貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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456話

ターフを駆けるウマ娘の姿、それはトレセン学園にとっては当然の光景である筈なのだが……今日ばかりはそれを多くのトレーナーとウマ娘が見つめていた。新入生から既にシニアクラスに上がっているウマ娘まで、無敗の三冠となったブライアンといったリギルやスピカの姿までもがある。トレセンのトレーナーとウマ娘が全集結していると言っても過言ではない。

 

「こうしてみるのも久しぶりだけど……やっぱり怪物ね」

「同感だよおハナさん、改めて見れば見る程にどういうポテンシャルしてんだろうなって思うわ」

 

トレセン学園のチームでも最上位チームとして名高いリギルの東条、スピカの沖野が思わずそんな言葉を口にしてしまう程の光景がそこにある。そこでは坂路を一気に駆け上がっていくウマ娘の姿がある、しかもその顔にはマスクを付けた状態で。酸素量を制限した低酸素トレーニング、加えて重々しい蹄鉄の音が坂路に脚が付くたびに木霊し続けている。最大重量のシンザン鉄を装着したままで走り続けるウマ娘―――独裁暴君たるメジロランページがそこにいる。

 

「はい、坂路10本終了です。少しは錆が取れましたか?」

「この程度で取れたら苦労しねぇって分かってんだろうが……ったく相変わらず性格が悪いな、しかもこんなのつけさせやがって……現役時の奴よりきついじゃねえかよ……苦しいんじゃぁ!!」

 

若干キレながらもマスクを剥ぐようにしながらも投げ捨てた、マスクは宙に舞う事もなくべシャリと水分を多分に含んだ音を立てて地面に落ちた。

 

「利くでしょう?」

「ええ利きますとも、思わず剥がして叩きつけたくなるぐらいには」

「それでは続けましょうか」

「へぇへぇ分かりましたよ」

 

新しく渡されたマスクを付け直しながらも再び坂路へと向かって行く。

 

「南坂、どんだけ鬼なメニューを組んだのよ……」

「マジで鬼だろあいつ……」

 

ランページがレジェンドレースに向けてのメニューに取り組み始めたというので見物に来たのだが、そのトレーニングの密度が明らかに異常の一言だった。ランページはトレーニング中は常にマスクを着用して低酸素状態を維持したままを強制された上で南坂がくみ上げたメニューをこなし続ける。

 

「トレーナー業務で錆び付いた身体を全盛期に戻す為、って言ってましたよランページ」

「錆び付く暇なんて、あったかなぁ……?」

 

その光景を見ている坂原と上水流のプレアデスのサブトレーナー二人、その言葉で何故南坂があそこまで厳しいトレーニングを課しているかは解せた。だがサブトレ二人からすれば常にプレアデスメンバーと走っているランページはとても錆び付いているようには見えない。

 

「どっちかと言えば、奴さんは精神を全盛期に戻したいんだろうな」

「ろっぺいさん」

「六平だ」

 

定番のやり取りをしながらも六平トレーナーはランページの狙いをいとも簡単に看破してしまった。ランページの肉体的なスペックは劣化していない、だが精神的はトレーナーとなった事で現役から見ると劣化が著しいと本人は感じている。ライバルと競る為に闘争心を剥き出しにする事もなくなり、大人の女としての落ち着きを纏い始めたが故だろう。

 

「いやぁにしてもとんでもないよね、私には出来そうもありませんわ~」

「何だお前も来たのか?」

「そりゃそうでしょ、同じ脚質としてあの人の走りを見ない選択肢はないでしょ」

 

何時の間にか隣にやって来たセイウンスカイに思わず声を掛ける沖野だがその言葉には同意しか出なかった。大逃げという本来ギャンブルでしかない逃げの最も極端に尖らせた戦術で世界を取った暴君、本来ならば成立させる事が難しい筈の戦い方を貫き続けた怪物、逃げウマ娘にとってランページというのは特別な存在となっている。

 

「今度はイクノさんと併走してください、マスクはそのままで」

「私も付けますか?」

「いえイクノさんはそのままで、ランページさんだけです」

「鬼ぃ!!」

 

そのままイクノとの併走が行われるが、そこでも大逃げをするランページを普段の飄々とした姿からは想像出来ない程に真剣な眼差しを送り続けている。今の自分に何かプラス要素があるのではないか、世界一の走りが見れるのだから自分の力に変えようとする意欲が感じられた。

 

「こうして改めて見ると本当にあの子に勝とうとするのは本当に難しい事を実感させられるわね」

「普通に考えれば大逃げなんてラストで垂れる筈なのになぁ……あいつ、垂れずにラストまで走り切るどころかさらにスパート掛けるからな……逃げて差すとかよく言ったもんだよ」

 

「矢張り、貴方との勝負は燃えますね……!!」

「同じくっ……だけど、きっちぃ……」

 

併走を終えて全身に漲るような気力に満足げな笑みを零すイクノと対照的に疲労困憊と言いたげなランページは腰を下ろしてしまっていた。イクノというフローラと同じく自分と真正面から勝負出来るウマ娘とマスク付きで併走したのだから当然と言えば当然。

 

「いやぁホント、お前の同期に逃げ戦法得意とする奴が居なくて滅茶苦茶ホッとしてるよ俺。ワールドがそうとも言えなくもないけどワールドはウチのメンバーだし」

「まあその代わりに2年後ぐらいに世界最速最強の愛弟子がデビューする訳だから何とも言えないんじゃない?スズカ先輩凄いってスペちゃんが凄い言ってるし」

「あ~考えたくねぇ……」

「そこはプレアデスが同期で蟲毒させる満々だからマシ、と言えないのがねぇ……改めてカノープスの系譜っていうのを感じるわ」

 

東条もそんな言葉を口にするが、ルドルフにメニューを作っている関係で少しでも参考にしようと思ってランページのトレーニングを見に来たのだが……想像以上に壮絶だ、レジェンドレースでは確実に全盛期を越えてくる。同時に相対的にフローラへの評価が周囲で上がり始めていくのが耳に入ってくる。

 

「えっ何、アグネスフローラってあんな化け物二人とガチで殴り合ってたわけ……?」

「いや凄くないとは思ってなかったけどさ、色物って認識が余りにも……」

「ランページもやばいけどイクノディクタスとも殴り合ってたんだよな……」

 

思わず口角が上がってしまった。やっとフローラの現役時代が報われたと言っても過言ではない。昨今のフローラの評価を占めているのは言うなればランページが引退してからの物ばかりだったが、真の強さはそこではなくランページと争い続けたあの時に詰まっているのだから。

 

「っという訳ですのでフローラさんにも来て貰いました」

「呼ばれてきました!!」

「死ね」

「開口一番にそれですか!?あっその外したマスク貰っても良いですか!?ランページさん成分満点のマスクとか超欲しいんですけど!!?」

「お前思考が完全にストーカーだぞ……南ちゃん、責任もって処分しといて」

「承知しました」

 

「あれさえなければ……」

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