ローレルの凱旋門挑戦、ブライアンの無敗三冠宣言。日本ダービーの舞台で二つの爆弾的な事が起きた事で日本はいまだ熱狂の中にあり続けている。クラシックでの凱旋門挑戦など無謀すぎるという声もあるが、唯一凱旋門を制覇したランページの後輩たるローレルならばと、世間では様々な反応があり自称有識者も偉そうに持論を並べる中で世間はそれらにあまり反応を示す事は無かった。何故ならばもっと聞くべき存在がいるだろう!?という声が大多数だったからである。
実際凱旋門を制した独裁暴君たるメジロランページ、海外遠征時には代理トレーナーを務めたスピードシンボリ。この二人に焦点が当たっている。と言ってもスピードシンボリなんて名家の相談役に簡単にアポなんて取れる訳もない。当然、その目標を向けられるのは―――ランページとなった。と言ってもランページもランページで基本的に取材を受ける相手は限定してしまっているので真正面から挑んだとしても応える訳もない、ならばと誰しもが考える事があった……そう、マヤノトップガンのメイクデビューである。
6月。ウマ娘のメイクデビューが始まるこの季節、梅雨という事もあって今日は小雨が朝から降り続けている事もあって重バ場となっている京都レース場、今日ここで行われる芝2000mのメイクデビューに出走するのがメジロランページが監督するチームプレアデスに所属するマヤノトップガン。当然その場に姿を見せているメジロランページだが……
「メジロランページさん日本ダービーの舞台でサクラローレルさんが発表した凱旋門挑戦について一言!」
「是非一言お願いします!!」
「彼女の挑戦は無謀ではないのでしょうか!?」
「貴方がトレーナーとして共に海外に挑むという噂もありますが!!?」
当然こうなる。南坂には前以て謝られたがこうなると顔が歪みそうになる。周囲への迷惑なんて知らないと言わんばかりに此方にカメラとマイクを向けて自分勝手にふるまうそれらにランページは全く別の事を考えていた。
「(芝状態は重、天気は雨か……まあ6月なんてこんなもんか、まあ心配する事はねぇだろうが……)」
「あのっいい加減にコメントをっ!!」
「うるせぇんだよテメェらよぉ!!!」
痺れを切らした一人の記者が声を荒げた所にそれを上回るランページの怒声が放たれた、突然の怒声に記者たちは驚いて後退りした。掛けていたサングラスを外すとそこには鋭くなった瞳と明らかに怒ってますと言いたげな程に立った青筋が額に浮き上がっていた。
「テメェらは一体此処に何しに来てんだ、俺はマヤのデビュー戦の為に此処に来てんだよ。此処に来ている観客の皆様方だってレースを見に来てんだよ。テメェらがギャアギャア好き勝手に騒いでいい場所じゃねぇんだよ、その程度も分からねぇのか、当たり前のマナーもねぇから取材受けねぇんだよ!!テメェらの会社は全部覚えた、後で俺の配信でその名前晒上げてやるから覚悟しとけ」
そしていう事を全てを吐き出すと再びサングラスをかけたランページ、圧倒される記者陣だが直ぐに負けじと前に出ようとするのだが周囲一人が後ろから押された。
「何をする……っ……!?」
振り返って文句を言おうとした時に彼は気付いた。周囲から降り注がれる白い目に、此方を観つつひそひそ話、中にはスマホを向けている者までいる。彼らはこの場の空気に気づいたのかレースを見ることなくレース場を後にしていった。それを見届けながらランページはサングラスを外しながら言った。
「皆様、ご迷惑をおかけしました。あれらについては私の方で確りとした対応をさせて頂きますので、この場はご容赦ください。私はマヤノトップガンのトレーナーとして此処に来ております」
頭を下げるが彼女を責める声は一つもなく、寧ろ気にしないで欲しいやカッコよかった!!という声援が聞こえて来た。ウマ娘のトレーナーが担当ウマ娘のデビューを見守るのは当然の事、悪いのは彼方側だったのだ。会場は完全にランページの味方に付いていた、そしてみんなでレースを楽しもうとランページが締めくくった辺りで隣に一人の男性が松葉杖を突きながら立った。
「相変わらずだね、僕には出来そうにないよ」
少しだけ疲れている表情を浮かべている男性にランページは見覚えがあったどころではなかった、是非とも今日この場所に来てほしかった人だったが……本当に来てくれるなんて思わなかった。
「来てくれたんですね」
「そりゃもう、マヤのデビュー戦なんて見たいに決まってるからね。先生にも許可を貰って来たよ」
「態々有難う御座います―――坂原トレーナー」
隣に居る人物は坂原トレーナー、元々マヤのトレーナーとして共にトゥインクルシリーズを駆け抜ける筈だった人物。マヤの素質を見抜いてスカウトし、共に頑張っていこうという所で事故に合ってしまって長期の入院とリハビリを余儀なくされてしまった。
「ランページさんには感謝しかないよ、彼女をデビューまで指導して貰って……大変だったでしょ。あの子、凄い天才なんだけど飽きっぽくてさ」
「一回で分かってくれましたから結構楽でしたよ、だったら一回で分かっても出来ないメニューを組んでやればいいんですよ。一回で出来ない悔しさから自分からやる気になってああすればいいのか、こうすればいいのかなって思案しつつ相談までしてくれるから」
「ハハッあの子をそうさせるメニューを組めるなんて凄いなぁ」
坂原トレーナーの顔には暗い感情は全くなかった、寧ろ感謝の念しか浮かべていなかった。
「本当に、本当に感謝してるんだよ。本当なら僕がマヤの為に頑張らないといけないのにそれを押し付けちゃった形になっちゃったからさ」
「俺の苦労なんて別に……それより本当に良かったんですか俺が彼女の担当になって」
「うんそれがあの子の為だからね」
坂原トレーナーの顔に迷いや後悔なんて物は微塵もなかった。あの子を自分で育てられたらなんてものは一切なかった、寧ろあったのは……無事にマヤがデビュー出来る事への喜びだった。
「ランページさんマヤ頑張る……あっトレーナーちゃ~ん!!」
地下バ道から出て来たマヤは自分を見つけると手を振るのだが、隣を指さしやると直ぐに破顔して此方に駆け寄ってきた。坂原トレーナーが自分のデビューを見に来てくれたと分かると弾んだ声と笑顔になった。
「来てくれたの~!?」
「ああ、ランページさんが招待してくれてね。流石にメジロ家のリムジンが来た時は吃驚しちゃったけどね」
「いやぁっ身体の負担とか考えたらしっかりした方が良いと思ってさ」
「やったっやったっ!!ランページさんありがと~!!」
坂原トレーナーの前で走れるという事が嬉しいのかマヤは益々精神的に完成していく、そんな彼女を見て坂原トレーナーは真面目な顔で言った。
「マヤ、僕が怪我をしたせいで君には不安を掛けたと思う。ちゃんとデビュー出来るのか本当に怖かったと思う、だけど君はこうしてメイクデビューの舞台に確りと立っている。僕はこれから君の最初のファンとして応援し続けるから僕に見せてね―――キラキラなウマ娘になる所を」
「うんっ任せて!!ねえねえランページさんあれやろうよ!」
「応、あれだな」
あれ?と坂原トレーナーが首をかしげる中で咳ばらいをしつつ、言う。
「マヤノトップガン、君に与える出走規定は唯一つ」
「出走規定は唯一つ―――走り切れ、マヤノトップガン出撃します!!」
そういうとマヤはステップを踏んでからターン、そしてウィンクをしてからゲートへと走っていった。そんな二人のやり取りを見て思わず笑いが込み上げて来た。
「本当に仲が良いんだね、本当に安心したよ」
「後はアンタが元気になってくれればマヤは最強だな」
「おっと、リハビリは結構辛いんだけど頑張る理由が増えちゃったね」
『さあ直線コースに入った所で先頭はっここでマヤノトップガン!!マヤノトップガンが一気に先頭に躍り出た!!直線に入った瞬間、マークが緩んだ隙を見逃すことなく一気に抜け出して先頭に立ったぞマヤノトップガン!!』
マヤはプレアデスの所属という事もあって1番人気、そしてメイクデビューにも拘らずマークを受けていた。だがそのマークはハッキリ言ってお粗末、全員がデビューしたばかりなのだから当然と言えば当然だが、マヤはじっと我慢し続けていた。そしてマークが崩れる決定的な瞬間、コーナーから直線へと移り変わりの瞬間に小柄な体も利用した完璧な走りでマークを振り切った。
「アフターバーナー点火、マヤノトップガンッ行っちゃうよ~!!!」
『マヤノトップガン、凄い末脚だ!!オーブジュエル、マスカレードアイ、キャッスルネオ必死に追いかけるが、これは物が違い過ぎる!!』
「「「む、無理ぃ~!!!」」」
「ギュ~ンギュンギュ~ン!!!」
『これは圧倒的だ!!マヤノトップガン、これがメジロランページが率いるプレアデスのスタートか!?マヤノトップガン、そのままゴールイン!!マヤノトップガン見事メイクデビューを勝利しました、ですがこれは余りにも圧倒的だ!!?2着のオーブジュエルとの差は10バ身以上!!正しく大差、圧勝、鮮烈なデビューを飾ったぞマヤノトップガン!!!』
「やったっ~!!トレーナーちゃ~ん見ててくれた~!?マヤ、やったよ~!!」
無邪気に喜ぶ彼女、だがまだまだその実力は発揮されつくしてなどはいない。これから先はまだまだ秘めているぞと言わんばかりの圧勝劇に京都レース場は熱狂した。トゥインクルシリーズはまだまだ熱くなっていく事を予感させる超新星マヤノトップガンの登場に。
「凄いなぁ本当に……僕も頑張らないとな」
「メジロのいい病院紹介してやるよ、俺の主治医は人の治療の面でも超一流だぜ」
「ハハッうんありがとう―――よしっ頑張ろう!!」