貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

419 / 635
419話

合宿の日々もあっという間に思い出へと化けていった。暑い日々は残り火となってまだ肌には汗がよく流れてこそいるが、景色の彩は明確に変化していくのであった。季節は秋、プレアデスの日々は変わらぬ物のようで明確に変わっていく。そんな日々の中で訪れたマヤノトップガン第二戦、芙蓉ステークスがやって来た。

 

「調子は如何だマヤヤ」

「絶好調~!!」

「よ~しそれでこそ俺の愛バ~」

「キャッ~ランページさんに愛されちゃってる~♪」

 

控室で最終確認と言う名の駄弁りをしている二人、マヤの調子はランページから見れば上々で当人的には絶好調。身体に気になる所は無いし今すぐにでも走りだしたい欲求に溢れかえっている。漸くやって来た二回目のレースに胸と心が躍ってしょうがないのでランページの言葉にもニコニコ―――だったのが

 

「っ!?」

「どったのよ」

「な、なんか凄いプレッシャーがマヤに来たの……なんだろ、今の……一緒に走る子がマヤをマークしてるって事かな」

 

と周囲を見回しながらも調子に乗っちゃってるな、と自分を諫めるように深呼吸をする。そんな姿に立派になったなぁと思いつつもマヤの感じたそれに如何にも既視感というか自分も感じた事があるような気がしてならなかった。具体的に言えばJCを二勝して今年の凱旋門に向けて海外戦線続行中のあの顔が思い浮かんだ。

 

「そうだ、タマさんに教わった事を忘れないようにしなきゃ……どんなレースでも全力で挑む、相手だってマヤを倒すつもりでこのレースに来てるんだからマヤはそれを倒して踏み越えて行くつもりで行かなきゃいけない……」

 

目を閉じて深呼吸を繰り返しながらもマヤは静かに呟いていた、それは合宿でタマに教わった精神性。どれほどの実力を身に付けようともそれを常に100%引き出せなくては意味がない、そして引き出すのは精神。精神に緩みがあれば相手は躊躇なく其処をついてくるし突かれれば敗北するのは自分。ならば自分は如何するのか……全力で相手を踏み越えて行くつもりで走る、それしかない。

 

「マヤは勝つ、勝つんだ、負けない、負けないもん、トレーナーちゃんに約束したキラキラウマ娘になる為にも……」

 

そんな風に精神統一を図るマヤにランページは気付かない内に大きくなっていたんだなぁと親の心境になっていた。変装として母と娘という事をやっていたせいかもしれないが、涙腺を刺激してくる。そんな自分を吹き飛ばすように頬を強く叩く音が響いた。

 

「よしっ!!ランページさん、例のあれ!!」

「あれだな。マヤノトップガン、君に与える出走規定は唯一つ」

「出走規定は唯一つ―――走り切れ、マヤノトップガン出撃します!!」

 

笑顔になったマヤはそのまま控室から飛び出していった、その背中を見送ったランページはスタンドへと移る事にした。オープンクラスと言えど中山レース場は大賑わい、特にこのレースではマヤが出るという事もあるからだろうなと、いいポジションを取ったと思ったら隣から声を掛けられたがまさかの人物だった。

 

「おいおいおい奇遇だな、今回は誘ってなかったんだけどな」

「次に出すならこのレースかなって予想は出来たからね、如何やら僕の勘は鈍ってないみたいだ」

 

そこに居たのはとれーなーちゃんこと坂原トレーナーだった。以前よりもずっと顔色は良く杖で補助こそしているが、確りと立てている。

 

「大分良くなったみたいだな」

「良いお医者さんを紹介してくれたお陰でね、流石メジロ家のお医者さんの病院だよ。最先端医療で前いた病院よりもずっといい治療とリハビリをさせて貰ってるよ」

「そりゃようござんした、ンで坂原トレーナーから見て今日のマヤは如何すると思う?」

 

既に地下バ道からターフ入りしているウマ娘達の中にマヤの姿がある、天真爛漫を体現したような笑みを浮かべながら此方にも手を振っている。坂原トレーナーの姿に気づくと更に笑顔を作ってアピールするので小さく笑いながら手を振る。

 

「凄いねデビュー戦からまた大きくなってる感じがするよ、一瞬だけ地下バ道から出る所が見えたんだけどその時の表情の変わり方が本当に凄かったよ。まさに豹変だよ―――随分と食えない子に育てたね」

「流石良い目をしてらっしゃる」

 

今のマヤの笑顔は言うなれば餌、マヤの闘志から目を背けさせて欺く為の物だ。自分が教えたわけではない、マヤが自分からそれを選択して習得したのだ。レースは走っている時から戦いが始まっている訳ではない、俗言う場外戦術というのも存在する。自分の秋華賞なんて特にレースが始まる前から重圧のターゲットにされているのが嫌でも理解出来た。

 

「あれを見てマヤは前のままのマヤだと思うだろうね、それか勝つ自信がある余裕の姿だと。そして先行(前のまま)で走ると思う」

「なぁ~んで全部お見通し何ですかねぇ?」

 

ランページが肩を竦めた、その少し後にゲートインが終了し芙蓉ステークスがスタートした。

 

『さあスタートしました。見事なスタートを切りました、先頭を取るにはムルーガ、ハードマスター、サコッグを始めとした逃げウマ娘達に先行ウマ娘達が並び立って―――おっとマヤノトップガンが後方に居ます!?前走では先行策でしたが今回は追い込みか!?』

 

「なっ嘘でしょ!?」

「あの子どうしてあんな所に!?」

「出遅れ!?」

 

誰もがマヤは先行だと思っていた事だろう、デビュー戦で見事な走りを見せたのだからそれを警戒するのは当然だろう。だがマヤはそんな事は分かってきた、自分がマークされる事も分かっていた。だからこそ後方についた。

 

「(想像以上~)」

 

思わず笑いが込み上げてきてしまった、マヤからすれば走り方を追い込みに変えただけに過ぎないのに対戦相手のウマ娘達は面白い位の動揺を纏って既にレースは始まっているのに此方をチラチラと見て様子を窺っている。そんな事では自分の最高の走りなんて出来る訳もない。

 

「マヤは本当に天才だよ、その最たる物が幅広い脚質の適性だと思ってる」

「同感。大逃げしかして来なかった俺から見てありゃスゲェというしかねぇもん」

 

レースは間もなく中盤に差し掛かろうとしているが、マヤは未だに最後方で動かない。対してレースはかなり動いている、先頭を走っていたムルーガがサコッグに抜かれ、それを抜き返そうと前に出て行ったり、ハードマスターが掛かっているかのような走りをし続けていたりと先行していたエメルエルがどんどんと下がっていたりと、マヤが追い込み策を取った影響が諸に出ている。

 

『マヤノトップガンはまだ動かない、大胆過ぎる戦法の変更が響いているのでしょうか!?さあ第三コーナーへと入った、先頭は再びムルーガ!!ハードマスターが下がってきている、飛ばし過ぎていたのでしょうか!?』

 

「それじゃあ、マヤ行っちゃうよ!!」

 

間もなく第4コーナーへと入るという所でマヤは遂に動き始めた。ターフを強く蹴りながら遠心力を利用しながらも一気に外に出て他のウマ娘をごぼう抜きにしていく。

 

『マヤノトップガンが此処で動いた!!マヤノトップガン、後方からぐんぐんと足を延ばしていく!!さあ遂に直線に入るぞ、中山の直線は短いぞ!!ムルーガは先頭を守り切れるのか!?ハードマスターもう限界か!!?マヤノトップガンが一気に伸びてくる!!マヤノトップガンあっという間に3番手!!凄いぞマヤノトップガン!!さあ心臓破りの坂に掛かる、ムルーガ此処で大きく失速!!サコッグも苦しいか!マヤノトップガンが大外から一気に坂を駆けあがっていく!!先頭に立った!!そのまま突き放す突き放す!!彼女にとっては中山の急坂もスキージャンプ方式のカタパルトか!!坂を一気に駆け上がったマヤノトップガンが飛び出していく!!これはもう文句なし!!マヤノトップガンが今ッゴールイン!!!マヤノトップガンが勝ちました!!2着にエメルエル、3着にエッジタラテクト。追い込み策でも強さを証明したぞマヤノトップガン、これがプレアデスのウマ娘の実力か!』

 

最後は圧倒的な走りで他者を寄せ付けない走りを見せたマヤ、7バ身差で二勝目にランページも笑顔を作る。

 

「相手にとってマヤの才能ほど怖い物はないよ、一つ読み間違えれば崩壊に直結するんだから」

 

変幻自在の戦法で相手を惑わすウマ娘、幻惑ならば自分にとっても馴染み深い。改めて自分とマヤの相性は中々な物だ。そんなマヤの勝利を見て坂原トレーナーは笑った。

 

「G1、期待してもいいかな」

「マヤに言ってやれよ」

「そうだね」

 

「ランページさ~ん!!トレーナーちゃ~ん!!マヤ勝ったよ~!!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。