貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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426話

「ほれっ特製カフェオレ入ったぞ。不安な奴は飲んどけ」

「あ、有難う御座いますぅ……」

「ちょっとスぺちゃん貴方大丈夫?だからあんなに食べて大丈夫なのって言ったのに……全くしょうがないわね」

「マヤは大丈夫~……だってレディだもん~……」

「何処がだよ」

 

既に眠気に敗北しかかっているスペ、そんな彼女の為に珈琲は流石に飲めないだろうと配慮したカフェオレを渡しておく。既に舟を漕ぎかけているマヤには膝を貸してやりながらも自分も腰を落ち着ける。

 

「にしてもごめんなさいランページさん、無理を言って夕食まで御一緒させて貰ったのに」

「気にすんな。久しぶりに賑やかな夕飯だったぜ」

 

凱旋門で行われるレースを生中継で見る為にランページの家に集結したプレアデスの面々、折角の凱旋門なのだから皆で見ようという事になったので練習が終わった後は全員で夕食の買い出しをして全員で鍋を囲んでいた。そして今は間もなく出走を控える凱旋門の中継を見ている訳なのだが……食いしん坊代表のスペはランページの財力で実現した豪華な鍋を前に食欲を制御しきれずに満腹になるまで食べてしまったせいで眠気が爆発寸前、マヤは単純に普段ならば寝ている時間なので眠い。

 

「意外に海外でも歓迎されるもんだな、アンタのライバルなら警戒されてると思ったんだが」

 

カフェオレを優雅に飲みながらも地下バ道から出て来たローレルとフローラへと降り注ぐ歓声にステゴが呟いた。

 

「警戒に値しないって事の表れかもしれないな。あいつは普通に考えればベテランのシニアウマ娘だ、凱旋門の挑戦も記念受験と同じ位に捉えられてるのかもしれないな」

「あのフローラ先輩を、ですか……何というかそれは愚かな選択だと思えます」

「私もです」

 

エアグルーヴとドーベルはフローラに話を説かれた経験もある為か、後輩の中では一番フローラの事を尊敬している、尚慕ってはいない。独裁暴君最大のライバルの一人、最後の最後まであの絶対強者と戦い続け、先頭を奪った事すらある大華アグネスフローラ。そんな彼女を侮る事がどれだけ愚かな事なのかを海外は理解していない。

 

「実際よ、あのド変態ってそんなにスゲェのか?いやJC2勝が凄くねぇわけがないってのは分かんだけどよ」

「ちょっとステイ、流石に失礼じゃない」

「そうだよ、まあ確かにフローラ先輩はまあうんそのえっと……」

「無理にフォローするこたぁねぇぞサニー、あいつはマジの変態だからな」

 

基本的に相手を敬う、リスペクトの精神がないステゴですらフローラの強さは認めるほかない。何せ仮にも凱旋門を制したウマ娘相手にもジャパンカップで勝っているし現在は海外遠征を行っているのでそれを認めない方が愚かと言えるほど。だがいまいちフローラの凄さというのが分からないのも分かる、何分ランページの前ではあれなせいで。

 

「あのド変態は一応スゲェんだから尊敬はしとけよ、イクノと並んでずっと俺とガチで殴り続けた数少ない相手だ。付け加えると俺の前に物理的に立ちはだかったウマ娘でもあるからな」

 

ランページのレース展開の大きな特徴の一つが大逃げによって他のウマ娘を前に出させないで勝利するという事。それが破られた機会は酷く少ないし思い出そうとしても思い出せるのはドバイワールドカップと秋華賞位しか思い当たらない。

 

「黒沼のオジキじゃなくて、黒沼の理念分かるか?」

「精神は肉体を越えられるってあれか」

「フローラはそれを何よりも体現してる奴なんだよ、俺に対する愛とやらで俺に迫れるんだぞ。俺のラストレースとか見て見ろ、マジであいつ頭おかしいから」

 

確かにフローラほどそれを体現しているウマ娘はいない、黒沼としては酷く複雑な気持ちだろう、まあ東条もそれは同じだろうが……。

 

「それでフローラさんの勝率はどのぐらいだと思いますか?」

「エルの奴から大体話は聞いてるけど」

「エッ私?」

「ああエルグッツな、可愛い可愛いお前さんから聞いたわけじゃないぞ」

 

定番のやり取りだなぁと思いつつもお詫びとしてエルの頭を撫でてやる、エルはくすぐったそうにしつつも心地よさそうにしている。それに嫉妬の目線を送るスズカといつの間にか起きたのか深く膝の上に座り直しながらも胸元を叩くマヤ。マヤの頭も撫でつつ続ける。

 

「一応あいつから話は聞いてるが、あいつ曰く今年はある意味で一番きついらしいぞ、何より人数がやばい」

「今年の出走者は……23人ですか」

「俺ん時が15人だったかな」

 

単純に出走者が多い、それだけ激しい好位置の争奪戦にもなる。欧州では先行策がメジャーで差しや追い込みの末脚勝負を仕掛けるウマ娘は少数派という話もある、それでも逃げを選択するウマ娘もいる事にはいるが……ラビット扱いを受ける事も多い。この大人数では基本脚質が差しのローレルは相当に辛いしフローラも好位置の争奪戦に加わる事が必須となる。

 

「俺が出たら確実に有利な凱旋門だって言ってたな」

「そりゃアンタは全員置いておくからな」

 

クラシックのローレル、ベテランシニアのフローラ。日本にとっては凱旋門は高き壁だと日本の専門家は語り続けている、ランページの勝利は奇跡としか言いようがない、彼女以外で凱旋門で勝てるとは思えないとまで言う者も多い。勝者としては嬉しくもある意見だが、それは流石に舐め過ぎだ。

 

「―――やってみせろよ、フローラ」

 

思わず飛び出た言葉、それは紛れもないエールの言葉だった。これはライバルのレースだ、自分はもう関係ない、関係ないが……折角見るのだ面白いレースが見たい。即ち―――予測を上回るレースが見たい。

 

「ローレル、お前も見せつけてやれ。ブライアンも見てるぜ」

 

後輩にも声を向けてやった、きっとやれると信じている。チームは変わってしまったが自分は今でもカノープスの先輩のつもりでいる。後輩の努力を見続けた自分はそれを信じる。

 

「何とでもなる筈だ。レースは生き物だ、何が起こるか分からねぇから面白いんだ、そこに偶然が入り込む余地はねぇ―――幸運の女神になってやるから全力で掴みに来い!!」

 

その言葉が放れた刹那、画面ではゲート前の映像になるのだが突然フローラの動きが止まって天を仰ぎ始めた。ローレルの困惑した姿もバッチリと映っていた。

 

「おおっすげぇぞあの変態、ランページのエールに反応したぞ。マジでニュータイプかあの変態」

「……あいつ、これが全世界に生中継されてること絶対忘れてる、いやあいつの事だかンな事気にしてる訳がないか……タキオン、頭抱えてんじゃねえかな……」

 

そんな不安を他所に遂にゲートインが成された。世界一の大レース凱旋門賞、紛れもなくこのレースに勝利した者は世界一の栄光を手に入れる。それを手に入れるのは一体誰なのか、様々な思いが交錯する渦中、遂にゲートが開け放たれた。

 

『さあスタートしました全員見事なスタートを切っておりますが特段良いスタートを切っているのが日本から来たアグネスフローラ、そしてサクラローレル!!どんなレースを見せてくれるのか、いやサクラローレルは良い位置を取っているがアグネスフローラ、これは速い速い!!既に先頭に立っているぞ、これはっまたもや日本の逃げ戦法か!!?』




「……姉さん……なんでそこでヘヴン状態になるのかねぇ……」

「タキオンの姉ちゃんマジで大丈夫か、顔色悪いぜ」

「……日本の恥よ、あのバカ姉……」

「なんというか、本当にフローラさんってブレませんね。そうですね、帰ってきたら抗議しましょうか」
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