「ふんふんふふ~ん♪」
鼻歌交じりにスキップをするマヤの胸元には星を象った勲章が飾られていた。ホープフルステークスを勝利したマヤに坂原トレーナーが送ってくれた勲章、本当は時間がかかるのだが坂原は頑張って裁縫して星の略章をマヤの為に作った。その代償として坂原の指先には沢山の絆創膏が貼られたが……当人は嬉しそうなマヤの笑顔を見れただけで甲斐があったと満足していた。
確りとした勲章は勝負服にも付けられるように発注しなければいけないので、時間がかかるので直ぐに準備してあげたいと思った坂原は頑張ったのであった。そして確りとした勲章はランページ経由でグッバイヘイローにお願いしたのだが
『遂にあなたも私の腕を認めたという事ね!任せなさい、アメリカ空軍には伝手があるから完璧な勲章をデザインしてあげるわ!!』
これまで自分のデザインが全スルーされた事が相当腹に据えかねていたのか、ランページからの依頼だったので凄いハッスルを起こしてしまった。まああれでも超一流デザイナーではあるのだから……と無理やり自分を納得させるランページがいた。そんな事は露知らず、マヤは
「ランページさ~んこれ見て見て~!!トレーナーちゃんが作ってくれたの~!!」
自分の可愛さを分かっていなければ絶対に出来ないようなターンと表情の作り方、そして声、様々な要素を組み合わせたマヤ渾身の可愛いポーズをしながら部室へと入った。そこには坂原もいれば上水流もいる、二人は思わず見惚れたようにマヤをじっと見てしまう程に完璧に目を奪われた。
「似合ってるよマヤ、やっぱり星にして正解だったね」
「う~む、ワザとやっていると分かっているのにあざとらしさ皆無の可愛さよ……やべぇな」
坂原と上水流からは好評、マヤにとってはトレーナーちゃんの笑顔だけで全てな気分だが……肝心のランページからの反応はない。いないのかと思ったのだが、テーブルに突っ伏すかのように項垂れている暴君の姿がそこにあった。
「ラ、ランページ……さん?」
不安そうな声が出たが坂原と上水流は同時に口に指を立ててシーと声を出した、思わず口を塞ぐと小さく彼女の寝息が聞こえてきた。
「疲れてるんだ、寝かせてあげて」
「マヤのホープフルステークスに当てられたらしいんだよ、こんな立派な子がチームのトレーナーなんだからもっとちゃんとしないといけないってさ」
そう言われてもマヤとしてはぴんと来なかった、既にランページは立派じゃないのだろうか?と思っているとノックがされた、坂原がどうぞと返すと入ってきたのは南坂だった。
「失礼します、ランページさんの忘れ物を……やっぱりこうなってましたか」
「やっぱり?」
「先日最後の課題を出したんですよ。それのクリアが漸く出来たんですよ」
「って事は―――」
「ええ、ランページさんは全盛期の強さを取り戻しました」
その言葉にマヤは思わず眠り込んでいるランページを見た、全盛期……あの凱旋門やBCクラシックを制覇した時の強さを取り戻した。いったいどれほどまでの強さなのかと思う一方でじゃあ今まではあんな走りをするのに全盛期とは程遠かったのか?という疑問もわく。そんな自分の疑問に答えるように南坂は荷物を置きながら答えた。
「引退すると良くも悪くも落ち着きますからね、ランページさんも大分穏やかになってます。それをまた研ぎ直すのは中々苦労しましたよ。正直言いますと無理だと思ってました」
「貴方に無理なら多分誰にも出来ないんだろうなぁ……にしても最後の課題って一体何をやらせたんだ?」
「メジロモンスニーさん、サンデーサイレンスさん、アンブライドルドさんにご協力を願いましてね。三連続で模擬レースをして勝たなければいけないという物です」
「エグ……」
「それ単なる虐めでは?」
「無茶じゃない?」
上水流、坂原、マヤが順番に感想を述べた。反射的に、思考して、呆れて、三者三様の返答に南坂も苦笑しながらも私もそう思いますよと、答えた。これはランページを諦めさせる為のものでもあったのだから。だが彼女はそれを達成してしまった。
「精神というのは思った以上に戻らない、それゆえに今ある手札で最強を目指すのが定石。ですがランページさんはあくまで全盛期の強さを取り戻す事を望みました、そうしなければレジェンドレースで勝つ事は絶対に出来ないからです」
「いや、そこまで断言するのか?確かに今回のレジェンドレースの面子正直言って頭可笑しいけどさ……いや今回もか……?」
「前回も大概だったけど今回も今回だからねぇ……」
今回は特にドリームトロフィーリーグから流入が激しい。第一回大会はなかったが今回は場合によっては最後になるだろうとルドルフやラモーヌ、シービーも参戦している。元々引退ウマ娘などを対象にしたレジェンドレースだが……今回ばかりはその敷居は伝説の名に恥じぬ程に高くなっていると言わざるを得ない。
「そんなのに勝つ為にはそこまでしないといけないのか……」
「まあ今回ばかりはハッキリ言ってこうでもしないとランページさんは勝てないと私も断言出来ますから。特にフローラさんなんてその精神性で肉体凌駕して凱旋門勝ったみたいなもんですし」
それを出されたら自分達はもう何も言えなくなる。ランページとフローラの差は縮まっている、ほぼ同じ場所に立っていると言ってもいい、だが向こうが現役でランページよりもずっと長く海外を走ってきた経験値もあるので現在は拮抗していると言っても過言ではないのだ。
「イクノさんとかも出ますからね、あちらにも対ランページさん戦術を叩き込んでます。まあ彼女は最初からランページさんの天敵ではあるんですけど」
「フローラもある種天敵だよなぁ……そう思うと、この暴君は天敵二人をライバルにずっと勝ってきたのか……改めて怪物では?」
「だから暴君だと言われてるんだと思うよ、彼女にとって自分自身が法なんだから」
それらを相手にするためにされた準備、ランページは完璧に整った。全盛期の強さを得た今はそれすら越えた者となった。マヤは思わず喉を鳴らしてしまった、一体どんなレースになってしまうんだろうかと……間もなくに迫ったファイナルズとレジェンドレース、その開始が……溜らなく遠く感じられてしまう程に、楽しみになった。