貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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422話

「フゥッ……ったくさすがに疲れてきちまってるか?雑になっちゃいけないと分かっちゃいるが、少しペース落ちちゃってるな」

 

周囲が聞けば何を言っているんだと思われるかもしれない。だがランページ本人としては明確に疲れが溜まっている事が分かってしまっている、というのも自業自得なので文句のつけようがない。ネメシスの統括チーフの仕事も手を緩める訳にもいかないしプレアデスの事もある、そしてそこにカノープスの代理……普通に考えて過剰労働な筈なのに、要領が良いせいで捌けてしまう自分がいるので、問題はなかったのだが……。

 

「ったくっ……おいブライアンちょっとは先輩を敬え、こちとら三チームの面倒を見つつお前の面倒も見てんだぞ」

「……済まない先輩、だが私はローレルに負けたくないんだ。ローレルに相応しい好敵手になりたいんだ」

「その気持ちは買ってやるけどよ……ったくしょうがねぇなもう一周だけだぞ」

「感謝する!!」

 

そんな中でブライアンから是非模擬レースをお願いしたいという猛烈なアタックを受けてしまった。間もなく凱旋門賞を控えているローレル、彼女はきっと万全を期してレースに挑むはず、そんなライバルに負けない為に自分は絶対に無敗で菊花賞を制して三冠ウマ娘となってみせる、その為にはもっともっと強くならなければならないと頭を下げられたのだ。

 

『ランページさん、私からもお願いします。妹に、力を貸してはいただけませんでしょうか』

『ハヤヒデ……あ、あのランページさんお忙しいのは分かりますけどお願いします!!』

『……アタシからもお願いします』

『あ~あ~分かった分かった!!BNWに頼まれたのを断ったとなれば俺の居心地も悪い。だがやるなら絶対に菊花賞で勝ってみせろよブライアン』

『勿論です、私は絶対に……勝つ!!』

 

「ハァハァハァッ……ったく俺も断れねぇ女だねぇ……」

「せっ先輩大丈夫ですか!!?」

「流石に、走り過ぎたな……ったく俺も衰えたか?」

 

走り終えたランページは膝から崩れ落ちるようにその場に膝をつきそうになった、そんな彼女をフジキセキは咄嗟に肩を貸した。現役を引退しているので衰えているという言葉は正解に思えるかもしれないが……夏合宿でもあれだけ鍛え込めることが出来るランページが衰えるという事は相応しくない、そんな彼女に東条トレーナーは酷く申し訳なさそうな顔を作りながら頭を下げた。

 

「本当に、無理をさせてしまってごめんなさい。ブライアンがハヤヒデを無理矢理協力させたって聞いたわ、私からもきつく言っておくから」

「……気にせんでくださいオハナさん、俺は可愛い後輩を立ててやっただけですぜ。それで後輩の為になるなら力になってやるのが先輩の役目です、俺だってそうやって強くなった訳ですし」

「だからと言って、本来適正距離じゃない3000mを数本走ってるのよ。無理をさせてしまってるのは此方よ」

 

以前、ハヤヒデの菊花賞対策として模擬レースをしたことがあったがその時の話を聞いたブライアンは無理を承知で姉を説得、チケットとタイシンも加わってランページを説得して本来適正ではない長距離模擬レースをさせ続けている。トレーナーとしてはそれは看過できない、幾ら現役を退いているウマ娘と言えどいけない事だ。

 

「ぶっちゃけ、此処まで疲れちまってるのは俺の自業自得ですから。単純に三チームの業務がキツいだけっす」

「だったら猶更何で模擬レースなんて引き受けたのよ」

「何故って?見てぇじゃねえですか、最高のブライアンと最高のローレルがぶつかり合うレースが」

「そ、それだけの為にランページさんは引き受けたんですか!?」

「後は後輩の顔を立てたってもあるな」

 

ランページの行動原理は極めてシンプルだ。面白いレースが見たい、これに尽きる。その為の苦労ならば幾らでもしてやる。

 

「だからって無理し過ぎですって……」

「確かにちょっちきつかったかな?如何だいブライアン、自信は付いたか?」

「散々走れないと言いながらも3000を私を置いて駆け抜けておいてよく言う」

「伊達に海外を走った訳じゃねえからな」

「……そうだな、姉貴のように勝ってみせるさ。だから今度は姉貴の天秋対策にも協力してあげてくれ」

「ブライアン貴方!!」

 

何を言い出すんだ!?と思ったが、直ぐにランページは酷く愉快そうに笑った。底抜けな笑いに呆気に取られるが、ランページは愉快そうに続ける。

 

「流石に今は無理だが、その内相手してやるよ。だがハヤヒデ、前の菊花賞と違って2000は俺の領域だ。簡単にいけると思うなよ?」

「望む所です、私は天皇賞(秋)を勝ってみせます」

「楽しみにさせてもらうわ、悪いフジこのまま肩貸して貰ってもいいか?」

「ど、どうぞどうぞ!ど、何処まで貸します?」

「あ~そうだな~」

 

フジに肩を借りながらも去っていくその背中は東条から見ても酷く大きく頼もしかった。あれが日本を飛び越えて世界最速最強という称号を得た暴君と呼ばれたウマ娘。引退レースでのインタビューで彼女は誰かに夢を見続ける、自分で夢を見る為に走り続けると宣言していた。その為に走るという事が今なのだろうか、きっとまだまだ走れた筈なのに次の夢を大きくする為に……

 

「ブライアン、ランページに此処までさせたのよ。菊花賞、一着以外は許されないわよ」

「一着以外を取る気はありません」

「ハヤヒデ、天皇賞(秋)想定模擬レースは私の方でセッティングするから勝手は許さないわよ」

「分かりました」

「忙しくなるわね」

 

まずは一先ず……ランページに上手い事休ませる口実でも探すとしよう。

 

 

「いやぁ、こりゃ参ったな……随分と疲れてんなぁ俺……ファイナルズ設営よりマシだと思ってたけど流石に無理があったか」

 

取り合えずインプまで運んでもらったランページはフジにお礼を言ってから車を走らせて自宅まで戻った訳だが……想像以上の疲弊に笑ってしまった。

 

「流石に長距離は無理があったな」

「全くだね、困った子羊君だ。まあそんな所が愛おしいんだけどね」

「褒めても今日は豚の角煮位しか……って何当然のようにいるんすか」

「やっほっ会いに来たぞ愛しの子羊君♡」

 

リビングのソファに腰掛けている自分の隣から聞こえてきた声に導かれれば、そこには三女神の一柱のダーレーアラビアンがそこにいた。こうしてまた顔を会わせることになるのは三回目としてカウントしていいのだろうか……と思う中で魅惑的にウィンクする彼女に肩を竦める。

 

「今日はどうして此処に?」

「いやね、また君の所に遊びに行こうとしたんだけどタークに止められっぱなしでね。なんとか目を盗んできたという訳さ」

「また、戻ったらタークさん怒るんじゃないですか?」

「まあいいじゃないか細かい事は気にしなくて、それに今日は随分と疲れている君を労いに来たんだよ―――無理、し過ぎちゃだめだよ」

 

その時、ダーレーはランページを抱き寄せた。柔らかくて暖かな感触は頬に触れる中でダーレーはそっと頭を撫でながら続ける。

 

「君が後輩思いなのは分かるさ、だけど後輩も君が大好きな事を忘れちゃいけない。大好きな君が自分達に頑張って無理して倒れたなんて聞いたら悲しむ、休むことだって立派な仕事なんだよ」

「……」

「君は休んでいいんだ、君はランページの分まで精一杯生きようとしているのは分かる。だけどそれは我武者羅に仕事をして次の夢を育てるだけじゃないだろう、自分を労わってあげる事だって大切な事だよ」

 

そんなつもりはなかった。ランページの為に、彼女の代わりに生きている自分が懸命生きなければいけないと気負っているつもりはなかった。だけど……自分を蔑ろにしていた事はなんとなく分かっていたが、必要な苦労だと割り切って無視し続けていたのは事実だった。

 

「……俺には、分からないことかもしれませんね」

「それなら俺が教えてあげるさ、何時でも俺を呼んでくれていいさ―――君なら幾らでも溺れさせてあげる、と思ったんだけどなぁ」

 

色気と美しさ、様々な物がマッチして頂点に達しようとしたときにダーレーの言葉にやばさが滲み出た。どうしたのかと顔を上げれば、口角が痙攣したように動き汗をかいていた。その背後にはニコニコ笑顔のゴドルフィンバルブと青筋を浮かべているバイアリータークの姿がそこにあった。

 

「本気で私を出し抜けると思ったのか」

「い、いやぁタークさ今凄く良い所だったんだよ、マジで良い所。此処だとなんていうか知ってるかい、KY、空気読めないっていうらしいよ」

「そうか。ならば貴様は私の目を盗んで現界した愚か者だ、罰は受けて貰うぞ。それとランページに迷惑をかけた上で篭絡しようとするな」

「ひ、人聞きが悪い事を言わないでくれよ。ただ子羊君に俺の愛を甘受して貰おうかなぁって思っただけで……「話は神界で聞く、すまんがこいつは連れていく」」

 

ランページに頭を下げてからバイアリータークはダーレーを無理矢理立たせるとアイアンクローをしたまま強引に帰っていった。光の粒子になって消えていく二人を呆然と見るランページにゴドルが肩を叩いてきた。

 

「あっはい、お土産に角煮持っていきます?」

「それは興味深いけどまた今度にさせてね、お客様が来るみたいだから退散するわ。じゃあねランページ、また会いましょうね」

 

手を振りながら消えていく彼女を見送ると直ぐにインターフォンが鳴った。そう言えば客が来ると言っていたな、直ぐに玄関に向かうとそこに居たのは―――

 

「やぁっ今大丈夫かい?」

「誰かと思ったら上ちゃんか」

 

自分のサブトレーナーである上水流トレーナーがそこにいた。

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