貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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433話

「……朝か」

 

ランページの朝は早い、毎回毎回セットしてある携帯のアラームよりもずっと早くに目が覚める。一応時間を確認すると午前4時、何時のもの事だな。ショートスリーパーなのかは分からないが何時もこんな時間に起きてしまう。取り合えず身体を起こそうとするのだが、自分の腕に重み、そして何かが自分の寝間着を掴んでいた。

 

「ふえへへへ……もう食べられない……」

 

そこには自分の腕を枕にしているファインの姿があった。彼女の部屋は準備してSP隊長は隣の部屋で寝ていた筈だが……如何やら何時の間にか潜り込んでいたらしい。こうして寝顔だけを見ればただのウマ娘、地位も何も関係愛らしい幼いウマ娘。そんな彼女を軽く抱きしめてあげながら頭を撫でると心地よさげな声と共に力が緩んでいく。

 

「お母様ぁ……ふえへへ……」

 

きっとファインのお母様もこんなことをしたことがあるのだろう、そんな経験があるからこそファインは眠りながらも穏やかな笑顔を浮かべている。

 

「大丈夫、ゆっくりお眠りなさい……ファイン、まだ夢の微睡の中でね」

 

ウマソウルが顔を出す。気づけばランページの表情は酷く穏やか且つ優し気な物へと移り変わり言葉には愛で満たされた思いやりで構成されていた。頭を撫でる手も慈しみに溢れている、それを受けてファインも安心しきったかのように手を放し、深い深い眠りへとさらに落ちていく。そっと彼女の頭から腕を抜いてから額にキスを落としてやる。そして起こさぬように部屋から出るとため息が漏れる。

 

「やれやれだねぇぃ……何時かこんなのが当たり前になる日が来るのかね」

 

自分が結婚して子供を産んだらこんな風に毎日を過ごすのだろうか、それもきっといい日々なんだろうな……と思いながらも新聞を回収しながらもケトルに水を入れてONにし椅子に座る。

 

「……そろそろ売り時かな、新しく買うのはそうだな……あ~あそこで良いか、推しのゲーム会社だし」

 

新聞での情報収集は日課、ついでに株の情報を集めておく。そうしている内にお湯が沸いたので珈琲を淹れる、先日ファインと行ったスーパーにあったバニラフレーバー珈琲を試してみる。

 

「……香りは確かに甘いが、味はいまいち……混ぜて使うか」

 

そんな事を呟きながらもランページの朝は過ぎていくのであった。

 

「ふわぁぁっ~……しんゆ~おはよ~……」

「おはようございますランページ様」

「応、二人ともおはようさん」

 

朝6時、漸く起きて来た二人に声を掛ける。寝ぼけ眼なファイン、顔は洗って来たらしいが寝起きはそこまで強い方ではないらしいが、直ぐにその瞳は目が開かれた。

 

「おっ~凄い凄い、もう朝御飯が並んでる~!!これもしんゆ~が作ったの?」

「他に誰がいると思ってんだよ、此処は俺の家で住んでたのは俺だけなんだからな。ホレっ座った座った」

 

ランページの言葉に素直に従いながら席に着くファイン、そんな彼女にみそ汁を盛りながらもエプロンを外して席に着く。

 

「それでは手を合わせて、いただきます」

「「いただきます」」

 

今日の朝食はファインご希望の日本の朝御飯をイメージした。鮭の塩焼きに先日の鍋用の野菜が残っていたのでそれを活用したジャガイモと玉ねぎの味噌汁、ファインには甘い卵焼き、自分とSP隊長には出汁卵焼き、キュウリの浅漬けににんじんしりしりに白米。

 

「これが日本の朝御飯なんだね!朝からこんなに食べれるなんて流石日本だね!!」

「確かに、これが一般家庭の皆様もよく食べるメニューだとすると毎食毎食手が込んでおりますね」

「これが全家庭でベターって訳でもないんだけどな、一般的な日本の朝御飯と言えばこんな感じだな。後はここに納豆やら海苔だったりが出るが、二人にはキツいかもと思って除外させて貰った。まあ食ってくれ、ああっ二人にはスプーンの方が良かったか」

「御親切に有難う御座います。ですが折角ですから箸をマスターしようかと思っております」

「箸って結構便利だよね、最初は吃驚したけど色々食べるもんね」

 

そんな風な会話をしつつも朝ご飯を食べ進めていく、途中でテレビを付けてニュースを確認しながら食べ進めていく中で二人の反応も見る。

 

「この卵美味し~♪とっても甘くておいしいし少しトロトロしてる♪」

「甘い、ですか?私の方が何やら深い味わいがあるのですが……もしや殿下と私のとは違うのですか」

「ファインのは砂糖入り、俺と隊長さんのは出汁入り卵焼きだ。試してみるか?」

「うん、それじゃあ……んっ~これもおいひ~♪」

「お気に召したようで何より」

 

日本式の朝食もお気に召したご様子、それらを完食しファインが満足気にしているのを横目に食器を洗っているとSP隊長は何処か驚いたような顔のまま此方を見ていた。

 

「随分、様になっておりますね……?」

「元々俺は一般家庭のでなもんでね、メジロ家は後入りで令嬢ってつもりは全くない。今でも俺は唯のランページだよ」

「そうですか……」

「ンな事より、お前さんらは如何するんだ。このまま学園に行くのか?」

「はい、殿下もそれをお望みですので宜しければランページ様と御一緒したいと思っております」

 

日本の観光もしてみたいが、ファインがその時は如何してもランページと行きたいというのでそれは休みの日まで待って貰う事になる。なので基本的には将来的に留学する事になるトレセン学園の散策やどんな授業をしているのか、そして日本のチームを見学する事になったという。

 

「つう事は学食も利用するだろうから、こいつは余計だったか」

 

そう言いながらも視線の端に置かれているそれに向けて肩を竦めるのであった。それはピンクの布で覆われている何かたちだった、隊長は何か分からないので首を傾げていると水を貰いにやって来たファインがそれを見つけた。

 

「あっこのピンクのって何?」

「弁当だよお前らの」

「お弁当……?」

「ランチボックスっつったら分かるか、昼飯だよ」

「まさか、ランページ様が御作りに?」

 

お前は何を言っているんだと思わず言いたくなった、他に誰が作ったというのだ。今までは弁当は作って来なかったが、ファインと隊長は何処か出かけるのならばこういったものも必要になると思って作ったのだが……トレセン学園に来るなら学食があるのだから無用の長物だったかもしれないと思ったのだが、それを聞いてファインはひと際目を輝かせた。

 

「お弁当ってアニメとかでお花とかが咲いてる木の下で食べるあれなの!?えっ食べていいの!?」

「今食うんじゃねえぞ、昼飯用だそれは。だけどトレセン学園に行くなら必要なかったな……」

「食べる!!しんゆ~が作ってくれたんだから食べる!!」

 

まさか弁当に此処まで喰い付かれるとは思いもしなかった。心なしかSP隊長もウキウキしているように見える、まあ食べてくれるのならば嬉しい限りだ。何せウマ娘の昼食用の弁当なので量がいる。気分的な運動会で食べる弁当を作ってる気分になっていた。

 

「どんなのかな~美味しいのかな~美味しいよね~しんゆ~が作ってくれたんだもん~♪」

「あんまりハードル上げないでくれよ、余り高いハードルだったら俺はくぐるぞ」

「まさか私の分までご用意してくださるなんて……有難う御座います」

「気にすんなよ、俺の家でもてなしてるんだこの位当然だ」

 

そんなやり取りをしていると何時の間にか出勤の時間になってきた、手早く準備を済ませて全員でインプに乗り込んでトレセン学園へと向かって行く。改めて思うとアイルランドからの姫殿下、学園的にはとんでもない来客なのだが……恐らくその相手は自分がする事になるのだろうな。まあ今更過ぎる心配だし心配とも思っていない。

 

「さてファイン、トレセン学園でまず何をしたい?」

「しんゆ~のチーム練習が見たい!!」

「そりゃせめて授業が終わった後にしてくれ」

 

取り合えずファインを連れまわして色んなチーム巡りをして自分を嫌ってるトレーナー連中への報復でもしてやろうかなと思いながらも学園へと到着するのであった。

 

「やややっランページさんじゃないですかまさか朝からお会いできるなんて!!聞いてください、私最高過ぎる夢を見ました」

「俺は朝からテメェの面見てげんなりしてるよ、ンで何の夢見たって?」

「フッフッフッ……人妻ランページさんが朝御飯を作っている夢です!!」

「あっそれしんゆ~が私たちにしてくれた事だよ」

「―――あれは正夢だった……!?というか殿下マジですか!?」

「うんエプロンつけてた」

「―――……尊み宇宙のビックバンやぁぁぁ!!!」

「お前やかましい」

 

そんないい気分はいきなり遭遇したフローラによって木端微塵に粉砕されるのであった。

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