「普段からそのテンションでやれよ」
スタートしたレースの内容よりも真面目に解説をしているフローラの方へのツッコミを優先してしまったランページ、だがそれは絶対にとがめる事は出来ない。何故ならばその対象にもされているのが他ならないランページである事と今、彼女の胸で何故あれが普段じゃないんだ……とマジ嘆きをしているのがフローラの実の妹であるタキオンだからである。
「ホント、何でそのテンションでやれないかなぁ……」
「タキオン、目死んでるぞ」
「私以上に死んでますよ」
「カフェ、君の眼は死んでなどいないさ。ただ、感受性が豊かなだけさ」
ランページの傍にはタキオンにポッケカフェの三人が居た。本当ならば酒を飲むつもりで来たのだがタキオンから一緒に行かないかという誘いが来たので、上水流への依頼をキャンセルして此方に付き添う事にした。子供達だけでこの年末の中山に行くのは大変だろうから保護者役である。
『いいスタートを切りました、さあ先頭を行くのはオフサイドトラップです!!一気に抜け出して先頭を駆け抜けておりますが、それに並びかけるかのように行くのはサクラローレルです!!凱旋門では惜しくも2着ではありましたがその走りは世界を圧倒しました!!菊花賞ではなく凱旋門を舞ったサクラはこの中山の舞台でも咲き乱れるのでしょうか!!?それを許さぬと竜騎士の槍が突撃して来るぞぉ!!さあ早くも激しくなりそうです!!』
「やっぱぁり来たねぇローレルゥ!!」
「あんまり飛ばし過ぎは身体に毒だよ、ラッちゃん」
「まだまだぁこんなもんじゃないよぉ!!」
「私もまっぜろぉ~!!」
ミホノブルボンの走りを継承しているかのようなブレの少なさと力強い走りが目を引く。一番自信があると言っても過言ではない走りで勝負するトラップに対して同期のローレルが並びかける……が、ローレルからすれば逃げているつもりは恐らくない。そしてドラグーンランス、彼女は彼女でこの中で最も何も考えていない。ただひたすらに―――楽しんでいる。
『ローレルちゃんは逃げている意識は皆無でしょうね、多分凱旋門の時と似た戦法でしょうね。というか色々やり過ぎて自力が上がってるから逃げに近い速度が簡単に出ちゃってますね』
『オフサイドトラップは本格的な逃げに見えますがそれに近い先行策……という事でしょうか?』
「俺意識の走り、いやブライアン意識だな」『いえ、ブライアンちゃん意識ですね』
ランページとフローラの意見が合致する。ブライアンの全身走法はある意味でランページに極めて肉薄している。故にそれを破る為に最高峰を見ている、後ろから迫るそれに勝つ為に前を見る。
『その後ろにはビワハヤヒデ、ライスシャワー。ドラグーンランスの3バ身後方に待機しております。そこからオグリローマンが来ております、そしてその真横にナイスネイチャ、ウイニングチケットにマチカネタンホイザ、ナリタブライアンはやや後方、その背後にナリタタイシンとヒシアマゾンという形になっております。やや先行寄りに固まっております』
『ローレルちゃんがこのレースを逃げ寄りにしていますからね、それから逃げる為にトラップちゃんも気合を入れてます。下手すればこのまま逃げ切りもあり得ますしハヤヒデちゃんはその辺りを計算して絶妙な位置に控えてますね……ライスちゃんはスタミナ自慢のステイヤーですから此処の位置でも十分に末脚を活かせるという判断でしょう。正しいと思います、そのほかの皆も良い位置に居ますが、少しブライアンちゃんが後ろな事が気になりますね。差しと追い込みの間付近……力の温存が目的かもしれません』
「ブライアン、普段よりも後ろ……いや仕掛けをミスったか」
「ミスった?」
ランページの言葉にポッケが反応した。無敗の三冠がミスるなんて事があるのだろうかというのが見えたので応えてやる。
「ミスったというか乗り切れなかったんだ、他の連中の気迫やらが思っていた以上だったんだ。考えていたスタートを切れたんだろうが他がそれ以上でスタートしてる、無敗ゆえのが出たか」
敗北の経験の無さが悪い方向で出たと言える。自分との模擬レースでの敗北は経験しているだろうがそれはあくまで模擬でしかない。本番での空気感、その中で次こそ勝つ、お前を越えるという思いがブライアンのそれを凌駕している。
「ブライアンのもいいスタートだった、だが他連中が今回飛ばしてるからなぁ……だからこそ後ろに回ったんだ、火を付ける為にな」
「火を、付けるですか……?それなのに後ろに、行ったんですか?」
「ああそうだ、何もローレルだけがあいつのライバルじゃねえ……同期であいつを脅かせる奴がいる。あいつもそれを分かってやがる」
「どうしたいブライアン!!アンタにしては珍しいじゃないかい!!!」
「喋っている暇があったら走ったら如何だ、それともこのまま私と走り続けるか?」
「それでもアタイは構わないさ、どうせアンタは行くつもりだろうからね!!」
そう、ヒシアマゾン。今年のティアラ三強で最も強いと誰もが言うであろう女傑。
「アンタとはなんか気が合う気がする、だけどハヤヒデの妹だからって手は抜かないからね」
「抜いてくれるな、ンな事がバレたら姉貴に怒られる」
「だろうね」
そして姉のライバルの一角であるナリタタイシン。この二つの存在が自分の中にある気合を爆発させる起爆剤になる。先頭は遥か先、軽く見積もっても10バ身以上はあるか……だが不思議とブライアンに焦りはない、この先に姉がいる、ローレルがいる。そして後ろにはアマゾンとタイシンがそこにいる。自分はこういうレースを走ってみたかったのだと分かった。
「ヒシアマ姐さん」
「何だい?」
「―――ついて来れるか」
何処か挑発的だが挑戦的な笑み、バカにしている訳じゃないのは分かる。此処から本気の勝負をしようというのだ。
「カノープスの女傑たぁアタイの事さ!!ヒシアマゾン、タイマン張らせて貰うよぉ!!」
「ハッ後輩が何生意気言ってるんだか、私を無視したら痛い目見るよ!!」
「ならばっ―――」
「「「勝負っ!!!」」」
『さあ上がってきているのがお馴染みロングスパーターのナイスネイチャが上がってきている。ビワハヤヒデらを捉えようとしている、が此処で、此処で後方から一気に上がってきている!!ナリタタイシン、ヒシアマゾン、そしてそしてシャドーロールがやって来た、ナリタブライアンが一気に上がってきている!!物凄い脚で駆け上がっていく!!物凄い脚だ、これが無敗の三冠ウマ娘の脚なのか!!?凄まじい伸びでビワハヤヒデへと迫っていくぅ!!!』
『な、何て伸び!?まだ全力でなくてこれなの!?』
「遂に来たか、そろそろだと思っていたぞブライアン!!」
「待ってたよブライアンちゃん!!」
「私は、今日この日をずっと待っていたんだぁ!!!」
「さあ目に焼き付けろ、まだターフを駆ける事を知らぬうら若きウマ娘達よ。お前達が目にするは強者の走りだ、無双の走りだ、最強の名を冠する事を許される覇者の走りだ!!」