貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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438話

秋華賞を制したのはヒシアマゾン。これによってティアラ路線の栄冠を手にしたのは三強とされた三人のウマ娘がそれぞれ分かち合う結果となった。それはBNWのそれを想起させた、そして―――間もなくBNWの一角たるビワハヤヒデが制したクラシック三冠路線の最終戦、菊花賞が行われようとしていた。1番人気は矢張り現在無敗の二冠、同世代の中でもずば抜けて際立った存在たるリギルのナリタブライアン。最大のライバルであるサクラローレルは凱旋門賞に向かい2着を勝ち取ったが、スケジュール的にも菊花賞参戦は難しい。故に強いて言うなれば敵となるのはオフサイドトラップしかいなかった。

 

「トラップでも、あいつの敵になるのは難しいだろうな」

 

そう述べたのはメジロランページ。ネメシスの統括チーフとして彼女を見ていた事もあり、黒沼トレーナーの下にも姿を現すウマ娘。トラップはブルボンの力も借りて懸命なトレーニングを積んでいた。ブルボンと黒沼に菊花賞をプレゼントすると言わんばかりの気迫でトレーニングに望んで、黒沼が太鼓判を押すほどの充実した状態で菊花賞へと望むことが出来るようになった。そしてその日がやって来たのだが……

 

『さあ三冠街道を激走した各ウマ娘達が一斉に京都の坂を駆け下りていきますが、その中でも突出した加速をしているのはオフサイドトラップ!!オフサイドトラップが一気に前へと出ていく!!やや大回りですが、坂の加速と遠心力を巧みに利用して外へと出ながらも一気に先頭へと駆け上がっていくぞオフサイドトラップ!!トレーナーと先輩に菊花賞の栄冠を届けると熱く語ったウマ娘が先頭に立ったぞオフサイドトラップ!!さあ京都の直線だ、オフサイドトラップ!オフサイドトラップがこのまま先頭をキープするのか!!?』

 

淀の急坂を駆け下りながらも自分の有利へと上手く繋げていくトラップ、まるでミスターシービーのような戦法をしながらも先頭に立ったトラップはもう後の事なんて考えずにスパートをかけた。もう後は振り切るしかないんだ、もう誰も前を走らせない!!

 

油断は無かった、寧ろ警戒と全力を尽くす事だけしか考えていなかった。それなのに―――直線に入った僅か数秒、確実に自分の全速力を越えて前を走っているウマ娘の背中がそこにあった。地を這うような低い姿勢、頭が極端に低い故か脚力が更に強化されたそれをさらに強くすると言わんばかりにフォームが変わった。トラップはそれを知っている、あれは―――全身走法。

 

『ナ、ナリタナリタナリタぁ!!!大外からナリタブライアン、ナリタブライアンが一気に上がってきたぁ!!刹那の出来事、オフサイドトラップを越えて今先頭に立ったぞナリタブライアン!!そしてそのままぐんぐんと伸びていく!!オフサイドトラップも懸命に脚を伸ばす、後続との差が開いている事から彼女は確実にスパートを掛けているのにそれすら足蹴にするウマ娘!!これがビワハヤヒデの妹、ナリタブライアンか!!妹は大丈夫だ、妹は大丈夫だ妹は大丈夫だ!!!2着はオフサイドトラップで確実だ、ナリタブライアンが再び、リギルに無敗の三冠を齎しましたぁぁぁ!!!史上三人目となる無敗の三冠のウマ娘の誕生、これがシャドーロールの怪物、ナリタブライアンだぁぁぁぁ!!!』

 

トラップのスパートは確実に一級品だった。あのままならばトップでゴールしたとしても可笑しくない筈なのに、ブルボンと黒沼によって鍛えられた彼女を完全に抑えつけての勝利。1着と2着の間は10バ身以上の大差、紛れもない怪物の力が証明された瞬間だった。

 

「……やべえな」

 

シンプルで短い言葉で発せられたランページの言葉に全てが集約されているかのようだった。トラップが最後に先頭を取ってそのまま逃げ切りの体勢を作ったと思いきや、それを一瞬で飲み込んで飛び出していったブライアンの走り。

 

「しんゆ~……このブライアンさんの走りって……しんゆ~の……」

 

震えるようにしながらも自分を見てくるファインの言葉をランページは肯定とも否定ともとれるような複雑な表情を作っていた。ブライアンのフォームは既に完成されていたと言っても過言ではなかった筈だった。あのままで十二分に強かったのが更なる力を得てしまった。自分が与えてしまったと言っても過言ではないそれの強さに何も言えなくなった。

 

「こりゃ……冗談抜きで会長を越える三冠ウマ娘の誕生だな……」

 

現時点で三冠ウマ娘の最高到達点とされるのが皇帝たるルドルフ。テイオーこそだという者もいるだろうが当人はそれを認めていないだろうし、ルドルフを頂点とするのが恐らく正しいだろう。だが……ブライアンの走りはルドルフの物以上のものを感じずにはいられない、見ている此方が武者震いする程の覇気に満ちていた。

 

「こりゃ、今年の有は荒れるぞ」

 

ネイチャにタンホイザ、ライスも当然参戦するだろうし此処にBNWやブライアン、そしてヒシアマゾンなども加わる事も考えられる……群雄割拠というレベルではない。此処までの有もそうそうない。出せるとしたら自分が出た年の有ぐらいかもしれない。

 

「世代を追うごとに凄いウマ娘が出てきますね……これが日本、ですか」

 

一つの強さがまた次へと受け継がれて、それを纏って更に強くなっていく。これから日本のレベルは加速度的に増していくのだろうとピッコロプレイヤーは思った。何故ならば、かつての最強の強さは既に次代へと受け継がれている。そして次の世代へも伝播し続けていく事だろう。

 

「ローレル、次は……お前との、決着だ」

 

ブライアンにとって、この菊花賞は必然にして踏台、勝って当然の戦いでしかない。こんな所で躓いたらあれに見せる顔などはない。彼女がそうであったように自分もまたそれを望む、ローレルとの決着。その舞台となるのはどのレースなのか。ただ、今は……

 

「約束は守ったぞ、さあこれでお前に相応しい相手となれたかローレル」

 

約束を果たした事への充実感と決着をつけるレースへの期待で胸がいっぱいだった。

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