5月。春も過ぎて青葉が茂り始め、ポカポカ陽気も熱を帯び始めてくる頃合。間もなく梅雨というのもある為か心なしか曇り空も増えてきたが本日快晴、洗濯物が乾く事間違いなし。流石にイクノのNHKマイルを挟むというとんでもないローテは日の目を見る事無かった、が当人は少々不満げで後々とんでもないスケジュールを作るのではと南坂は若干不安視しているらしい。尚、史実のイクノは一月にG1を3回出走するというとんでもない事をやっている。
「あ、あの此処良いですか?」
「んっおおっライスか、いいぜ一緒に喰おう」
昼食時、漸く一人暮らしの時の癖が抜け始めているからか食事の量も増えているランページ。その代わりに厨房のおばちゃん達からの視線が増えたような気もするのだが……そんな所にやって来たのは最近よく一緒に食事を共にするライスシャワーだった。
黒い刺客、鞍上を務めた的場騎手も相まってそう呼ばれた競走馬がライスシャワー。ミホノブルボン、メジロマックイーン、その両者と激突しその両方から勝利を奪い去った事でヒールと呼ばれてもいた。だが、その名前に相応しく、走る姿に夢を乗せた人々に幸せを運んだのは事実だった。
「こ、この前は有難う御座いました」
「気にすんなって、ランニング付き合って貰った礼だ」
そんなライスはカノープスのタンホイザの同期であり、ランページからすれば可愛い後輩の一人。そして走る時間帯が似ている為か、早朝に一緒に走ったりしている。その関係で仲良くなっており、偶に一緒に出掛けて食べ歩きなどもしたりしている。
「最近如何だライス」
「は、はい。えっとライスは中長距離向きなんじゃないかな、って教官さんには言われました。他の子よりも長く走れたりするから」
「ステイヤーか、タンホイザもそうなんだよな。俺からしたらまだ長距離は未体験ゾーンだから羨ましいぜ」
「そ、そんな事ないよ。ライスが走るんだもん、きっと大丈夫だと思うよ」
根拠はない、しかし一緒にランニングをしているので大丈夫と思われているのかもしれない。流石に3000mを逃げ切る自信はない、そんな事が出来るのはどこぞの大逃げコンビの片割れと後の黄金世代でワールドレコードを出した雲ぐらいだろう。
「んでトレーナー見つかった?」
「ううん……実はまだなの」
ライスは性格的に強い主張が出来るタイプではないし内気で臆病な所がある、それ故か自分からアピールしたりトレーナーに声を掛けたりというのは難しいだろう。と言っても出来る事ならば今年中に決める事が好ましい、来年にはライス自身のデビューを控えている、が焦って自分と相性の悪いトレーナーと契約するのも悪手。ランページと南坂のような出会いというのは本当に希少なのである。
「如何しよう、ブルボンさんとかバクシンオーさんはもうトレーナーさんいるのに……ライスだけ見つからなかったら……」
不安に飲まれて思わず弱音を零してしまう、だがこれはある意味トレセン学園に通う生徒ならば直面する問題でもある。トレーナーに見初められる事も無く、デビュー出来ないというウマ娘は少なからず存在している。競走を行うこの世界においては既にレースは始まっているとも言える。
「心配すんなって、お前さんをスカウトしたいってトレーナーはいる。なんならウチの南ちゃんだってライスを認めてるからな、カノープスに来るってのもありだぜ」
「でも、大丈夫かな……」
「不安か?」
その言葉に思わず頷いてしまった、それにビクつきながらも否定しようとするが、それは止められた。頭を撫でるランページの手によって。
「不安はあって当然だ、自信が持てないのも分かる。だったら、俺を信じな。自分を信じられないなら俺が代わりに信じてやる、だから俺を信じろ。ライスを信じる俺をな」
「―――なんだか、お姉様みたい……」
力強くもありながらも自分を励ましてくれる言葉に思わず一筋の涙を流しながらもライスは笑った。此処までの言葉を掛けてくれる事が嬉しくて堪らなかった、そんなランページなら信じられると思いつつもそんな彼女の強さに甘えたくなって、思わずそう言ってしまった。それを聞いてハツラツとした笑みを浮かべながらもランページは言った。
「お姉様か、俺に妹は居なかったがライスみたいな可愛い子が妹なら是非欲しいな。よし、それじゃあこれから俺はライスのお姉ちゃんだ。困った事があったら何時でも言えよ?お姉ちゃんが助けてやっから」
「うん、ライス頑張ってみる。選抜レースにも出来るだけ出てみる、だからその……お姉様も見てくれる?」
「勿論だとも、それじゃあレースの為に食べよう。身体が資本だからな、体力と英気を養う為にオグリさんみたいにガンガン食べろ!」
「うん、ライス一杯食べるね」
そう言いながらもライスはモリモリとご飯を食べ進めて行く、オグリに負けず劣らずの食べっぷりに続くかのようにランページも食べ進めて行く。
「ああそうだライス、今度のオークス見に来ないか?」
「う、うん絶対に行くね。お姉様のレース楽しみにしてる」
「こりゃ益々負けられなくなったな、妹の前じゃ恥掻けないもんな」
「えへへっ」
頭を撫でられて耳と尻尾を揺らして嬉しそうにするライス、撫でつつも微笑むランページ。その光景を目の当たりにしていた他のウマ娘達は思わずその尊さと姉ムーブをするランページに釘付けになっていた。
「お姉様……うん、今度から私もそう呼ぶ」
「私もお姉様の妹になる」
「いや、あれはライスさんだから出来るのであってアタシ達じゃ……」
「退いて!!アタシが妹よ!!」
『正気に戻れ!!』
「つう事があったからさ、オークスの時はライスも一緒だと思うけど大丈夫か?」
「はい大丈夫です。何でしたらお誘いして一緒に行きますよ」
「もしかしてカノープスに新メンバー!?」
「そうだとしたら嬉しい限りですが、本人が入りたいと仰ったら暖かく受け入れましょう」
「ライスちゃんが入ってくれたら私も嬉しいけどな~」
なんでライスってあんなに……尊いんでしょうね……。