宝塚記念が終わればすぐに季節は夏となる。夏といえば暑い、ウマ娘にとって暑さは天敵、だが暑い夏だからこそ出来る事があるそれは―――合宿である。
日本における夏とは合宿、すなわち修行パートであり創作物だろうが現実だろうが夏の合宿で大きな力を得て大きく成長する事はド鉄板。そして此処でどれだけ大きな成長を遂げられるかでトゥインクルシリーズでのデビュー戦や活躍も大きく左右される事だろう。
「って書いてアリまシタ!!」
「YES!!」
とニコニコ顔のエルとタイキが語るのは日本の合宿論、という題名の本。どっから見つけて来たのか、というか図書室から借りて来たらしいのだが一体だれが書いたのやら……と呆れるようにキングがその本を手に取った。
「本当に真面目な本なのかしら……まあ否定しきれない部分もある訳だけど」
「まあまあまあいいじゃないキングちゃん、今日から合宿っ!!私楽しみ過ぎてなかなか眠れなかったんですけど全然眠くないです!!」
「ちゃんと寝なさいよ!?このキングはちゃんと安眠したわ、8時間たっぷり寝たわ」
後部座席でわいわいがやがやと騒ぐ彼女らの声を聞きながらも運転するランページ、そんな傍らの助手席には流れるような景色を楽しんでいるスズカがいる。本来ならばそこは上水流の席であった筈なのだが……このハイエースは10人乗りなので流石に対応しきれなかったので上水流は自分のトヨタスープラを運転してハイエースの後ろを追いかける形式になっている。因みにそちらにはもう一人のウマ娘が乗り込んでいる。
「まあ、この子なら特に気にもならないかな」
「ZZZ……」
後部座席でグースカ寝息を立てているプレアデス一の気性難ウマ娘のステイゴールド、彼女は煩いから一人の方が良いという事で上水流の車に乗り込んでいる。まあ人数の関係で一人そうなってしまうので助かると言えば助かるのだが……上水流的にはこれはある種のふて寝なんだろうなぁというのが透けて見えていた。
「(助手席、スズカに取られて拗ねてるんだろうなぁ)」
助手席争いという子供の頃に経験した事があるそれ、ウマ娘だろうともそれは有る。というか運転席に居るのがランページなのでそれが激しくなるのも当然だった。なんだったら全員が助手席!!と挙手していた、結果的にスズカがそれを勝ち取ったのだがステゴは興味なさげだが最後までじゃんけんで残っていた。本人は興味なさげにしていたが、スズカに決まると直ぐに
「俺は如何でもいいんだよ、どうせだサブトレの車に乗るぜ。静かに寝れるしな」
と負け惜しみにも聞こえそうな事を言っていた。傍から見ればランページに敬語は使わないし何だったら平然と暴言も吐くので一番リスペクトが足りてないと言われそうだが、彼女も彼女でランページの事は尊敬しているし何だったら一番好きなのかもしれない。
「本当にこんなメンバーを平然と引っ張れる彼女には敬服するよ」
軽く、自分のシートが蹴られた。ステゴの寝相だろうかと思ったがきっと違うのだろう。そんなの今気づいたのかよ、という意味が込められているように感じられる。
「という訳で到着しました」
そんなこんながあって今回の合宿でお世話になる別荘に到着。流石はメジロ家の別荘というだけあってドラマやアニメに出てきそうなほどに綺麗且つ大きな別荘に一般家庭出身且つ初参加のスペは目を丸くして驚いていた。
「こ、これが合宿所……!?」
「ここは私も使った事あるわ、メジロ家の別荘としては小さめな部類ね」
「小さめ……!?小さめ、どういう意味の日本語……!?」
「スぺちゃん、落ち着きなさいそういう意味の日本語よ」
スペの言いたい事は分かる、だがそれを御するのが世間一般的にはお嬢様判定を受けるキングというのがなんか笑えてくる。妙に腹筋に悪く笑いそうになってくるので咳払いをする。
「という訳で本日からここで合宿をします、初日の今日は―――勿論遊びます。ほらっ荷物をさっさと置いてきて着替えてこいやァ!!」
『やった~!!!』
遊びに出る為に早速別荘に入って荷物を置こうとするのだが、内装の豪華さなどに感動している姿を見つつトレーナー二人は並び立った。
「話には聞いてたけどさ……本当に初日は遊ばせちゃっていいのかい、合宿は初日が大事だって聞いたけど」
「一番大事なのは節度と切り替えだ、合宿って言ってもずっと特訓特訓特訓!!って訳じゃないんだよ、遊ぶ時は全力で遊んで特訓するときは全力で特訓する。ずっと苦しくても長続きなんてしないのさ、楽しくやって英気を養ってその英気を使って特訓する」
「そういう物なのかなぁ……他のチームはなんか、がちがちって感じだったけど」
「ウチはウチ、他所は他所ってね」
他の合宿は如何か知らないか、プレアデスはこういう風にやっていく。カノープスは初日から結構ガッツリではあったが、自分に同じ事は出来ない。だってあれは自分を上手く乗せられる南坂の頭が可笑しい且つ自分のノリの良さがなければ成立しないのだから。
「それに、ウチは基本的に他が合宿に入る一日前に入ってるから」
「えっそうなの!?」
「言うなれば前日入りで合宿先の環境に適応する為の時間だ、そういうのって下手に意識するよりも全力で遊んで寝てれば気づけば慣れてるもんなのさ」
「それは……海外遠征で得た経験か何かかい?」
「さて、どうでしょう」
濁すような言葉の続きを聞きたかったのだが、別荘から水着に着替えた皆が出て来た。今日の合宿の為に新調したのか妙にまぶしく見える、自分も視線に気を付けなければ……相手はうら若き乙女達だ、自分の視線一つで調子を崩されてはたまらない。
「お~し全員海へ行っちまえ~!!タイキ、昼飯はバーベキューにする予定だからその時は頼むぞ~」
「YES~!!!」
「それじゃあ海へ突撃~!!」
『おっ~!!!』
漏れなく全員がノリノリで海へと駆け出していく、勿論ステゴも中に入っている。何だかんだで彼女もノリは良いのである。そんな彼女たちを見送ると上水流は取り合えず別荘へと入ろうとするのだが、ランページに止められる。
「何してんだよ、上ちゃんも海行くぞ」
「えっ俺も!?いや確かに水着持って来てるけど流石に気まずいし変な目で見られるかもしれないんだよ!?」
「大丈夫だよ此処メジロ家所有のビーチだから」
「メジロ家どんだけなの!!?」
何をいまさらと言わんばかりの顔をした直後、ランページは着ていたスーツの肩を掴むと一気に腕を振るった―――そこには見事に水着姿のランページが居て上水流はひっくり返りそうになった。
「だからなんでその脱ぎ方習得してるのっていうかなんか髪型も変わってません!?君は常識にすら喧嘩売ってるのか!!?」
「何言ってんだよ、海に来たら泳ぐのは当たり前だろ」
「何その俺の方が可笑しいみたいなノリ、ああもう分かったよ泳げばいいんだろ分かったよ!!着替えたらすぐに行くから!!!」
「早く来いよ~」
そう言いながら去っていくランページに上水流は深い深い溜息を吐きながらも一旦別荘の中へと入り、自分の部屋を見つけてそこで着替える事にしたのだった。この別荘はコンセプトに三女神関連があるのか、自分の部屋にも三女神の絵画があったのでそれを見ながらも呟いた。
「ハァッ……ああっ女神さま、彼女は如何してあんなに滅茶苦茶なんでしょうか」
―――それは子羊君だからしょうがないね。
「何か今聞こえたような……」