貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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410話

「相変わらずね、本当に炎上なんかを恐れないんだから」

「だって俺は悪い事してないですもん」

 

ランページを見ながらその手に新聞を携えた東条トレーナーが問いかける。その新聞にはプレアデスの新星、マヤノトップガンという見出しと出版社とTV局各位が謝罪会見を開いたというのが乗っていた。如何やらデビュー戦のあれこれが噴出したらしい。実際ランページは悪い事はしていない、確かに配信でマヤのデビュー戦時に迷惑を掛けて来た取材陣の会社は明かしたりはしたけど。

 

「ジェニュインの方は良いんで?フジの奴と同期だしかち合うでしょ」

「ええ。私の方でもかなりしっかりと話はさせて貰ったのだけど、お互いにクラシック路線を譲る気はないらしいわ。やれやれ……普通はこういうのを避けるものなんだけどね」

「ウチは避けませんけど、俺はバチバチとイクノとやりあってましたし」

「それは貴方がカノープスっていう特殊な環境出身なせい……待ちなさい、貴方まさかスズカ達の世代もそのつもりなの?」

「勿論」

 

思わずその言葉に流石の東条トレーナー様も溜息を漏らさずにはいられなかった。同時に腕から新聞の一部が零れ落ちた、そこにはビワハヤヒデ宝塚記念レコード勝利!と書かれている。流石は歴代最強馬とも推す者も多いハヤヒデだ。

 

「確かドーベルはティアラ路線だった筈、だとしても4人を同時にクラシック路線に突っ込む気?貴方、担当ウマ娘の負担もそうだけど自分への負担の事全くと言っていい程考慮してないでしょ」

「してますよこれでも、十二分に対処可能だと判断いたしました」

「貴方ねぇ……」

 

普通に考えればランページのそれは信じられない事だ、同じチームだとしてもぶつかるのはシニアクラスからというのが基本。だがそれをガン無視していくランページの行いはある意味でカノープスのそれらを越えている。カノープスのそれはあくまでランページとイクノ、ライスとタンホイザ、ドラランとアマゾンと少数。

 

「いいじゃないですか、仲間だと認めながらライバルだと認めて全力で乗り越えようとする。南ちゃんも言ってましたぜ、素晴らしい仲間がライバルである事は宝だって」

「それはそうだろうけど……貴方のやろうとしている事は蟲毒に近いそれよ」

「蟲毒なんかじゃありませんよ。仲間ですからね」

 

おハナはこれ以上ランページには何を言っても無駄だという事だけは良く理解出来た。まあ本人がそれを納得しているなら別チームとしてはトレーナーに負担が掛かろうが此方に迷惑が掛かろうが知った事ではないし、それでライバルが減るならば助かる程だ。

 

「忠告はしておいたからね」

 

だが問題なのはそれを乗り越えてしまった場合、それこそランページなんてその典型例で最大且つ自分にとっての天敵と言ってもいいイクノと共に練習しレースに臨んできた。自らの天敵に自分の全てを見せていた中で生涯無敗を貫き通した文字通りの怪物、それを今度は自分の教え子でやろうとしている……一体誰がどれだけ化けてどの位の成長を遂げるのかの予想がつかない。

 

「あの子は本気ね、本気で―――勝つ気でいる」

 

 

「苦労なんて俺のあれこれに比べたら軽いもんさ」

 

おハナさんも分かってないなぁ、と呟きながらもハーブシガーを銜える。確かに大変なのは目に見えている、手続きが大変というのもあるがそれ以上に一人一人のメニューを組むのが困難になる。何せライバルが同じチームであるからこその苦労も存在する、こう言った場合に最も大変なのが私情を入れない事。同じチームであったとしても好みや相性によって贔屓してしまうウマ娘というのはいるので、そのウマ娘を勝たせる為の戦略を習得させるメニューを組ませがちだと南坂から聞いた。だがそれについての必勝法は既に構築済みなのである。

 

「全員勝たせるつもりで行く、これしかねぇだろ」

 

ランページは全員を勝たせるつもりでいる、無論同着を望んでいる訳ではない。スズカがサニーよりも先にゴール板を駆け抜けたいというのならばその為のメニューを組もう、サニーがスズカを幻惑したいと言えばそうする為の準備もしよう、タイキがドーベルを抜きたいのであればそうさせよう、ドーベルがステゴを越えたいというのであればそうさせてみせよう、ステゴが―――全員に勝ちたいと望めばそう出来る様に扱こう。それでいいとランページは思っている。

 

「破綻していると言われようが俺はこれで行く、俺は面白くて熱くて最高なレースを見たいだけだ。その最高の為ならば苦労もしよう、汗も流そう、後悔をさせない為に俺が苦労すればいいだけの話だからな」

「貴方ならそうすると私は思ってましたけどね」

 

そう言いながら肩を竦める南坂の手には珈琲があった、それを受け取りながらもランページはわざとらしくそちらを見ると南坂は肩を竦めた。

 

「チケットさんに協力しながらもタイシンさんやハヤヒデさんにも力を貸す、それと同じだって言いたいのでしょう?確かに同じですね、貴方にとっては可愛い後輩たちであると同じように、彼女らは貴方にとって可愛い担当ウマ娘達という事ですね」

「そゆこと。そこに隔たりもない訳よ、と言っても距離の適正やらもあるからガン被りなんて事もないと思うぜ。主に被りはスズカ、サニー、ステゴでドーベルはティアラで別枠、タイキはタイキであいつマイラーのうえにダートも走りたいらしいからなぁ」

「それでも大変なのは変わりませんよ?」

「南ちゃん、俺にとっての大変っていうのは―――お婆様やスーちゃんのあれこれに巻き込まれたり、どこぞの女神が降臨したり、大統領と会ったり、南ちゃんの過度な期待に応える事を言うんだぜ?」

「私ってそこまで無茶ぶりしました?」

「してます、俺がやってやろうじゃねえか南ちゃんこの野郎!!で流してるだけ」

「それは失礼しました、今夜ピーマンとつくね奢ります」

「チキン南蛮とジャガイモの煮っ転がしも追加で」

「それを黒霧島で」

「分かってるねぇ」

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