休日。日々忙しく働く社会人にとっては正しくオアシスの一時。それはトレーナーも同じではある筈だが、チームを抱えるトレーナーともなればそうは行かない。レースが近ければ休日返上で練習に付き合ったりプランを考える、担当ウマ娘に付きっきりな事は珍しくもないし休みだからこそウマ娘の為に使うという物も少なくはない。そんな休日を暴君たるランページは―――
「よし、洗濯終わり」
「終わり~♪」
家事をして過ごしていた。自分の洗濯物に加えてファインやSP隊長の物も一緒に洗濯し、ファインと一緒に洗濯物を干す。やっている事は完全に主婦のそれである。
「掃除も洗濯も終わった、ゴミ出しもやったし漸くのんびり出来るな。茶でも入れるか」
「緑茶って奴飲みたい~」
「んじゃ饅頭とかも出してやるよ、確かこの前スーちゃんから貰った饅頭がこの辺りに……」
本当に今の彼女の姿を生配信したとしてもきっとあの世界最速最強のウマ娘、独裁暴君メジロランページだとは信じられないのだろうなぁ……とSP隊長は思う。彼女は立場的にメジロ家という名家の令嬢でこれらは世話人に任せてしまってもいい筈、実際隣でお手伝いを一緒にしたファインのようにメイドやらに任せてもいい立場なのに彼女は自分でやるべきことを自分でこなしていく。
「ほい、茶入ったぞ」
矢張り―――不思議だ。日本から世界へと飛び出して、世界有数のウマ娘達に勝利し続けた世界最速且つ最強の暴君。だが、彼女は世界王者とは思えぬ程に気さくでフットワークも異常に軽い。王者という点においてはシンボリルドルフの方が遥かにそのように見える。だがそんな彼女は世界を魅了した。自分もその一人だ。
「今日の夕飯は何が良い?」
「ラーメン!!」
「却下、鍋で作ってやったじゃねえかよ」
「ブッ~!!」
「はい隊長さんは」
「それではえっと……日本らしい物を」
「日本らしぃ~?ンな事言ったらオムライスだってハンバーグだって日本的なもんだぞ、何作ったらいいのかわかりゃしねぇぞ」
気付けば、こんな風に気軽にものを言えるようになっていた。楽しい日本の時間になったのも当然の成り行きだろう。それじゃあ適当なものにするからと言うが、なんだかんだ言いながらも彼女は手の込んだものを作って殿下を満足させてくれるのは分かっているのだ。
「そろそろだな、TV付けるぜ」
そう言われてリモコンを手渡す、そこには―――京都レース場が映し出されており正に今ゲートが開いてレースが始まった瞬間だった。そう、何を隠そう今日はG1レース、ティアラ路線の最終戦たる秋華賞が行われているのである。
「あっこれだねしんゆ~も走ってたってやつ!!」
「確か、フローラ様が言ってましたね。自分が唯一ランページ様の前を走られたレースだと」
「まあ直ぐに抜いてやったけどな」
本当はファインを連れて行ってあげたいとは思ったのだが、SP隊長と協議を重ねた結果として難しいという事になってしまったので見送りとなった。なので今度の天皇賞は連れて行ってあげる事は約束した。ファインと出会った記念すべきレースなのだからそっちの方が良いだろうと言ったら納得してくれた。
『さあティアラ路線最終戦秋華賞が始まりました!!矢張り注目は先頭を走ります桜花賞ウマ娘のドラグーンランス、続くのはオークス覇者オグリローマンであります。そこからアグネスパレード、サウスプリンス、シルバークイーン、が一塊になっております』
矢張りというべきか注目されているのは桜花賞、オークスを制しているドラランとローマン。この二人が二冠を達成するのかというのが注目所か、いや違う。今年のティアラはBNWと同じく三強状態。最後方に控えているのが今回二人を抑えての1番人気となっているヒシアマゾン。
『タイマンっだぁぁぁぁ!!』
『ヒシアマゾン凄い気迫です!!ここからでも彼女の気迫がびりびりと伝わって来るかのようです!!この秋華賞、1番人気となったのは桜花賞を制したドラグーンランスでもオークスを制したオグリローマンでもありません、彼女こそが1番人気です!!その期待に応えることが出来るかヒシアマゾン!!』
「アマちゃん気合入ってるね~」
「そうですね、映像越しにも伝わる気迫……」
ファインも当然面識があるヒシアマゾン、自分がアマちゃんと呼ぶのでファインもそう呼ぶと未来の寮長としての顔が覗いたのか笑いながらもそう呼んでいいのはランページだけと言いながらも特別に許してやるよとファインとも仲良くなっていた。
「トリプルティアラから見て、このレースはどうなると思います?」
「如何だかな、ドラランの仕上がりも上々だしローマンもローマンでオークスを制して更に乗ってるだろう。この二人が抜きんでてるのは間違いない、チョウカイキャロルも中々だが……アマちゃんの気迫がやべぇからなぁ……」
精神的な強さが肉体に作用して一気に強くなる事の恐ろしさを一番よく分かっているランページ、フローラのあれとは違うだろうがあれが正しく作用したら正しく手が付けられない強さに駆け上がる。問題なのはそこまでのレベルまで精神的なテンションを持っていけるかが問題なのだが……
『ヒ、ヒシアマゾンが上がっていく!!秋華賞中盤戦という事でヒシアマゾンが怒涛のスパートを掛け始めました!!カノープスでのロングスパート、ナイスネイチャを連想させます!!』
「おいおいおい、ネイチャ仕込みのロングまで使えるのか?」
「まで?」
アマゾンが使ったのはカタパルトネイチャだけではない、イクノペースにも通ずるようなペース管理術までも使えているように見える。何故ならば中盤に至るまででアマゾンの前を走っていたウマ娘のペースが乱されて、既にスパートをかけるだけの体力を奪われているように見える。
「ありゃ揺さぶろうとして逆にアマちゃんに揺さぶられたな。何、俺の技まで出来ちゃったの?」
デバフ返し、というには性質が異なる。彼女がやったのはデバフを受けながらもそれがあたかも不発に終わったかのように見せかける事で相手の動揺を誘った、言うなればランページ・ゴーストの下位互換的な技術だがそれに加えてロングスパートやペースを複合する事で汎用性を増しているのだろう。
『さあ直線に入るぞ!!ドラグーンランスが先頭、しかしオグリローマンが激しく競り合う!!後方からヒシアマゾンが一気に来るぞ来るぞ来るぞ来たぞ来た来た来たぞ!!ヒシアマゾンが一気に来襲っ!!桜と樫の借りを返すと言わんばかりに二人の喉元まで迫ったぁ!!』
「さあドララン、ローマン!!!!」
「望む所だぁぁ!!」
「私だって、負けるつもりはなぁぁぁい!!!」
そのあまりにも巨大な気迫に飲まれることもなく寧ろそれに果敢に立ち向かう二人の闘志も燃え上がっていく。だが、それを待っていたのがアマゾンだった。二人の闘志に火がついて更に巨大となった魂の炎を逆に利用するかのようにアマゾンの走りは一段の力強くなった。
「アタイのタイマン魂は、相手が強ければ強い程に燃え上がるのさ!!そしてそれは敵にとっては地獄の業火、さあ行くよタイマンだぁぁぁぁ!!!」
『ヒシアマゾン、ヒシアマゾンが一気に抜け出していく!!更に走りが力強く、素早くなっていくぞ!!ヒシアマゾン先頭!!1バ身から2バ身と離していく!!いやドラグーンランスとオグリローマンも必死に伸びてくる!!だが近づけばまたヒシアマゾンが突き放す!!残り100を切ってヒシアマゾンが、5バ身差をキープしてそのまま、ゴールイン!!!クラシックティアラ戦線最後の一冠、秋華賞を制したのはヒシアマゾン!!桜と樫の借りを見事この秋華賞で返しましたぁ!!そして、この三強が三つのティアラの栄冠を分け合った形となりましたぁ!!』
「っしゃあああああっ!!!」
高らかに上げた歓声は自らの勝利を誇示する叫び。満面の笑みのまま、心の底からの喜びを全力で表現する彼女にドラランとローマンは肩を竦めながら拍手を送るのであった。
「やった~アマちゃんが勝った~!!」
途中からどっかから持ってきたのかサイリウムやらを振って応援していたファインもアマゾンの勝利を喜んでいる。
「最後の伸びは凄かったですね、お二人のスパートも相当だったはずですが……」
「相手が強ければ強いだけ強くなれるってか、何処の主人公だよ」
これでティアラ路線は終わりを告げる訳だが……次には直ぐに菊花賞がやって来る。無敗の三冠が掛かったブライアン、一体どのような走りをするのか。どうなるのか楽しみでしかない。
「さて、どうなるかね」
「如何しようランページさん、私の後輩やばくなりすぎて怖い」
思わずそんなことを呟いてしまったフローラの視線の先には……瞳に青い焔を滾らせながらも意識を集中しているブライアンの姿があった。