貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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406話

遂に始まる日本ダービー。ライアンのダービー、テイオーとネイチャのダービー、ブルボンとライスのダービー、チケットとハヤヒデとタイシンのダービーを見届けて来たランページは矢張りダービーという物は特別なんだなという物を肌で感じている。オークスがダービーよりも格落ち扱いされている事が若干不満があるが為に不満を口にしたが、間近になると矢張り違う物がある事を認識せざるを得ないのだから困ったものだ。

 

「よく見ておけよ、この世代の頂点が生まれる瞬間を……どんな結末になろうともな」

 

その言葉にプレアデスの面々は思わず喉を鳴らしながらも視線をそちらへと動かした。ゲートインも完了し間もなく出走しようという時、今か、まだか、様々な思いが揺れ動く中でもう間もなくだ―――そんな時にゲートが開いた。

 

『さあ第61回日本ダービーの幕が今開きました!!出遅れは有りません、さあナリタブライアンは先頭集団に向かいますが既に先頭集団を越えて先頭に立ったウマ娘がいるぞ!?これはっ……カノープス、カノープスのサクラローレル!!サクラローレルが先頭に立っています、これは一人だけ走りが違うと言っても過言ではありません。大逃げっ大逃げの態勢を作っているぞサクラローレル!!聞こえるでしょうかレース場からは驚きと戸惑いの声がどよめきとなっております!!』

 

ポン、と一人だけ飛び出したローレルがあっという間に先頭に立って残った17人を引き連れて第一コーナーをカーブしていく。これまでサクラローレルが逃げを打った事はない、ダービーで初となる逃げ、しかも大逃げを打って先行逃げ切りを狙うなんて無謀すぎる、無謀すぎるのだが―――ここは東京レース場、芝、2400。この条件がそろう中での大逃げは誰しもがあのウマ娘の大逃げを連想せざるを得なかった。

 

『サクラローレル先頭、サクラローレルが先頭です!!続いてオフサイドトラップ、アイネスクロウラー、ワイバーンロアー、ですが既にサクラローレルは10バ身以上も先にいる。正しく一人旅、サクラローレルの一人旅であります!!注目の皐月賞ウマ娘ナリタブライアンは中団に控えております。だがサクラローレルのこの大逃げ、そしてこの舞台、誰もが連想せざるを得ません。同じチームカノープスに所属しながら同じくクラシッククラスで世界を相手取って大逃げでワールドレコードを叩き出したあの暴君の姿がっサクラローレルに重なっております!!』

 

独裁暴君、メジロランページ。ジャパンカップで見せたワールドレコードの大逃げ、そしてレジェンドレース中距離での大逃げ。その記憶が鮮明に焼き付いている者としては意識せざるを得ない。しかも同じチームカノープス、誰もがまさかメジロランページと同じことをする気なのか。ありうる、同じチームカノープスであった彼女にならば南坂は出来るだろうし何だったらランページに直接師事だって受けられるのだから。

 

『さあ向こう正面に入ろうという所で後方からどんどんウマ娘が上がっていくぞ!!?』

『これはサクラローレルの走りにメジロランページの走りを見てしまって自分のペースを見失ってますねぇ……まあ無茶を言うなって話ではありますが、これも彼女とトレーナーである南坂トレーナーの策略なのかもしれませんね』

 

同じチームだった者が同じことをすれば嫌でもフラッシュバックするランページの走り、それを利用して揺さぶりを掛けて来たと考えるだろう。

 

「考えなくは有りませんでしたけど、それはそっちが勝手に思った事ですし私は唯ローレルさんに緊張せずに行きましょう位しか言ってませんよ」

 

肝心の南坂は解説に対して好き勝手言ってくれるなぁ位しか思っていない、人を勝手に人を操って破滅させる悪魔みたいな言い回しだったことが気になった。強いて言えば自分は暴君の側近だよ、といいたくなった。だがまあ、正直に思えばローレルが大逃げを打つのは予測出来た、良くも悪くもランページとの走り込みが影響してしまったのだろう。流石に走られ過ぎたと反省気味。

 

「持つか持たないかで言えばローレルは持つだろうな2400のゴールまで。元々ローレルは体力型だしスタミナの使い方が上手いからターボのそれよりもずっと長持ちがする大逃げが出来る、スズカよく見ておいた方が良いぞ。ローレルは身体の使い方が上手いから参考になるぞ」

「はいっ」

 

同じく大逃げになる予定のスズカにもよく見ておくようにと言っておく。それ程にまでにローレルは身体の使い方が上手い、操縦性が良いというべきか、身体を完全に操り切れている為か無駄なロスが他のウマ娘と比べるとかなり少ない。普通のウマ娘が走って出るロスは20~30、ローレルの場合は10~15と半分程しかない。なので大逃げでも体力の消費は自分やターボと比較しても少なくて済む。

 

ターボの大逃げが最初から出力100、自分が80~90だとすればローレルは70~90の幅広い範囲で対応出来る。これは幻惑にも使えるので想像以上にローレルが大逃げを取った場合のアドバンテージはデカい。

 

「トラップの走りも見事だが、こりゃ序盤の飛び出しがデカいな……このまま逃げ切れる―――」

 

『こ、此処でナリタブライアン!!ナリタブライアンが一気に上がってきた!!』

 

「訳がねぇよな、さあ見せて見ろよ後輩」

 

 

これまで多くの走りを見て来た。自分との実力差を計るような走り、全力で自分を倒しに来た走り、自分を観察しながらも自分の実力を確認するような走り、今度はメジロランページの走りかと思わず思う自分が居た。その走りならば自分が勝てないと思っているのか、それともそれも目指すべきゴールにたどり着くための下準備に過ぎないのか。様々な思いが自分の中を廻っている、

 

「(お前は私を見ない、だが―――私はお前を見ているんだぞ。お前はもう、そこに居るつもりか、なぁっサクラローレル……ならば貴様のいる所まで―――)私がっ……上がってみせる!!」

 

刹那、ブライアンの表情が変化した。瞳に炎が、シャドーロールから黒いオーラが漏れ出す。それらを纏ったままブライアンは一気に上がっていく。第3コーナーを回って第4コーナーへと向かう最中、突如としてブライアンの走りは段違いに加速し始めたのだ。

 

「この感じ……ブライアンちゃんっ……!?」

「私と、戦えっ!!ローレル!!!」

 

先頭を走り続けていたローレル、最早絶望的とも言ってよかった筈の間をブライアンは完全にローレルを捉えるまでに迫っていた。此処まで圧倒的なのかと言葉を漏らしたくなるほどにブライアンの走りは凄まじかった。たった一人のウマ娘に自らの走りを認めさせる、唯それだけの為に此処までをする。その時に―――ローレルの顔は驚きから笑いへと変貌し、そしてブライアンの走りと並び始めた。

 

『さあ最後の直線だ、ナリタブライアンが一気にサクラローレルを抜きに掛か――いや並んでいる!!並んでいる並んでいるぞ!!サクラローレルがナリタブライアンに並んでいる!!ここまで大逃げをし続けていたのにまだ余力があるというのか!?恐るべしサクラローレル、恐るべきカノープス!!ナリタブライアンサクラローレルを抜き切れない、このままいくのか!?後方からはオフサイドトラップが上がってきているぞ!!オフサイドトラップ、残り3バ身詰め切れるか!!!?』

 

「ローレルゥ!!」

「ブライアンちゃん……っ!!」

 

此処まで独走し続けていたブライアンの走りを見て、ローレルの走りも変わった。まだ余力は残っている、まだ最後のスパートを掛けられるだけの力はある。ならばするしかない、とこの時はそう思った。そして―――ローレルはこの時にブライアンだけを見ていた。

 

「負けて堪るかぁぁ!!!」

「私のっ……セリフだぁぁぁぁ!!!!」

 

『さあナリタブライアンが伸びる伸びる、だがサクラローレルも伸びてきているぞ!?両者ともに行く、突き抜けていくっ!!第61回日本ダービー、この栄冠をつかむのは元祖最強チームリギルのナリタブライアンか!?カノープスのサクラローレルか!!?譲らない譲らない!!両者ともにこのウマ娘だけには譲らないと言いたげな形相であります!!さあもうゴールは後僅か、ダービーを制覇するのは何方だ何方だ。オフサイドトラップも猛追、するがこの二人にはついていけないのか!?強い、本当にこの二人は強いぞ!!此処まで強いのか!?サクラとナリタ、今ッゴールイン!!!!これは何方だ、何方が勝った!!?三着にオフサイドトラップ、四着にエアスリーズ、五着にヤシマポジトロン。第61回日本ダービーの決着は―――写真判定!!今年のダービーの決着は矢張り写真判定、それほどまでに際どい争いでありました!!』

 

「がっは……ぐっごほごほ……」

「ハァハァハァ……」

 

互いに死力を尽くし果たしたと言わんばかりに、膝をついて全身で息をする二人。本当に最早二人の世界とも言えてしまう程に激しいレース展開だった、最早入る隙間などない―――

 

「ブーちゃん大丈夫!?深呼吸して深呼吸!!吸って、吐いて~吸って~吐いて~」

 

と思った居た所に最後方に居た為にローレルに引っ張られずにペースを守っていたので9着にゴールしたサムソンビッグがブライアンの背中をさすりながらゆっくりと息をするように促している。

 

「はい吸って~」

「……もう大丈夫だ、すまない」

「ブーちゃん凄い走りだったよ!!もう追いつけない位に、まあそもそも私9着何だけどね~」

「ふっ前回よりも随分と順位を上げたじゃないか」

「えへへ~そうでもないよ~」

 

照れるサムソンにブライアンは平常心で話せていた、そして目の前に居るローレルが此方を見ている事に気づくと自分はそれを見つめ返した。それは―――写真判定による結果が出るまで続いた。そして―――その時はきた。

 

『第61回日本ダービーを制したのは―――ど、同着!?同着同着です!!ナリタブライアン、サクラローレル共に日本ダービー制覇です!!しかもこのタイムは―――2:23.7!!!ミホノブルボンが達成したレコードを0.8秒も縮めたレコードタイムでの決着です!!無敗の二冠の誕生ともう一人のダービーウマ娘の誕生です!!トウカイテイオー、ナイスネイチャ以来の快挙の達成です!!』

 

ダービー同着、レース場は沸いているがブライアンは少しだけ不満げな顔をしていた。これで決着がつけられると思っていたのに……と言いたげな顔をしていたが、ローレルから差し出された手を見て、少しだけ目を丸くしつつもそれを取って立ち上がる。

 

「おめでとうございますブライアンちゃん、勝つつもりだったのに引き分けでしたね」

「此方の台詞だ」

 

そう言い切ると、肩から力抜いて笑って言った。

 

「菊花賞では負けんぞ」

「フフフッあんな走りをしたばかりなのに元気ですね」

 

他愛もない話をするが、ブライアンは菊花賞で今度こそ勝利を収める、今度こそリベンジだと意気込んでいた……

 

「私、サクラローレルは凱旋門賞に挑戦します。なので菊花賞には出走しません」

 

サクラローレルによる凱旋門賞挑戦、それをインタビューで耳にするまでは。

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