天皇賞も近づき、秋の深まるこの頃。ランページは今日も今日とてトレーナーとしての仕事を片付けて行っている。坂原トレーナーというサブトレーナーも付いた事で背負い過ぎていた仕事量も分担されて気楽になった所に今年のファイナルズとレジェンドレースの仕事が多少なりともやって来る、こればっかりは諦めて片づけている。
「相変わらず忙しそうだな、本当に坂原と上水流に仕事分担してるのか?」
「アンタみたいにウマ娘の足を触る暇がねぇ位程度には仕事してるつもりだよ」
「おま、まだそれ言うか……」
そう言いたくなる程度にはランページは忙しそうに見える。と言ってもプレアデスのサブトレーナーに仕事を分担出来るのはあくまでプレアデスのチームの物。ネメシスの統括チーフ、カノープスの代理トレーナー、ファイナルズとレジェンドレースといった仕事はあるので仕事が減ったとしても普通に多忙なのである。その多忙なレベルを処理してしまうのがランページなのだが。
「あんま根詰めすぎるなよ?つうかファイナルズとレジェンドレースってURAに委託したんじゃねえのか?」
「それでも最低限の仕事は回ってくんだよ、そもそも回しているのは今年からだし俺がやった方が色んな意味で早い上に楽な物だってあんだよ」
「成程ねぇ……んっ?」
そんな中で不意にランページの席の傍にあるゴミ箱に目が行った。そこには妙に綺麗で丁寧に包まれている封筒があった。
「おい、未開封の封筒がゴミ箱に入っちまってるぞ」
「あんっ?」
「ほれこれだよ」
沖野は親切心からそれを拾い上げてランページへと手渡す、何か間違って落としたなら大変だと受け取って確認するのだが……ランページはなぁんだ、という落胆の溜息と共に握り潰してからゴミ箱に再び捨てた。
「何だどうでもいい物だったのかよ、んじゃ余計なことしたか」
「いや潰し忘れた俺の不手際、如何でもいい内容だったなら重要なものと区別する意味でも握り潰しておくべきだった」
「どういう意味だよそれ」
沖野だけではなく隣の坂原や上水流まで此方を見てくる、沖野だけだったら完全ガンスルーして仕事を続行するところなのだが世話になっている二人も気になっている様子なので答えない訳にはいかないだろう。
「同窓会の誘いだよ、中学の」
「あ~成程そういう奴か」
「結構センシティブな奴だったんだね」
「もしかして、急に来たとか?」
男三人はそれを聞いて如何して握り潰したのかを察した。そんな中でおハナさんは分からなかったのか、珈琲を渡しながら聞いてきた。
「それなら握り潰す事はないと思うけれど、貴方なら中学時代も友人は居たんでしょ?」
「これでも中学時代はボッチだったもんでね、トレセンに来るまでまともな友人なんて居なかったわ」
「なんか意外だな、お前さんがボッチとか」
実際問題、中学にまともな友人なんて居なかったのは事実である。本来フィジカル的な意味で強者である筈のウマ娘が極貧且つアルバイトで新聞配達をして走り回っている姿が町内で目撃されたのだから当然の如く苛めの対象にすらなっていたのでまともな友人なんて中学に居なかった。それこそライアンこそが胸を張って友人と言える関係だった程。
「それに俺ちゃん位にVIPになっちまったらマスゴミ共が群がるに決まってるじゃないですか、俺ちゃんならともかくまともな中学生を真っ当にやってた連中がちゃんと対応なんて出来る訳がないじゃないですか」
「そりゃまあ、確かに言えてるな」
「貴方もちゃんとした対応が出来てるとも言えないと思うけれど……炎上の危険性とか度外視発言ばっかりウマ娘がどの口で言うのよ」
「という訳で俺は行く気ない、つうか年末とか普通に忙しいんで暇がねぇっす」
「レジェンドレースもあるしな」
真っ当な意見だったので納得もしつつそれぞれが仕事に戻っていく中でランページは招待状を押しつぶすかのように机の上にあったゴミを投げ捨てておく。正直もう関わる気もなかったのだが、如何にも関わるしかなくなってきたのかもしれない。何せ、今年のファイナルズにはその中学所属のウマ娘が予選を突破して本選に駒を進めている。
「(本選に進んだ後輩を応援するパーティも同時開催するねぇ……勝手にやってろ)」
後輩を応援するのは良いがそれならば自分を巻き込むなと声を大にして言いたい。自分はレジェンドレースに出走する身な上にプレアデスのトレーナーとしても多忙な上にファイナルズなどにも設立者として運営に口を出す立場、そんな人間が出身校の後輩が本戦に出場するから応援パーティに顔を出す?仮に顔を出したら全ての出走者にそれをしなければ不公平にもなるしあらぬ疑いを掛けてくれと言っているようなものだ。そんな事も理解出来ないのかと溜息が出てしまう。
「そもそもこの時期のトレーナーに同窓会ぃ?誘いたいなら時期考えろ、俺を利用したいなら余計にな」
と堂々と呟いたランページに周囲は苦笑した。普通ならば言い辛く口にしないであろう事を平然と口にする、真実であろうとも敢えて口にしないであろうそれを恐れる事もなく切り出していく胆力には本当に恐れ入る。恐らく同窓会の主催は随一の出世頭になったランページを利用するかおだててお零れに預かろうとでも考えたのだろうがそれに易々に乗せられるのはメジロアサマか、スピードシンボリか、南坂トレーナー位しかいない。
「トレーナーになっていなかったとしても、君が同窓会においそれと行ける訳がないもんね」
「そゆこと~おっといけね、俺ちゃんカノープスの方行かねぇと。悪いけど上ちゃんにサハらんあと頼むぜぃ」
「任せといて」
「行ってらっしゃい」
そう言いながらもランページは職員室を後にしていく。天皇賞まで後僅か、その後僅かでどれだけの力を付けられるかが掛かっている。そんな時期にランページはリギルだけではなくカノープスにも力を貸しているので大忙し。
「素直に頭が上がらないわ、今度飲みに行った時に奢らなきゃね」
「だな。俺も世話になってる訳だし」
「それだったら私へのツケを少しは返して欲しいんだけど」
「そ、それを言うなよおハナさん……毎月ちゃんと返済してるっしょ?」
とある方がランページの出身校に関わりがあるウマ娘を出してくださったので成程そういうのもあるのか!!と思ったのでその援護射撃。