「さて、如何だったよ殿下」
「もう最高~!!これが日本のG1レースなんだね、会場全体で応援する感じが最高!!」
「日本は熱量が凄いですね、何方かと言ったら私たちは見届けるや見守るという意味合いが強い感じがありますけど此方は応援が共に走るかのような迫力がありました」
VIP席で天皇賞を観戦したファインは極めてご満悦、中継でしか見る事が叶わなかったレースを漸くレース場まで足を運んで見る事が出来たのだから大喜び。そして日本のレースがアイルランドのそれとは違っている所、レース場その物の雰囲気がお祭りのようだと楽しんでいた。この世界では毎週毎週行われている行事なので大人気は当然な上にそれに合わせてお祭りのようになっている。それによって景気が凄く良いと言っても過言ではない。
「ンで、今日そっちは何処行くんだ?」
「今日はね、メジロ家にお招ばれしてるの。だからそっちいく」
「メジロ家?お婆様辺りが招待してるのか」
「はい、是非お話をという事でして」
アイルランド王室の姫殿下との対面と思うととんでもなく重要なイベントな気もするのだが、自分には全く話は来ていないのでお婆様辺りが呼ばなくてもいいと思われているのだろう。だから自分はトレーナーの仕事に集中するとしよう、今日は今日で自分もやりたい事があるので有難い。
「そうか、弁当は一応作ってあるけど持ってくか?」
「持ってく~!!」
そんなこんなもありながらランページはトレセン学園へと出勤、ファインとピッコロプレイヤーには合鍵も渡してあるので戸締りも任せて家を出てトレセン学園に到着していつも通りに仕事を開始するのだが、仕事前に珈琲を淹れようと思っていると東条がやって来た。
「おはようございますおハナさん、今コーヒー淹れてますけど要ります?」
「是非お願いするわ、貴方のはおいしいから。それとおはよう」
「おみくじですから味の保証はしませんけどね」
「自販機の珈琲と比べたら絶品じゃない」
「それと比べられてもな~」
そんな会話をしながらも珈琲を淹れる、今日のはハワイコナを少しだけ多めにブレンドして淹れてみる事にする。さてさてどんな味になるのやらと思いながらも淹れられた珈琲をおハナさんに手渡すとその香りのよさに少しウットリしつつも啜る。
「うんっまろやかなのにコクが強いし苦みもちょうどよい、私好みの味で大吉って所ね」
「そりゃよかった。ああそうだ、ハヤヒデなんですけどあいつ脚大丈夫ですか?ラストのスパートは相当に脚に来てるように見えましたけど」
ランページが心配していたのはハヤヒデの脚についてだった。史実のビワハヤヒデはこのレースで5着、そして屈腱炎を発症してしまった事で引退してしまった。2着な上にウイニングライブでも元気な姿を見せてくれていたがそれでも心配はあった。
「大丈夫よ、リギルはレース後は病院での検査を義務付けてるけどそこでも疲れている以外は健康そのもの、だって太鼓判を押されたから」
「そうっすか……いや、ラストスパートがネイチャとタンホイザに刺激されて無理してるように見えましてね」
「あら貴方にもそう見えたのね、それは私も思ったわ。でもそれは貴方の真似をしたからだってあの子は納得してたわ」
レース後にネイチャに言われた言葉を伝えられて思わず自分も納得してしまった程だった、確かにあの走りはある意味でランページだった。
「あのあとね、フローラにハヤヒデが頭を下げたのよ。私が今どの位ランページ先輩に似ているか見てください、それを直し、基礎から鍛え直す為にもって。それでレース映像を見せてあの子の感想を聞いたら……もうドン引きよあの子どんだけ貴方に首っ丈なのよ」
『まずはフォームですね。このフォームはランページさんの物に酷似してますがハヤヒデちゃんは全身走法を敢えて取り込まずに全体のアベレージを上げる為の走りをしているんですけどそれと逃げの相性は正直物凄く良いって訳じゃないからそこまで行くならブライアンちゃんと一緒に全身走法を取り入れた方が向上するね。先行策だったら寧ろ今のが完璧。それでコーナーの曲がり方もランページのそれと同じだけど貴方は根本的にパワーが足りてないから技術で補ってるんだけどランページさんのそれはシンザン鉄で鍛えたパワーから来るものだからコーナリングとの相性は悪いし直した方が良いと思うの。パワーを鍛えるのもありだけどそれやると技術との兼ね合いのバランスが悪くなっていくから今はまだいい、それで次だけど』
『あっえっその、えっ……メ、メモ取りますから少し待ってください!!』
「って感じだったわ」
「キモ」
二文字に凝縮されているランページの本音の吐露、それには東条も概ね同意というかハヤヒデのレースを見ながらも当人にはまるでランページが隣を走っているかのような語り口で喋り続ける上にその解説と相違点などが極めて正確且つ的確だったので余計に気持ち悪さが濃縮されている感じがした。ハヤヒデはそれを必死にメモしていたが、終わった時には愛用しているメモ手帳の十数ページが埋まる程に語り尽くしたフローラの痕跡がありありと見せつけられて流石に彼女も引いていた。
「というか、あいつこれからどうするんすかね」
「さあ……何も考えてないんじゃないかしら。私としてはこのままあの子が引退したとしても驚かないわよ?」
「それってトレーナーとして良いんですか」
「あの子を制御するなんて不可能よ、貴方が鞭でも持てば何とかなりそうだけど」
「俺にあいつのケツでもぶっ叩けと仰います、絶対に喜んでよがるからやだよ俺ちゃん」
「……確かに」
―――ご褒美ですね分かります!!
「「なんか毒電波が……」」
共に受信してしまったフローラの毒電波、取り合えず珈琲のお代わりで気分を変えつつもランページは空を見上げる。
「にしても海外進出が激しい事……テイオー、ターボ、ライスかと思ったらブルボンまで海外に行きやがる」
「香港カップだったかしら、その結果次第だと来年の凱旋門狙ってみるとか黒沼言ってたわよ」
自分の遠征を皮切りに海外へと挑戦するウマ娘は増加傾向にある。これも自分が夢を繋いで末の結果なのだろうか。
「兎も角まずはブリーダーズカップか。今年は芝もダートも蹂躙されるのか、可哀そうなアメリカ」
「負ける事前提で言うのやめてあげなさいよ……確かにレディセイバーとアメイジングダイナはアメリカのダート戦線荒らしまくってるけど……」