「フゥッ……」
ルドルフは息を吐いた。走り終えた後のシャワーは実に気持ちがいい、流れた汗と共に疲れも流してくれる。全ての疲れが流れる訳ではないがそれでも気分は良くなる、さてとこれからどうするかと思案しながらも歩いていると話題の人を見つけた。
「やぁっランページ、息災かな?」
「俺ちゃんが元気じゃねぇ時なんてあったかな、叔父叔母の時だって一応は元気だったと思うぜ」
話題になっていない時の方がまれなウマ娘、メジロランページ。今ルドルフが一番レースで戦いたいと心から願っているウマ娘。
「漸く、君と走れる機会に恵まれたようだよ。お婆様から推薦状を頂いてね」
「あ~らら、ウーちゃんに渡した推薦枠の一つは会長だったか。まあ十中十でスーちゃんに渡ってアンタを指名するとは思ってたけどな」
「推薦枠を増やすと聞いたよ」
「まあね」
ランページも推薦枠は持ち続ける事にはなる、なにせ設立者なのだからある意味でこの件においてはURA以上の権利を有している。と言っても全てを自分で持つつもりはないとこれから運営管理責任を持つURAにも推薦枠は渡す手続きはしておいた。誰に渡すかはウラヌスに任せているが……まあ彼女が信じる相手ならば自分も信じられる。
「第一回を踏まえて中距離部門を2000と2400に分ける事にした」
「二つにするのか?」
「ああ。やって思ったけど中距離が2400で長距離が2500じゃ近すぎると思ってな、これじゃあ分ける意味合いが薄い。かと言ってもたかが100でも大きな差があるし2000とじゃ400って更にでかい差もある。だから思い切って分ける事にした、これなら人数も大幅に増やせるから地方の活性化も十二分に狙えるって寸法だよ。どうせファイナルズもレジェンドもお祭りみたいなもんだし賑やかな方がきっと楽しいだろ」
それを聞いて成程と腑に落ちた。中距離の王道とも言われる2400だがそれはほぼ長距離に片足を突っ込んでいるような物だという意見もあった。それと2500は近いと言われて新しく新設するのも頷ける。2000ならば本来マイラーのウマ娘も出ようと思えば何とかなるような距離、妥当な判断だと思う。
「それで、君は何方に出るんだい?」
「俺はどっちでも良いんだけどな、折角だから新設2000に出ようと思ったんだが初代チャンピオンとして2400を無視する訳にも行かんからな」
矢張り、自分の考えは間違っていなかったか。2400に推薦して貰って正解だった。そんな自分の質問に答えたのだから、今度は自分の番だと言わんばかりにランページが質問を返す。
「―――労いってのは間違ってるかい、会長さんよ」
「凄いな、私の心が読めるか」
「幸運と心理学判定でクリティカルって所だな」
その言葉の意味は分からないが、思わず笑ってしまった。何でもありだな、と思う一方で納得する自分が居て酷く面白く感じたからだ。
「結局、君には生徒会に入って貰う暇もなく引退されてしまったな。全く君には生徒会に参加してほしかったというのに」
「それは悪いと思って偶に生徒会の仕事手伝ってるだろ、生徒会管理トレーナーにだって就任してやったんだから勘弁してほしいな」
「フフフッそうだな、君は責任を取っているな。最後には私との責任を取って貰いたいな」
「皇帝と暴君、どっちが上を決める時が来たってか?」
「そこには帝王も加えてやってくれ、そうでないときっとテイオーは怒るぞ?」
「アイツが怒った所で俺ちゃんは困らんよ」
そんな事を言いながらもランページがテイオーを怒らせる事はしない事は分かっている。軽薄そうな態度を見せる事もあるが彼女ほど義理堅く誠実なウマ娘も中々いないのだから。そう思いながらもランページはハーブシガーを銜えた。
「にしても、ドリームトロフィーリーグ蹴ってこっちなんてURAとは相当揉めたんじゃねえか?」
「実を言うと相当に揉めたさ、URAの上層部からも口うるさくドリームトロフィーリーグを優先してくれと言われた」
だと思った。ランページという金の卵を逃したからこそ、URAがルドルフをレジェンドレースに出走する事を容認する事が益々難しくなっていった。初年度の参加も当然許されず、歯がゆい思いをラモーヌやシービーと共にした。
「シリウスがシレっとレジェンドに出走した時は年甲斐もなく、ラモーヌやシービーと一緒になって怒ったもんさ」
「パイセンェ……」
何やってんだと言いたくもなるが、初年度レジェンドレースの面子を見ればそうなるのも当然か……ルドルフも憧れるTTG、それと走る機会を逃した時は本気で悔やんだ。そして次こそは絶対に出てやると決意を三冠ウマ娘同士で誓い合った。
「私の両親やお婆様、メジロ家にも協力を要請して最終的にはウラヌス殿のお力も借りて漸く此処まで来れたさ。それでも他のURA役員にはしつこく喰いつかれたがね、最終的には私の目標であるウマ娘誰もが幸福になれる時代を作るという事を持ち出して説得するぐらいには必死だったな」
「うわっ面倒くせぇな。言ってくれたら俺が殲滅したぜ?」
正直な感想を言えば余りにも面倒だったので本当にランページの力を借りようとも考えたが、これは自分の我儘なのだから自分で成さなければ意味がないとルドルフが立ち向かった。そして安易に自分の目標を使えば自分を説得出来ると勘違いしている連中にも腹が立った。
「言ってやったよ。私の目標は確かにそうだ、だがその幸福とは何を意味するのか。その幸せの意味を私自身が知らなければウマ娘誰しもが幸福になれる時代なんて作れるわけもない、とね」
「良い啖呵だ、世界を救済は囚われの御姫様を救い出すついでに成すってか。いいねぇ俺ちゃんはそういうの大好きだぜ」
これはトレセン学園生徒会長、皇帝、シンボリ家、様々な地位は全て無関係。シンボリルドルフという一人のウマ娘が求める幸福の為の行動。本気で走りたい、競いたい。唯それだけのシンプルな理由。目の前の彼女はそれを受けてくれるだろう。
「トレーナーとして忙しくなる前の最後のレジェンドレースだ、楽しめそうだな」
「ああ。ラモーヌやシービーも君との一戦を楽しみにしている」
「上等だ」
それからルドルフはランページと別れた。そして
「ああ。私も楽しみにしているよ―――最後のレースを」
そう、小さく呟いた彼女の表情はどこか寂し気で晴れ晴れとしていた。
昔の有馬はマイラーとかも出て来てて本当にお祭りのようだったそうです。
というか、適正距離を考えてG3とか行く位だったらさ、もうでっかく有馬とか行っちまおうぜ!!というのがあったらしいです。それはそれで凄い面白そうですよね。マジのお祭り感があって。