「アメリカは結構な騒ぎになってたってマジ?」
「今更かテメェ」
ネメシスの統括チーフとしての仕事をしている時に隣で声を張り上げているサンデーサイレンスに向けて言葉を掛けて見た。ターボの電話で聞いた一件について尋ねてみればサンデーは真実だと口にした。
「俺は言うなれば日本で言う所のオグリキャップだっつったな、名門のでもなければただの一般家庭のウマ娘だと」
「言った。日本はそういうのは大人気だし物語の御約束の一つだし実際オグリ先輩も地方から中央に来て活躍したから地方から葦毛のどえらい怪物ウマ娘が来るってなってたらしい」
自分でも日本の事を調べた時は心から驚いた事は今でも忘れない、アメリカのそれは名門至上、そして外見から来るデータが全てだと言っても過言ではない外見至上主義。脚に曲がっていたり、過去に受けた事故などの後遺症などが少しでも見られれば弾かれるような世界でサンデー自身も酷い扱いを受け続けていた。だが日本ではアメリカほどではなかった。寧ろ本気で努力を志す者に対しては手が差し伸べられたり、寧ろ強さが伴っていなくとも大勢のファンが付くことも珍しくもなかった。
「俺の事は言うまでもねぇだろうが、イージーゴアの奴の時はそりゃひでぇ言われようだった。トレーナーや御大に苦言を呈される位には荒れた、今思うと御大もよくもまあ俺を気に掛けてくれたと思う位だ」
サンデーサイレンスの終生のライバルとされるイージーゴア。対照的と言われるまでの超名門の出な上にその見た目の美しさと強さからセクレタリアトの再来とまで言われていた程。だがセクレタリアトはイージーゴアの面倒を見る事もなくサンデーサイレンスの後見人となった。その事は一大ニュースにもされたしセクレタリアトの見当違いやら乱心までとも言われたらしい。
「実際名門主義やらでアメリカのウマ娘が強くなってんのは確かだ、だがそれだけで強くなるほどレースは甘くねぇんだよ」
「アンタがその証拠だって事か」
「ああ、御大もその事を危惧してた。その為に一石を投じた、俺を通してな」
結果から言えばサンデーサイレンスとイージーゴアは四度の激突し、サンデーサイレンスが三勝し二冠とブリーダーズカップクラシックでレースレコード勝利で年度代表ウマ娘となった。見栄え、気性、血統、運。あらゆる物をどうしようもない程に持たず、この世を憎んでいたウマ娘はまるでアメリカンドリームをそのまま人生に落とし込んだような現役人生を送り、多くのファンが付く事となったが―――サンデーサイレンスがファンサービスをしたことは全くなかった。時のウマ娘となったが、それらを全て冷めた目で侮蔑するかのように見つめていた。
「そんな時だよ、テメェがアメリカに来やがったのがよ」
「あれま、それで俺ちゃん出てくるわけ?」
「ああ。此処の理事長から力貸してくれって言われたが、如何したもんかと思ってたところにテメェが来たんだよ」
サンデーを決心させたのはランページの存在だった。あの凱旋門を制覇した無敗の世界最速のウマ娘、セクレタリアトも気に掛けていたがサンデーの興味はそれ以上だった。何故ならばランページは今でこそメジロ家のウマ娘として有名だが、ランページのレースを最初から追ったサンデーは直ぐに一般家庭のウマ娘だと見抜いた。
「ンで俺と日本行く時に全部ぶっちゃけたと?」
「そういう事だ、前以て録音してたのを御大に預けてな。御大は笑顔で送り出してくれたぜ、日本でも達者でなっつってな」
―――そうか、君も日本行きを決意したか……そうか君の選択ならば私が何かを言う権利はない。達者でな、君との日々は楽しかったぞ。
その言葉と共に自分の録音データと共に去っていくセクレタリアトの表情はまるで独り立ちをする愛娘を見送る父親のように穏やかだったとサンデーは語る。そしてそのままランページと共に日本へ向かうサンデーの代わりに取材を受け、そこで録音データを公開し何故サンデーサイレンスがアメリカを離れる事にしたかを赤裸々に公表した。
「そっからアメリカのウマ娘界は揺れ続けてる、セクレタリアト御大が取り組んでるんだから自分達も取り組むべきっていう奴らとアメリカの伝統というべきそれを変えるべきではないっつうのがぶつかり合ってる」
「そういうのはどの世界でもいるもんなぁ」
「ンで、レースで決着付けようぜってなった所のダート戦線をレディとダイナが荒らしてるから余計ややこしくなった」
「あれま」
そしてレディとダイナは極々一般的な家庭育ちでアメリカが掲げていた名門至上主義とは正反対というべきウマ娘なので余計に荒れた。故にそれらとも決着をつける為に今年のブリーダーズカップは余計に熱狂する事になるだろうという予想が立てられている。
「芝も芝で日本から来るせいでまた荒れるだろうなぁ……いい気味だぜ」
「アメリカは色んな意味で収拾付ける為にファイナルズは導入しても良いんじゃねえかな……ある意味はっきりすると思うんだけど」
「それは俺も思う、というかアメリカ導入したら確実に世界中で導入されるぞ」
「あ~それはやだな……ただでさえ今年は海外からのレジェンドレース参加希望者多いのに……しかもご丁寧に留学とかの言い訳準備してやがるから弾く訳にも行かないし……」
「そりゃ大変だな、俺も出るけど」
「大体アンタのせいなんだよなぁ……」
熱狂するアメリカの裏の日本では、苦悩する暴君が居た。自らが立ち上げたレースは何時の間にか世界中で割と本気で検討される位には有力なシステムなのではないか?と。浅い考えが此処まで来てしまうと本気で頭痛の種にしかならない。
「……ハァッ……ライスぅ~早く帰って来てくれぇ……」
「くしゅぅん!!」
「あれ、ライス風邪?」
「ううん、きっとお姉様がライスの事応援してくれたんだと思う」
「アハハそれなら吉報だね。それじゃあ―――勝ってきなライス!!」
「うん、パーマーさん、パーマーのトレーナーさん……ライス行ってくるね!!」