「ねぇっトレーナー、ボクとランページが走ったらどっちが勝つと思う?」
「難しい質問だな」
スピカが練習をしている最中、休憩のテイオーがスケジュールを見ながらメニューを見ている沖野に対してそんな事を聞いた。切っ掛けはライアンの祝勝パーティにルドルフが参加し、そのパーティの話を生徒会室に遊びに行った時に聞いた事が切っ掛けだった。
「にしてもそこで皐月賞を勝ったライアンじゃなくてランページを挙げるんだな」
「だってライアンとは面識ないもん」
「そういう理由かよ……」
軽く脱力し掛けるが、改めて考える沖野は酷く言葉に詰まる様に悩んだ。テイオーは素直に自分が勝つと言ってくれると思っていたが、想像以上に悩んでいる事に驚いてしまった。
「如何致しましたの?」
「いや、ボクがランページと走ったらどっちが勝つと思うって聞いたらこうなったの」
「それは難しいですわね」
「ムゥッ、マックイーンまでそんな事言う訳?」
同じくスピカに所属するマックイーンも同じような事を言うのでテイオーは少しだけ怒る。確かにマックイーンはメジロ家だから彼女の方を贔屓するのは分かるが、それでも一応チームメイトなのだから自分を支持するべきではないのかという気持ちがある。
「メジロ家云々は関係ありませんわ、単純にランページさんの実力は確かですので難しいのですわ」
「ふんだ、いいも~んボクの方が強いもんね、ねえトレーナー!!」
「んっああ……う~ん……割かし難しいな」
と沖野も大して味方をしてくれないので如何してぇ!!と独特な高音を出しながらも抗議をすると沖野はちゃんと説明をしてくれる。
「あいつとお前は一年違いの先輩後輩の関係であいつはもうクラシックで桜花賞を勝ってるしオークスへの出走ウマ娘の中じゃダントツの一番人気になる程だぞ。それとお前は経験も違うから比較が難しいんだよ」
テイオーは紛れもない天才だ、それは沖野どころか東条や南坂も認めざるを得ない程の逸材。しなやかな筋肉に柔軟な関節から繰り出される走りは素晴らしいの一言に尽きる。それによって身長以上のストライドを発揮して走る事が出来る。だがまだまだその才能は磨き上げる段階。
「ムッ~……」
「別に意地悪を言ってる訳じゃない、純粋に比較が難しいんだよ。お前はまだデビュー前のウマ娘だから猶更な」
ランページはランページでハッキリ言って脅威でしかない、テイオーがシニアに上がった時に戦う時の事を考えると今から頭が痛くなってくる。既にリギルがカノープス対策に頭を悩ませているという話を聞いたがそれを味わうと思うと勘弁してほしい。
「一言だけ言えば……あいつがクラシック三冠路線を選んでいたとしても、其方でもその力を振るってたのは目に見えてる」
「同感ですわ。恐らく、皐月賞も更に激しくなっていたでしょう」
強いて言うなれば、長距離という舞台で何処まで走れるのかが不明というのが現在のランページの弱点だろうか。あの南坂がその辺りのトレーニングをしていないとは言い切れないが、それでもあれだけの大逃げを打つウマ娘の脚が3000の菊花賞や3200の天皇賞(春)で持つとは思えない。
「まあんな事言ってたら真っ先にぶつかるのはマックイーンだろうけどな、あいつだってメジロのウマ娘になった訳だし天皇賞は当然狙って来るだろ」
「だとしても、私は負けるつもりはありませんわ」
そう言いながらも胸を張るマックイーン。マックイーンは典型的なステイヤー、故にメジロ家が目指す天皇賞を狙い易い。そして彼女はクラシック三冠の最後、菊花賞でその力を試すつもりでいる。皐月やダービーに出てみないかとは誘ったが、あくまで目指すは天皇賞と言われたのでそれを優先した。
「じゃあボクが勝つには如何するべき?」
「う~ん……先行策で後ろに付くのは不味いな、それでリギルのフローラが落とされてる。最後の末脚に賭けるかそれこそ同じ土俵に上がるしかないな」
そう言いながらもきっとそれも簡単には通用しない事だってわかっている、南坂もそれが弱点だという事が分かっているからこそ大逃げを打つターボとペースを絶対に乱さずに自分の力を常に最大限に発揮するイクノと走らせ続けているのだろう。ランページは常に自分の天敵と戦わされ続けている、だからこそあれだけの強さを手に入れている。
「ほれ、テイオーお前も走って来い。シービー、テイオーと走ってくれ」
「いいよ~また軽~く捻ってあげる」
「今度こそ負けないもん!!会長と同じみたいにシービーにだって勝つんだから!!」
「アハハッその意気その意気。まあ、前の勝負じゃ私が勝ったんだけどね?」
「あれは模擬レースだもん、公式レースじゃ会長の方が強いもん!!」
そんなやり取りをしているシービーとテイオー。天敵と常に戦うランページ、だがテイオーだって最高の相手が同じチームにいる。敬愛するルドルフと同じ三冠ウマ娘のミスターシービー、それと走り込む事で力と技術をどんどん付けて行くのは分かる。
「トレーナーさん、本当はどう思います?」
「……テイオーはちょっと厳しいかもな」
ランページの脚を触った事がある身としてはテイオーとの勝負はかなりの激しい事になるという事しか断定出来ない。何故ならば―――ランページの身体は頑強で大きなテイオーというべきものだから。流石にテイオーと同じ位、とは言えないがそれでも関節が柔軟。そしてテイオーにはない高い身長という武器まである。
「マックイーン、お前も注意はしといた方がいいぞ。あいつはマジで手強い」
「百も承知ですわ。お婆様にモンスニー姉様、デュレンお姉様が御認めになるウマ娘に油断なんて出来ませんわ」
「……モンスニーが、か」
シービーを支え続けたトレーナーとして、当時一番怖かったのがモンスニーだった。あのメジロ家には似つかわしくない程に猛々しく勇ましいウマ娘は何度もシービーと激戦を繰り広げて来た。そんな彼女に認められる、それを聞いて沖野の中で警戒のランクが一段階上がったのだった。
「アハハハハハハッ!!!ちょっちょっと待って、無理無理無理ズルいよそれ!!」
「何なんでしょうねこれ、何か解らないけど腹筋に来る、ぶふっ……!!」
「お、お腹痛い~!!腹筋割れちゃう~!!」
「ランページさん、もう勘弁して下さ……アハハハハ!!!」
「ターボも、今度はターボも一緒にやる~!!」
「よ~し、それでは今度はダブルで」
『もうやめてぇ!!』
そんな警戒されるウマ娘は、カノープスの部室でライアンの祝勝パーティでやったというダンスをターボと一緒にカボチャのような被り物をしながらも、後ろに流れる音楽に合わせて激しいダンスを披露してメンバーの腹筋を崩壊させていた。