貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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428話

『ロンシャン逆落とし、まさか再びこの光景を見る事になろうとは!!我々欧州勢にとっては悪夢、日本にとっては奇跡の光景にして後継!!アグネスフローラ、サクラローレル共に坂を下っていく!!日本のウマ娘は全員これほどまでに坂に強いのか!!?』

 

ロンシャンの坂は日本のそれよりも遥かに高低差がある。故に此処をどう攻略するかが凱旋門攻略のカギの一つとされているが、普通はここで我慢する。長く下る坂はダイレクトに脚に体重が掛かって負担も大きい、日本でも淀の坂はゆっくり上ってゆっくり降りるという鉄則が存在するが―――それを犯して勝利した偉大なウマ娘は存在する。

 

淀の坂の鉄則を破って猛スパートをかけた末に三冠ウマ娘の称号を手にしたミスターシービー。そして……このロンシャンにおいて上り坂においても下り坂においても一切スピードを緩める事もなく駆け抜けていった絶対強者の独裁暴君、メジロランページ。この場合二人が倣っているのは後者のランページ、いや倣ってすらいない。彼女らは目の前を走っているランページを追走しているにすぎないのだから。

 

『物凄いスピードだ、このままのスピードのまま行ってしまうのか!?だがフォルスストレートもある、まだまだ先は長いぞ!!』

 

そう、ロンシャンはまだまだ先がある。長い長い偽りの直線と真の最後の直線が待ちかねているのにも拘らずに二人は加速していた。もう終わったと笑うスタンドからの声もあるがレースを走っている当人たちはそんな笑いを浮かべる余裕なんてなかったのだ。

 

「(どうして、どうしてなのよ、どうして……!?)」

「(な、ンでなんでそんな走りをするのよ!?)」

「(やめろ、見えちゃうじゃない……!!)」

 

『(あのウマ娘の背中が、もっと鮮明にっ……!!)』

 

既に薄っすらと視界に映り込んでいた影が、更に濃くなっていき遂にはその影の走る音すらも聞こえてきた。此処に居ない筈の絶対暴君が、この凱旋門で栄光を掲げようともかの暴君には敵わないと言われる程の走りをしたあのウマ娘の姿が……そんな影をあの二人は必死に追いかけている、戦い挑んでいるのだ。それなのに自分達は何なのだ、ただこのレースにさえ勝てればいいという安牌を切って戦いもしようとしない臆病者みたいじゃないか……

 

『間もなく坂を下り切るぞ、日本の二人が先頭を独占してるが後続はいつ仕掛けるのか!!?』

 

「私は、もう我慢できない!!私は、私たちだって―――あの人に勝ちたいのは、一緒だぁぁぁ!!!」

 

『此処でビードロアウェイが前に出て来たぞ!!』

 

「私だって、私だってぇ!!!」

「どうせ勝つなら、完全に日本に勝ってやるぅ!!」

 

『い、いやビードロアフェイだけではないぞ!!次々と上がっていくぞ、フォルスストレートに入っていくが次々とペースが上がっていくぞ!!?これはアグネスフローラとサクラローレルに引っ張られているのか!?』

 

「それはそうでしょうよ」

 

そんな光景を見ながらもボソッと南坂がつぶやいた。

 

「ここは凱旋門、ウマ娘のレースの中でも頂点に君臨する程のレース。このレースは想像以上の物が掛けられているんです。このレースに勝つ為に練習を積んできた、苦しい思いをしてきた、夢に描いてきた。出走している方々にとってはトレーナーでも推し量れない程のプライドがそこでぶつかり合っているんです」

「ターボもなんとなく分かる、凱旋門って本当に特別なレースなんだもんね」

 

凱旋門賞、世界一のレースと称されるレースに掛けられる思いは並大抵のものなどではないのだ。そんなレースを勝つ事こそ至上の命題にするものも多いが、例え勝ったとしてもランページと比較されて自分の勝利をこき下ろされるなんて事は絶対に耐えられないだろう。それならば―――その暴君すら上回るレースをしてみよう!!と奮起してしまう。

 

「既に前をフローラさんとローレルさんが走っている訳ですから余計にそう思ってしまうんでしょうね」

「これも幻惑逃げか~ランってば引退してもこれなんだからホント罪作り」

 

フローラとローレルが見つめているランページの幻影、二人が本気で勝とうとしている事で誰もが抱いていたそれを具現化させてしまった。今、全員の瞳にランページが走っている。

 

『未だに先頭はアグネスフローラ!!それに続くサクラローレルが後方に5バ身差を付けている!!さあ間もなく最後の直線に入る、後方も必死に追いあがってくるが先頭の二人は更に加速していくぞ!!どこにそんな脚が残っているんだ、さあ直線に入るぞアグネスフローラ先頭いやサクラローレルも上がる!!日本から二つの華が駆け抜ける!!二種の華が乱れ咲く!!ここで一気に上がってくる上がってくる!!カーネイギーが一気に迫ってくる!!凄い末脚だ、これは二人を捉えられるか!!』

 

 

「くっうぁっ……グッ……!!」

 

息が苦しい、頭が痛い、脚が怠い、全身が鉛のように重い。後方から迫ってくるウマ娘の足音も聞こえてくる、前方のランページを追い続けていたけどこのペースは有り得ない程に辛かった。ダービー対策と称してランページと走ったがロンシャンでそれをするというのは並大抵の事ではなかった。

 

「っ……!!」

 

意識がブレる、呼吸が荒くなり続けていく。本当も倒れてしまいそうになるような中で力が抜けそうになる―――

 

―――……っ、……けっ

 

何かが聞こえてきた、途切れ途切れになりながらも聞こえてくるそれは間違いなく自分に向けての言葉だという事が分かった。一体誰が自分に声を掛けてくれているのか、消えかかる意識を引き戻すような力強くも凛々しい声には聞き覚えがある。

 

『行けっローレル!!私と戦うためにそこへ行ったんだろう!!』

 

そうだ、この声は―――

 

―――私を倒す為にそこに行ったんだろう、ならなってみせろ、私を倒すお前に!!!

 

「っ―――!!!」

 

『カーネイギーがサクラローレルを捉え―――ないっ!?ここでサクラローレルが伸びていく!!カーネイギーも懸命に脚を伸ばすがサクラローレル渾身の一伸びっ!!!アグネスフローラを捉えきれるか!!?日本から来た花がこの凱旋門に飾られるのかぁ!!?』

 

後半バ身まで来た時に、ローレルはあと少しでランページを捉える所まで来れたと確信しつつも更に全力を振り絞ろうとした時だった、それよりも大きくフローラの身体が見えた。そして―――その身体が先頭を駆け抜けるランページの身体に重なった。

 

『こ、此処でアグネスフローラがさらに伸びるのか!!?信じられません!!あれだけ先頭を走り続けていたというのにまだ余力が残っていたのか!!?アグネスフローラ、先頭、サクラローレルとの差は1バ身!!ローレルも粘るがこれはもう苦しいか!』

 

「此処までこれた、此処まで来た、漸く貴方と同じ所まで来たんだ……あとは、貴方に勝つだけだぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

切望された大華

 

独裁暴君への愛

 

『残り100mでアグネスフローラが行った行った!!サクラローレルを2バ身と放していく!!カーネイギーは苦しいかもう伸びきれないか!?信じられない、これはあの時の衝撃再来だ!!日本から来た大華が、このロンシャン、凱旋門で先頭でゴール!!!アグネスフローラ一着!!二着サクラローレル、三着カーネイギー!!日本のウマ娘がまたやったぞ!!凱旋門の栄光を手にしたのはメジロランページのライバル、アグネスフローラァッ!!!二着のサクラローレルと共に日本がワンツーフィニッシュゥゥゥッ!!!そしてタイムが―――』

 

【2:21:3】

 

『こ、これはっ!!信じられない、アグネスフローラ名実ともにあのメジロランページと同じ栄光へと並び立ったぞ!!ワールドレコードタイ!!日本の奇跡が再びこのロンシャンで起こったぁぁぁぁ!!!!』

 

爆発的な歓声が上がる中でフローラは空を見上げながらもこぶしを突き上げた。そして最高の笑顔を浮かべながら言った。

 

「さあ次は今度こそ、貴方に勝ってみせますよランページさん!!」


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