「わぁったわぁった、テメェの顔立てて大人しくしてりゃいいんだろったく……」
「スーちゃんとかお婆様の顔立てろやボケナス。というかマックイーンに謝罪しとけよ。一番被害デカいのマックイーンだぞ完全な巻き込まれテロじゃねえか」
漸く落ち着いたサンデーに軽い説教を交えつつも雑談をするランページ、その最中で此方を見続けてくるセクレタリアトの後継とさえ言われたウマ娘、イージーゴアが此方を見つめ続けている事にも意識を向けておく。如何にもあの視線はただ此方を見ているだけではない、別の物を多分に含んでいる瞳だ。
「ンでそちらさんが件のアンタの現役時代のライバル?」
「一応そういう事になるんだろうな、ぶっちゃけお前の方が遥かに強いけどな」
何の迷いも気遣いもなくそう言い放つサンデーに周囲はざわついた、確かに凱旋門とBCクラシックを制覇している上にワールドレコードを複数持っている怪物ウマ娘と比べたらそりゃそうだろうが相手は現役時代に覇を競い合ったライバル、手心が一切ない。いやライバルだからこそか、と思う中で遂に口が開かれた。
「お初にお目にかかりますメジロランページ様、私はイージーゴアと申します。貴方様とは是非一度御会いしたく思っておりましたわ。現役中に是非参上したく思っていたのですが機会に恵まれずに今日までお顔合わせが出来ずにいた事は残念に思っておりました。このような機会に恵まれて心より嬉しく思います」
「そりゃどうも、独裁暴君で今はこれのフォロー兼仕事代替わりしてるメジロランページです」
「応喧嘩売ってんなら言い値で買うぞコラ」
「だったら書類仕事位テメェでやれよコラ」
平然とサンデーに向けて放たれる剥き出しの刃に周囲はサンデー自身の恐ろしさを身で知っている為か震えだすが、肝心のサンデーは寧ろ笑いながらも軽く拳を突き出す。それを軽く受け止めながらもランページも笑う。
「仲が宜しいんですね」
「「これで仲が良く見えるとか目玉腐ってんの?」」
「(いや普通に仲いいだろ!?というかゴアに何つう事を……!?)」
異口同音を越えてシンクロを発揮して同じことをぶつけてくる二人にイージーゴアのトレーナーは内心で汗を流しまくりながらも担当の様子を窺うが、仲が宜しいじゃないですかと上機嫌に笑っている。こういう時だけは彼女の天然に胸を撫で下ろす。
「俺はこの奴に遠慮がねぇだけ」
「俺も遠慮なくぶつかってるだけ」
「そんな関係を築けるランページ様は本当に素晴らしいウマ娘ですね。貴方もサンデーと同じで私が憧れる存在ですわ」
憧れる、その言葉だけならば自分の戦績やら走りに憧れているという風に取れる訳なのだがサンデーの瞳が呆れが強まっていくのを見ると如何やらそういう意味ではないらしい。
「生憎俺は憧れる程高尚なウマ娘ではないんでね、それを言うならセクレタリアトの後継とか言われる位にはご立派な立場の貴方がそう言われるべきだと思うんだけどね」
「そうでしょうか、私などそのような物ではないと思います。私は唯、お父様とお母様に望まれた事を全てこなして喜んで貰って来ただけですので」
それらを聞いて真っ先に反応したのはルドルフ、シリウス、そしてマックイーンのシンボリとメジロ家の令嬢という立場の三人だった。彼女らも父や母、そして家の立場からの期待などを背負って毎日を過ごし走ってきた。だがイージーゴアのそれは全く違う物を感じてしまった。
「(この子、やっぱりそうなのねアーちゃん)」
「(ええっ私もそう思うわ。失敗と挫折を経験していない、いや自覚していないんだわ)」
イージーゴアの人生において挫折や失敗の二文字はなかったのだろう。あったとしても周囲はそれをそう思い込ませずに成功とさせていたことが察することが出来た、褒めて伸ばすと言えば聞こえはいいだろうが失敗から得られるものを認識できていない。
「そんな中で私を倒したサンデーサイレンス、貴方との戦いの中では全く別の物が私の中にありました。しかし結局その正体は分からずじまいでした、でも貴方はそれを持っていた。そしてそれはメジロランページ様も持っていたものだと私は確信したのです」
そこまで言われてトレーナーはマズい!!と思ったのかイージーゴアの言葉を止めようとしたのだが、憧れのウマ娘二人を前にしたイージーゴアは己を御する事を考えずに昂る思いのまま口にしてしまった。あの言葉を。
「貴方が羨ましい」
その言葉を耳にしてサンデーサイレンスは矢張り何も変わっていない、変わろうともしていないそれに目もくれない。そしてランページへと視線を移せばそこには理解を示している顔があった。それはイージーゴアに向けたものではなくサンデーへの理解。
「(これを受けた訳か……確かにこれはキッツいわぁ……)」
イージーゴアの内面はある程度理解出来た、これは本当に無菌室で純粋培養されたお嬢様というのがよく似合うウマ娘だ。周囲に目をやればルドルフは眉を顰めながらも組んでいた腕を強く掴んで冷静を保とうとしている。シリウスは額に青筋が浮かんでいるが、髪を弄る振りをしてそれを隠している。
「落ち着きなさい、メジロ家のウマ娘として」
「―――分かっておりますが、ですがお婆様あの方はっ……!!」
マックイーンなどは特にひどい。精神的な疲労があるので自制が難しいのは分かるが、アサマに抑えられている。というよりもメジロ家入りする関係でメジロ関係者には自分の事を全て告げている、ライアンと一緒に話したがあの時ほどマジギレしたマックイーンやラモーヌ、そしてモンスニーやデュレンを抑えるのは大変だった。結局アサマが一喝して抑えてくれたのだが……尚、アルダンにはボロボロ泣かれて別の意味で修羅場だった。
「羨ましいですか」
「はい、そう思います」
「そうですか―――ならアンタがサンデーサイレンスに勝てない理由がよく分かった」
湧き上がってきたものを抑えつける、この程度の怒りは既に経験積みだ。それを越える物も体験してきたんだ、故に自分は余裕をもって相手をする。この場の全員が納得するような答えを持ち合わせて。
「そりゃサンデーサイレンスに勝てない訳だ」
「どういう、事か詳しくお聞きしても?」
「自分の頭で考えてみろよ御大の後継って呼ばれたんならよ。そして分かった事がもう一つある―――イージーゴア、チャンピオンズカップは勝てないぞアメリカは」
それは勝利宣言と言っても過言ではない発言だった。
「レディセイバーにアメイジングダイナ、お二方様のお力はよく分かっているつもりです。故に私が併走パートナーとして選出されたのです。フィフティーマグナ、エーピーインディ、リベンジに燃え滾り、私と走り続けた二人は負けないだけの力はあると断言できますが」
「だといいな、それとこれだけは言っとくぞ―――憧れて羨むだけ踏み込まずにいる奴に俺達は理解出来ねぇ」
そう言い残すとランページはサンデーに目配せをすると共に立ち去って行った。イージーゴアは何も言わず、その背中を見つめるだけだった。それを見るルドルフは少しだけ憐れむ瞳を作った。
「居なかったのだろうな、彼女の周囲には友人が」
「居たにはいたんだろうがな、ただ居るだけのダチがな」
チャンピオンズカップが、始まる。
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