貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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491話

いまだ先頭を爆走し続けるトラップ。ミホノブルボンの走りを継承、黒沼トレーナーからのお墨付きを貰える程に高めた走りは他の逃げウマ娘に比べて体力の消耗具合が少ない低燃費な走りを実現できた。故に他と比べても脚を溜める事が出来る、それでもブライアンには勝てていないがそれでもG1ウマ娘として相応しいだけの走りをする事が出来ている……が今トラップは酷く疲れている自分に苛立ちを感じていた。

 

「(まずい、少しブレ始めちゃう……!!)」

 

『少しオフサイドトラップのフォームが崩れてますね』

『えっ、崩れてます?』

『ほんの僅かなブレ、だけどこれは彼女からしたら来ますね』

 

元ネメシスメンバーとして格上の相手とは走り慣れているつもりだった。なんだったら今でも偶にネメシスの練習に混ぜて貰って走る事だってある。ボスと呼ぶサンデーに模擬レースを頼む事だってある。だからシニア混合でもやれる自信はあったのに……

 

「(甘く見てた、甘く見てた私が、むかつくぅ!!!)」

 

確かにサンデーサイレンスとの模擬レースは通常の練習以上のものが得られる、だがどこまで突き詰めた所で練習は練習でしかない。本当のレースの空気感という物を作り出す事は難しい。

 

『此処でサクラローレルが先頭を奪取!!オフサイドトラップはまだまだ負けじと足を伸ばす、だが後続からも次々と上がってくるウマ娘を凌げるか!!?』

 

「(これが、シニアの空気、そしてこれが世界を経験したウマ娘か……!!)」

 

遂に先頭を奪われたトラップ。ローレル、同期でもある彼女とは埋める事の出来ない大きな溝がある。それは分かっている、だから自分だって努力を欠かさなかった……でも

 

『ビワハヤヒデも上がって来てる!!ナイスネイチャも来ている、さあシニアの海千山千のウマ娘達が新進気鋭のクラシッククラスウマ娘へと牙を剥くぅ!!オフサイドトラップもう苦しいか?!まだ頑張れるか!!?』

 

「ぬおおおおおおっっ!!」

「まっけるもんかぁぁぁぁ!!!」

 

『ド、ドラグーンランス此処で猛烈なスパートを掛けました!!オグリローマンも行ったぁ!!ティアラ路線の二強が先輩だとしても容赦なしと言わんばかりにいったぁ!!』

 

友達が行く、その目に迷いはない、それどころか勝利すら興味がないように映る。そうだ自分は―――

 

『ウイニングチケットが徐々に上がってきている!!ダービーウマ娘の意地が彼女を推してダービーの先駆者を追います!!だがマチカネタンホイザもジャパンカップの走りを繰り出して迫る迫る!!そ、そしてナリタナリタナリタぁ!!来たぞ来たぞ、無敗の三冠ウマ娘が、純白のシャドーロールを身に着けた覇者が、一気に上がってきたぁ!!』

 

「私だって、私だって!!」

 

例え届かなくても、拮抗できないとしても、張りたいんだ。自分だってあのナリタブライアンのライバルなんだという意地を!!追い抜かされたとしても―――自分は……!!

 

「貴方に勝ちたいんだぁぁぁぁ!!」

「トラップ、その気持ちを絶対に忘れるな。ブルボンのようにお前はなれる」

 

『ライスシャワーも此処で一気に伸びてきている!!メルボルンカップを制した奇跡の青い薔薇、長距離ならば自分の領域だと上がってきている!!それに競り駆けて行くビワハヤヒデ、物凄い競り合いだ!!ナイスネイチャのロングスパートの牙も間もなく届く、いやそれよりも先に来たぁ!!後方から一気にやって来た、内ラチギリギリからナリタタイシン!!大外からは、ナリタブライアンとヒシアマゾンが火花を散らしながら強襲だぁ!!!』

 

最早どこを見ればいいのか分からない。先頭を駆け抜けるローレル、それを捉えようと伸びるライスとハヤヒデ、じりじりと伸びて先頭集団を射程に収めたネイチャとタンホイザ、そして最後方から一気に上がってきたタイシン、アマゾン、ブライアン。そんな思いが届いたと言わんばかりに、白いシャドーロールが深く沈んだ。ブライアンの体勢が……四足獣のように低くなったのだ。

 

『先頭はサクラいやビワハヤヒデがライスシャワーを越えて並び掛けて来た!!ライスシャワーも懸命に足を伸ばすが、強いこれがBNW最強の一角!!だがサクラローレルも決して譲らない、世界を相手取ったのは伊達ではないと言わんばかり!!』

 

そうだ、それでいいんだ。自分はそんな貴方達と戦いたかったんだ……だからこそここで自分も切り札を出す事にした。平伏する為ではなく制覇する為に頭を下げる、そしてそのまま全身の流れを一つに整える……そして全ての力を、溜め続けてきた熱を爆発させた。

 

「なっ!?」

 

思わず、ヒシアマゾンが声を上げてしまう程の風が吹いた。純白のシャドーロールと漆黒の髪が混然一体となった、相反し合うそれは酷く美しく見えた。そのまま一気に駆け上がっていくブライアンをアマゾンは笑って見た。

 

「そうだ、そうじゃなきゃ面白くないよなぁ!!タイマンだ、タイマンだ……タイマンをっやってやるさぁぁぁぁ!!!」

 

アマゾンも更にハートに火を付けた、まだ残っていた薪にも全てに火を付けて炎と化して駆け出していく。ぐんぐんと順位が上がっていく筈なのにブライアンとの差は縮まっているように感じられない。それでもアマゾンは笑いをこらえられなかった。

 

「そうだ、アタイはアンタに絶対に勝ってみせる!!だから、貴方も負けんじゃないよぉ!!」

 

思わずそう叫んでいた。その言葉が背中を押すようにブライアンも更に加速する。

 

『何この速さっ!!?前よりもずっと磨きが掛かってる!!ランページさんのそれ、いやこれはもう彼女の走り!!あの子、更に走りを進化させてる!!』

『ナリタブライアンが一気に、一気にいっ!!ビワハヤヒデ、サクラローレルへと肉薄したぁ!!中山の急坂もなんのその、ロンシャンと比べればこの程度かサクラローレル!!菊花賞を制した彼女には坂ですらないかビワハヤヒデ!!そしてこれが無敗の三冠だと言わんばかりだナリタブライアン!!これはもうこの三人に勝負は絞られたか!?』

『ローレルがまだ加速できる、あの時の末脚を出せてる!!間違いなくローレルちゃんはあの時よりも上、それに拮抗できるハヤヒデも凄いけどブライアンのこの走りは何!?』

 

フローラですら言葉を作れない程のデッドヒートがそこにある。中山の直線、ゴールまであとわずかという所の激戦。互いの死力を出し尽くすような走りの果てに何があるのか、誰もが気になった。まだターフを走れぬ幼いウマ娘達もその走りに魅了された。

 

「す、すっげえ……!!」

「ああっ身体が震えるねぇ……武者震いだねぇ……!!ああっ走りたいねぇ……!!」

「もう、このレースの勝者なんてどうでもいいんだ、この瞬間の為に走るのがウマ娘……!!」

 

そこに走る三者、それを借りるようにポッケ、タキオン、カフェは自らの姿を重ねた。遠くない未来で自分達も走るその時を夢見て。そんな様子を見たランページは思わず笑った。

 

「やっぱり、レースは面白いなぁ……」

 

『残り100を切ったがまだ三者横一線!!誰が勝つんだ、サクラかビワかナリタか!?世界を魅了した花、世代最強の名を此処で真の者とするか!?それとも更なる無敗の伝説へと行くのか!?さあどうなるどうなんだ、ブライアンブライアンブライアンが僅かに抜け出したいやビワハヤヒデもローレルも負けていないがどうなるんだ!!?いやこれは―――ブライアンだぁぁぁぁ!!ブライアンが抜け出して今っゴールイン!!!大混戦の有記念を制したのは無敗の三冠ウマ娘、ナリタブライアンだぁぁぁぁぁぁ!!!二着にはビワハヤヒデ、三着にサクラローレル!!そして四着にはナイスネイチャ!!五着にライスシャワー!!』

 

「うわああああああああっっっ!!!!」

 

ゴール板を駆け抜けたブライアンは魂からの咆哮を空へと打ち上げた。それは一瞬、中山レース場が静寂になる程のものだった。勝利の雄たけび、一瞬の静寂の後、その数倍もの爆音が天高く舞い上がった。勝者となった彼女の顔は……何処までも清々しく満たされたものだった。

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