「しかし、こうして改めて見せつけられると驚きの言葉しか出ないな……どういうメニューを組んだのか全部見せて貰ったけど、マヤがこれをか……」
ターフを駆けるマヤを見ながらも手元のタブレットに目を落とす坂原トレーナー。復帰早々にプレアデスのサブトレーナーという役職に就くことが出来た彼はランページからマヤの担当をする事をメインにすることを命じられそれに従っている状況ではあるのだが、マヤの能力に驚きを隠せてはいない。これらを作り上げたメニューも大半が基礎的なメニューばかりなのだから猶更驚いてしまう。
「トレーナーちゃ~んマヤの走り見ててくれた~?」
「ちゃんと見てたよ、次は次走を意識したものに変えようか」
「ハ~イ!!」
マヤは良くも悪くも天才肌、どんな技術だろうが直ぐに会得してしまうし勉強もよく出来るので授業態度も褒められた物ではなかったし宿題はやらない事が多かった。そんな彼女が自分の言う事をよく聞いてくれるし基礎能力向上の反復練習にも文句一つ言わずに従う、これだけでもランページがどれだけ優れた指導者だったのかがよく分かる。
「それは違うと思いますよ」
「上水流さん」
「さん付けはやめてくださいよ貴方の方が年上で先輩なんですから」
「じゃあ上水流君?皆みたいにちゃんは流石に」
「君で」
そんな自分の心情をくみ取るかのように言葉を掛けて来た上水流トレーナー。
「彼女は確かにトレーナーとしても優れてるけどそれ以上にウマ娘としての能力が未だに突出し過ぎてるし当人がそれで強くなったっていう説得力があり過ぎる。それにあの手この手で彼女を納得させるのが上手い、加えて」
「加えて?」
「マヤは貴方と一緒に居られる事が嬉しいんだよ」
ランページは未だにさん付けだし上水流は上ちゃんと呼ぶ。そんなマヤが唯一トレーナーと確り呼ぶのは坂原トレーナーのみ、一緒にトゥインクルシリーズを走れると思っていたが、事故によって走れなくなってしまった事が彼女にいい意味で影響を及ぼしているのだろう。そして今は兎に角坂原と共に居られることが嬉しい。
「だから、従ってくれてると?」
「というよりも甘えてたっていうのが分かったんじゃないかな」
「マヤ、トレーナーちゃんに甘えすぎない。マヤはマヤでトレーナーちゃんを守れるように強くなるんだから!!」
合宿でタマに言われた事が深く深く突き刺さっていた。トレーナーに守られるだけの存在でいいのか、弱いままでいいのか、自分がトレーナーを守れるぐらいに強くなるという気概を持て。今のマヤには酷く重い言葉と変化していた、無事に復帰出来た坂原トレーナーを今度は自分は守れる位に強くなろうと決意を固めていた
「そうか、タマモクロスさんが……それなら今度お礼に行かないとな」
「それならその内チャンスがあると思いますよ、このチームはランページさんが色々と凄い人とか良く連れてきますし」
「いや自分から行くよ、そういうのは自分から行くのが大切だからね」
こういう所凄い確りしてるなぁ……と思いながらも本当に人格者なんだなと感じる。だからこそマヤも心から信頼を寄せて復帰を喜んでいる理由もわかる。
「そう言えば、肝心のランページさんは如何したんだい?」
「ああ、今はカノープスの方に行ってますよ。南坂さんの帰国はブリーダーズカップが終わってからでしょうしまだまだ彼女の多忙な日々は続きますよ」
「それを少しでも軽く出来るように僕も頑張らないとな」
「病み上がり何ですから無理だけはしないでくださいよ」
「フゥッ……よし休憩しようぜ」
「矢張り貴方と走ると気合が入りますね」
「そんな風に軽口利けんのはお前位だよイクノ」
プレアデスが使っているのとは別のコース、そこではカノープスのメンバーが走り込みを続けているのだが殆どが荒い息を吐いているというのに唯一平然と普通に喋っているの鉄の貴婦人ことイクノのみ、ランページもそこそこに息が乱れているというのに……矢張りスタミナでは彼女に勝てないというのがよく分かる。
「いやぁやっぱり2000はランの領域だわぁ……流石に勝てないかぁ」
漸く息が整ったネイチャが参った参ったと呟きながらも両手を上げて降参と言いたげなサインを出しながら此方を見る。今度の天皇賞に出走を決めているネイチャ、2000mという距離は当然ランページが得意とする距離、そこでいい勝負が出来れば本番でもいい走りができると思ったのだが、矢張り簡単にはいかないらしい。
「芝2000のワールドレコードは持ってねぇけどダートなら持ってるからな、だけど普通に喰い付いてきて凄かったぜ?」
「ワールドレコードホルダーに言われると悪い気はしませんなぁ~」
実際問題ネイチャも相当に強い、テイオーとの同着でダービーウマ娘の称号を持っている彼女。G1勝利はあれ以降中々恵まれないが、それでもG2G3では平然と勝利するので単純に相手に恵まれすぎているだけの話でしかないある意味でマチタンと同じ状況なのである。
「アタシも出ますよ~!今度こそハヤヒデにリベンジです!!」
「私も今度こそG1取るぞ~!!えいえいむんっ!!」
そんな話をしていると自然と笑いが込み上げてくる辺り、自分は本当にカノープスのウマ娘なんだなぁという事を自覚する。本当にここは居心地がいい、後は……此処に愛しいライスがいてくれたらいう事ないのだが……。
「ハァッ……ライスがいてくれたら完璧なんだけどなぁ」
「言いっこなしでしょ、愛しい妹なんだからお姉様として応援するところでしょ」
「それは分かってんだけどさぁ……」
現在ライスがいるのはなんとオーストラリア、メルボルンカップに出走予定なのである。ライスが最大の力を発揮できるのは矢張り長距離、ステイヤーとしては日本最強格なので思い切って海外に路線を切ってみたのである。そこで選んだのがメルボルンカップ、同行者として佐々田トレーナーにパーマーと山田トレーナー。パーマーはドリームトロフィーリーグに移籍しているが、メルボルンカップの覇者という事で同行をお願いしてみたら快諾してくれた。
「世界かぁ……くぅぅぅっアタイも行きたいねぇ!!」
「私も行きた~い!!ランページさんみたいに!!」
「お前ら二人はまずエリ女に標的定めとけ、なんだったら三連覇ぐらいして俺を越えるぐらい言えよ」
「「それ燃える!!」」
「勝つのはアタイ!!」「私だっての!!」
賑やかで楽し気なカノープスに居ながらもランページは笑ってた。そして自分の力を活かす為に再び走りだす準備を固める。
「ネイチャ、秋天勝つ気ならもう一本行っとくか」
「そのつもりだっての……この位で音を上げる程ネイチャさんは軟じゃないからね」
「その意気です、私も幾らでも付き合います」
「そのコメントは嬉しいんだけど幾らでも走れるのはイクノぐらいなんだよなぁ……」