遂にやって来た当日の日、ランページから代理人は手配しておいたという旨が届いたという話が齎された。ランページの代理が務まる程の人物とは一体誰なのかと誰もが頭を捻った。何より幹部はある種恐怖すら覚えていた、何せ彼女の名前で抗議の書状がURAに届いたためかウラヌスからの雷が落ちたからである。そしてランページの代理人として中山レース場に踏み入れた人物は―――
『さあ今年もやってまいりました、日本最大にして今年の締めくくりの大一番、有馬記念!!この日が来るのを毎年毎年楽しみにしておりました!!そして今年の解説は此方の方です!!』
『はいどうも皆様恐縮です、元気にやってますか~!?今回の解説はこの私、ジャパンカップ2勝と凱旋門を制覇したアグネスフローラがお送りさせていただきます。赤坂さん今日は宜しくお願いしますね』
『こちらこそお願い致します!!あのランページさん最大のライバルと名高いフローラさんをお迎え出来て此方も嬉しい限りです!!』
赤坂的には今回フローラを迎えるに当たって緊張していた。何故ならば解説者として呼んだウマ娘が全員キャラが濃い上に極めて我が強いランページやサンデーサイレンスだったからである。加えてフローラは凱旋門勝利インタビューでの一件が余りにも印象深いランページに勝つ事を渇望し続ける探究者。一体どんなウマ娘なのかとドキドキしながら今、腰を落ち着けている。
『今年もやってきましたよこの日が、今回の出走メンバーの中で注目している方はいらっしゃいますか?』
『そうですねぇ……今年は無敗の三冠であるナリタブライアンが出走する事で大盛り上がりですが対する相手も粒揃いです。彼女の同期にしてエリザベス女王杯と秋華賞でティアラ路線で一気に頭角を現したヒシアマゾンにそんな彼女と競い続けたオグリローマンとドラグーンランス。及ばずとも勇敢に懸命に挑み続けたオフサイドトラップ、そして凱旋門で一緒に走ったサクラローレル。ブライアンちゃんの同期だけを抜き出してもこのメンバーが揃ってます。シニアクラスと言えど侮りは間違いなく死に直結するでしょうね……』
極めて冷静かつ的確な意見に赤坂は思わずおおっ……と言葉を漏らす。この感覚はランページの解説と酷く似ている。一部にはフローラの解説には不安が付き纏うというのが大きかったが、心配は無用だったらしい。
『その中だと飛び出しているのはヒシアマゾン、サクラローレルの二人ですね』
『何故そのお二人なのかお聞きにしてもいいですか?』
『至極単純な話ですよ、この二人の共通点は格上が参加するG1の出走の経験。クラシッククラスでのシニアクラスも参加するレースへの出走のハードルの一つが経験値の差とされています。シニアクラスは文字通りに多くのレースを経験しています、その中には当然自分よりも上のウマ娘もいる、クラシッククラスだと全員が同じスタートからでしたがシニアからだと世界が一変します。そこで適応出来るか否かが大成出来るかの違いとも私もトレーナーである東条さんから言われた事があります。リギルの場合は格上との併走や模擬レースを行う事でそれらへの耐性を付けてます』
それに比べてヒシアマゾンはエリザベス女王杯、サクラローレルは凱旋門での経験があるので有利と言わざるを得ない。日本のシニア級との経験と海外のシニア級の経験などの違いなどもあるが、同期の中ではブライアンに肉薄しているのは間違いない。
『ですが今回のシニアも想像以上ですから。BNWの全員参戦、特にビワハヤヒデはブライアンのデータを全て把握していますから一番手強いかもしれませんね。そして此処にメルボルンカップ覇者のライスシャワー、天皇賞ではビワハヤヒデを破ったナイスネイチャ、ジャパンカップで悲願のG1勝利を成し遂げたマチカネタンホイザ……全員がG1制覇経験がある事になりますからね、私がランページさんと走った時以来じゃないかな、こんなに凄い事になったのは』
それは赤坂も同意だった。シニアクラシック、その出走者全員がG1を制覇している面子で固まっている。これだけの面子が出走表明をした影響で出走を取り消したウマ娘は多かったのだ。噂では緊張のあまりに急性胃潰瘍になって回避してしまった子もいるという話だ。
『フローラさんの予想では誰が勝つと思いますか?』
『……難しいですね。そう言えてしまう程にブライアンちゃんの走りは凄い、だけどローレルちゃんのそれだってとんでもない、それらに挑む同期組の皆さんもあれだし、迎え撃つシニア勢だってとんでもない。これで勝利予測しろってのは至難の業ですよ、これで仮にレジェンドレースへの出走表明してなかったらターボちゃんやテイオーちゃんも加わるんですよ?出来る訳ないですよ』
それは確かにそうだ……余りにも選択肢が潤沢過ぎて困る程だ。仮にあの二人まで走っていたらもうとんでもない事になっていただろうな……。
『でも、素直に言える事は一つだけですよ。私は今日、このレースを見れて幸せだと思いますよ。ウマ娘として走って私が嬉しいと思った事はファンの方にこのレースを見て本当に良かったです!!とか言って貰える事なんです、誰かの記憶に残れた幸せ、自分の走りが誰かの為になった実感……それを味わえた時って凄い充足感があるんですよ』
『それ、凄い分かります。私も実況を続けて長いですけど名実況とか凄い楽しかったって言われた時って凄い幸福感があるんですよね』
赤坂は思った、レースはどのような結果になっても自分は胸を張って言える。アグネスフローラは実況解説においてはランページを上回る逸材なのだと。
『さあ赤坂さんもうすぐ始まりますよ、誰かの夢を乗せた栄光が走ります。私達の夢を乗せたウマ娘が今この中山を駆けようとしています!!』
『正しくこれも夢の舞台、さあ今年一年を締めくくる大一番有馬記念、間もなく出走です!!ゲートに入った一同は既に出走体制を取っている、さあ誰が勝つのか!!?誰が勝っても可笑しくない舞台で、いざいざいざいざいざ!!!スタートしました!!』
「フローラ貴方……こんなに真面目に出来るなら何で普段から……!!」
「おハナさん……ハンカチ、使う?」
「姉さん、何でしっかりできるのにあんな風になるんだ……!?」
「胸貸すかタキオン?」