……」
「あっぶねぇ鼻血出しながら見てるのがバレる所だった……ティッシュ詰めなきゃ」