貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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間もなく活動報告の方は締め切らせていただきます。目安としては本作でジャパンカップ終了後が期限となりますのでご注意とご了承の程をよろしくお願い致します。

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457話

「……全盛期を越えるってのも大変な物だ」

「貴方の場合はそこまで難しい部類ではありませんけどね」

 

メニューを終えたランページは漸くマスクを外す事が許されて新鮮な空気を吸いながらそう呟いた。全盛期を越える為と称して課せられるメニューは現役時代よりもずっと鬼、この男の愛を名乗る事の意味がどういう事だったかを久方に思い出した気分だ。

 

「思った以上に肉体的なレベルは落ちていません、所々によっては現役時代に比べて上ですし常に身体を動かし続けていたからでしょうね。総合的な意味では今の方が確実に現役時代よりも上なのは間違いないでしょうね。問題なのは精神面だけです」

「やっぱそこだよなぁ……」

 

プレアデスのトレーナーとして常に走っていると言っても過言ではないランページ、特に愛弟子のスズカの面倒をよく見る関係で自分の走りを教え込む為に走っているので錆び付いている部分は特段見当たらない。問題なのは精神的な部分だけ、あの闘争心を如何呼び起こすかが課題。

 

「如何でしたか今回は現役時代のライバルをお呼びした訳ですが」

「なんだかんだ言ったけど、あいつらと走ると効くわぁ……なんつぅか心の奥底のマグマが刺激された感覚が不思議とあるからな」

「と、言っても精神を全盛期に戻すというのは楽な作業ではありませんよ。何せ、一度燃え尽きた闘争心にもう一度火を付けなければいけない作業です。それには貴方に相応しい相手を揃える必要がある上に、その実力を理解しなければいけません」

 

難しい作業なのは分かっている。肉体面ならば適切なトレーニングと食事、そして時間さえあれば確実に戻せるが内面的な物を戻すとなると如何しても見て触れても確認出来ない物だ。

 

「その辺りは心配いらねぇよ、何せ今度のレジェンドレースのお相手は分かっているだけでも皇帝様にちゃん先輩、自由人にバカ弟子に帝王達だぜ。実力も折り紙付きで俺も理解してる」

 

それでも難しいのは変わらないだろう、だがやれない事はない。その事は既に―――証明済みだ。燃え尽きた、いや違う、まだ炎は燻っている。ならば―――燃え残ったそれに火を付けてもう一度独裁暴君たるメジロランページに戻る事は出来る筈だ。

 

「俺はやるだけだ、つう訳だから頼むぜ南ちゃん」

「承知しました」

 

そう言いながらもシャワーを浴びる為に歩き出していくランページの背中を見送る。そんな自分に並びかけるようにプレアデスのサブトレーナー二人が近づいた。

 

「お二人も大変ですね、メイントレーナーがあんな感じで」

「彼女が好き勝手にやるのは分かり切ってる事だから今更だけですよ」

「ウマ娘がやりたいようにやるのをサポートするのがトレーナーの仕事ですから、マヤと僕自身の事で随分とお世話になってるからそのお返しのつもりです。それに世界最速最強の走りを見せる事はプレアデスとしてもメリットが大きいと思いますから」

 

メイントレーナーたるランページは本格的にトレーニングに向かってしまっている、仕事をしていない訳ではないがそれでもプレアデスを引っ張るのはこの二人。ある意味で自分勝手だと言われるかもしれないが二人はそうして欲しいとさえ思う。

 

「じゃなきゃ、暴君じゃないですからね」

「暴君と言いますがランページさんは言うほど気性難ではありませんよ、ちゃんと話せば通じます。まあダメな時はありますがそういう時は煽ればコロッと行きますし」

「それ出来るの貴方だけですって」

 

 

「あっランページさんだぁぁぁ……」

「ゲッ最悪のタイミングで来やがった……」

 

シャワーで汗を流している時、共用のシャワーなので他のウマ娘がやって来て隣のシャワーを使うなんてことは日常茶判事だしそこで先輩後輩のやり取りが生まれるなんて事は青春の一ページ。なのだが……今回ばかりは最悪だった、これまで何となく避けられて来た筈なのにフローラがシャワーに入って来てしまった……。

 

「ムフフフッ……遂にこの時が来た、タキちゃんから話を聞いて夢にまで見たこの時が!!湯船に入ろうとした瞬間に意識が覚醒して何度ベッドの上で絶望して同室のライスちゃんに慰められたことか……!!だが今日こその苦労が報われたというもの、そう―――ランページさんと一緒にシャワーを浴びるという神イベント!!」

「んっイクノ石鹸貸してくんね?こっちのちっせぇわ」

「はいどうぞ」

「まさかのガンスルー!?」

 

先に入っていたイクノが右隣を使っている、一番最悪はこれと二人っきりになる事なのでイクノが居てくれて心から助かった。まあ襲い掛かってきたらガチで撃退して警察呼ぶが。

 

「いやはや~イクノさんが一緒とは……私が好き勝手出来る空間じゃないな~自重しま~す」

 

そう言って自分の左隣のシャワーを使い始めた、なんだかんだでフローラは公共のマナー自体は確りと守る。ならば変態発言やら行動を自重しろと言いたい、最悪の事だけはしないというから性質が悪い……。

 

「こうして私達三人が揃うのは久しいですね」

「俺としてはお前だけでいいんだけどな、隣の変質者はマジでいらん。最近妹に絶縁考えられてるらしいし」

「ドウェェエエエエエ!!?えっ何、何ですかそれ私タキちゃんやフラちゃんにそんなこと考えられてるんですか!!?何がいけないんだこの前家に帰った時に思わず抱き着いて押し倒したからか!?」

「シンプルに、ランページさんに対する思いを公共の場で発散したからその熱意に引いているだけなのでは?」

「マジでそれな」

「それに流石に絶縁は冗談でしょう、家族は良くも悪くも遠慮がないと聞きます」

「こいつの場合もそうだといいけどな」

 

頭を洗いながら適当に呟く。何せあの凱旋門の勝利インタビューであんなことを宣ったのだ、タキオンの怒りは計り知れないのは当然だ。寧ろ、ご両親はあのフローラが元気活発になって良かったとすら思っているらしい、何故だ。

 

「あぅぅぅ……抱き着く寸前に急加速して抱き着いたからタキちゃんぶっ飛ばしちゃったのがトリガーになったのかなぁ……」

「何お前、トライデントタックルでもやったのかよ。というかそれ以前の問題だっつの」

 

本当にこいつは……これが自分のライバルだと認めたくなくなってきた……だが認めなければ自分の闘争心に火を付ける事は出来ない。そうだ、自分はこいつの強さを嫌という程に知っている……認めろ、その上で踏み越える。

 

「イクノ、お前も出ねぇか―――レジェンドレース」

「私が、ですか?しかしすでに予選は」

「俺の推薦枠は幅広でな、まだ余裕があるんだ」

 

その上で最大のライバルも呼び寄せて自らを追い込む、最大と最強、その二つのライバルが自分の対戦相手になる。考えるだけでも身体が武者震いを起こしてしまう。

 

「嬉しい限りですね、そんな舞台に招待してくださるとは……是非お願いしたいですね」

「上等だ。レジェンドレースの名に相応しい面子になれそうだな」

「ふふん、イクノさんまでとは纏めて借りを返せるチャンスじゃないですか」

「借金漬けにしてやるから覚悟しとけ」

「貴方に貢げるとかご褒美ですか?」

「死ねよお前」

「フローラさんらしいですね」

 

なんだかんだで完全に同期の三人、その間には冷たくありながらも何処か温かみのある不思議な空気が流れていた。

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