「……ふぅっ~……良い天気だねぇ」
そんな言葉を口にしながらも寝そべってハーブシガーを吹かし続けているランページ、陽気はまだ心地良く肌を撫でる風を起こす。但し最近は曇り空も多くなり始めている、梅雨の季節も近いだろうか。まあ南坂はそれはそれで重バ場の練習が出来ると思っておきましょうと言っていたが……シンザン鉄を着けた上でやらされるのだろうか……そう思うと若干鬱になりそうだ……そんな事を思っていると、自分に影が掛かった。
「少し、お時間良いですか」
「出来る事ならこのまま昼寝でもさせて欲しいんだけどねぇ……」
「手間を取らせるつもりはありません」
自分の影を被せたのはリギルのアグネスフローラ、次のオークスで激突が決定事項となっているウマ娘。向こうからしても自分とイクノは目の上のたん瘤、あの時以上のマークを被せて来るのだと思っているが、実際はどうなる事だろうか。
「まあいいか、んでなんぞや」
「如何してフローラステークスへ出走をしたんですか」
フローラの意見は真っ当ではある。既にオークスへの出走権を得ているランページが態々トライアルであるフローラステークスへと出走する意味合いは薄い、同室のラモーヌが出走したのは東京レース場での敗北経験があり、それが不安視されており、この不安点を払拭する為に出走したという経緯がある。
「なんでそんな事を聞くんだ?」
「純粋な好奇心、では駄目ですか」
何処か暗い瞳の中に混ざる光に一瞬、病的な何かを見た。確かにそれが好奇心と言えるのだろう、フローラの容姿がやや小柄で瞳にハイライトのあるタキオンだからか、尚更血の繋がりのような物を感じずにはいられない。
「細やかな夢の為に、俺自身の目的の為に、名を上げる為、かな」
「意外ですね、貴方はそういう物に興味があったなんて」
「寧ろその為に走ってた位だぜ俺は、独裁者なんて言われちまってるし悪乗りもしたけどな」
そう言いながらも先日のフローラステークスでもランはイクノと共に出走、そしてそのまま勝利を収めた。戴冠へと手を伸ばす為にチケットすら独占すると言わんばかりの行いにマスコミは独裁者メジロランページの事を更に面白可笑しく掻き立てる。
『ターフの独裁者、メジロランページ!!』
『快進撃の9連勝!!』
『皇帝をも超える独裁政権樹立か!!』
ルドルフの無敗連勝記録が8連勝だった事に掛けて、皇帝を超える独裁者と騒いでいる。だが自分からすれば騒がれれば騒がれる程に良い、これらは全てあの夫婦への後悔と絶望の薪となるのだから。
「名誉を望んでいる、それなのに不思議と貴方からは嫌な物を感じませんね。そう言った物を求める物には少なからず嫌な物を感じる物ですが……」
「んな事言ってる暇あったら俺対策でも考えておいた方がいいんじゃねえか?少なくともスリップストリームはキツかったろ」
そんな言葉にフローラは苦々しい笑顔を作りながらも本当に、と頷いた。
「あそこまでの物なんて……思いもしませんでしたよ」
「伊達に鍛えてねぇって事よ俺もイクノもな」
あの時のランとイクノのスピードに喰らい付いて行こうとするフローラにとって、あの速度のままでコーナーを曲がるなんてやった事が無かった。多少なりとも呼吸を落ち着ける筈なのに、それをする事も無く唯々ブレーキを一切踏まない二人に追走した結果、外に膨らんで風圧に煽られた上に体勢を崩して減速した。
「そうなると本格的に貴方を抜くとなると手段が限られてくるという事ですね……ですがオークスでは勝たせて貰いますよ」
「やってみろよ。独裁政治が長続きした前例はねぇ、何れ誰かによって打ち滅ぼされる運命、それをお前が齎してくれるなら受けて立ってやるよ」
「望む所です」
丁寧に頭を下げるとそのまま去っていくフローラを見送ると再びシガーを吹かしながら空を見上げる。
「そうだ、何れ俺だって負ける。皇帝だって負けた、ちゃん先輩だって負けてる、敗北は何時だって迫って来てる」
無敗の三冠ウマ娘と言われるルドルフも、至宝と呼ばれるラモーヌも敗北を喫する。何れ訪れる敗北に自分は如何するべきなのだろうかと思うが……そんな事知った事ではない、その時はその時で大人しく受け入れるしかないんだ。一先ず、自分が目指すのはトリプルティアラだ。まずは―――ラモーヌを超える、それだけだ。
「あっランこんな所で何やってんの?」
「よぉっ皐月賞ウマ娘、ハッピーかい?」
「んもうやめてってばランまで」
自分を見つけるや否や、駆け寄って来るライアン。彼女も立派なG1ウマ娘、メジロ家にまた一つ輝かしい記録の一つが掲げられる事になった。そんな彼女の後ろにはライアンと激戦を繰り広げ、リベンジに燃えるアイネスもいた。
「ランちゃん、これからライアンの皐月賞おめでとうパーティをやる為に買いだしに行こうと思うんだけど一緒にどう?」
「そりゃ楽しそうだけど、お前さんもやるかい?」
「当たり前なの!寧ろ企画したのはあたし、悔しいけどあたしを抜いてくれたライアンはもっと凄いの!!だから今度のダービーは負けないの!!その為にも、お祝いするの!!」
「大したウマ娘だなお前さんは」
自分を破った相手であるライアン、その勝利を素直に称賛しつつもリベンジに燃える。そしてその為に相手の祝福を率先した行うなんて簡単には出来ない。だけどそんな彼女の笑顔には決意も感じられる、次は負けない、次はかつ、だからこそ今は精一杯楽しんで英気を一緒に養おうというのが感じられる。
「うし、んじゃ俺も付き合うか。どうせだ、俺も腕を振るうか」
「やったやった!!ランちゃんってお料理上手なの!?」
「元一人暮らし、舐めんなよ?」
基本的にもやしとはんぺんばかりではあったが、少しでも余裕を作る為にタイムセールや安い店の情報は新聞配達をしながら常に集めていた。そして何より……近所の人が偶にお裾分けとしてくれた材料などもあったので色々を物を工夫して、作ったりしていたので腕には自信がある。
「ついでだ、他にも声を掛けてみよう」
「それは良いの!!パーティは色んな人がいた方が楽しいの、でも誰を誘う?」
「他にはマックイーンとかパーマーとかに声を掛けてあるんだけど……」
「んじゃもう一人ぐらい料理自慢が……あっ丁度いい所に」
その言葉に二人は誰を見つけたのか、と思って視線をやるとランが声を掛けると直ぐに此方へと駆け寄って来てくれた。
「これからライアンの皐月賞祝勝パーティやるんだけど、料理手伝ってくれないかな。お願いお姉ちゃん♪」
「勿論です、お姉ちゃんにお任せくださいね♪」
「クリーク先輩?凄いの、凄い人が参加してくれるみたいなの!!」
その後、クリーク経由でタマにオグリ、イナリワンにゴールドシチー、更には何処からか聞きつけたのはルドルフまで参加する事になってパーティは予想以上の大宴会へと進化するのであった。
「ア、アハハハッ……なんかこれはこれで畏れ多いというか」
「何気にすんな、それじゃあ皆様、本日はライアンの皐月賞の見事な勝利を祝して―――乾杯!!」
『乾杯!!!』
無敗の競走馬って本当に要るのか、と思ったら結構いる事に驚きました。
日本で有名なのはマルゼンスキーやトキノミノル、クリフジという名前があります。そしてこういうのは上には上が居るのも事実……試しに一番上を見たら
54戦54勝―――キンチェム。
はぁ!?ってなりましたね、何この数字。
鉄の女って言われたイクノですら51戦やぞ。いやまあ数だけで言ったらその上を行く馬いるけど勝ってる馬なんて普通いねぇよ!!
その下でも25戦25勝、世界って凄いね(白い目)
アイネスフウジンの声優であった嶺内 ともみさん、お疲れ様でした。
そして新キャストである長江 里加さん、これから宜しくお願いします。