ターフを走り抜けるウマ娘、トレセン学園では特別珍しい事も無い光景。その光景が、何れ後世が語り継ぐような事をするウマ娘が此処から生まれて行く、それが楽しみだと以前秋川理事長が話した事を思い出しながらもオークスでの走りからの休養を続けるランページは思いながらも脚を進める。数日もすれば、自分の走ったオークスなどよりも遥かに熱い熱を帯びたレースが開幕する。そう思うと自分もそっちの路線にすればよかったかぁ、なんてことを考えてしまうがそんな事を捨てておこうと思うとターフを走っていたウマ娘が近づいて来た。
「ラン!!どしたの」
「何もせずにブラブラしてんだよ」
ターフで走っていたのはライアン、皐月賞を征した次はいよいよ日本ダービー。本格的にクラシック三冠が見えて来たという所、と言っても次の日本ダービーは簡単にはいかない。皐月賞ではギリギリまで競り合っていたアイネスフウジンが引き続き参戦するし他にも有力ウマ娘達による激しいレースが予想出される事だろう。
「もう直ぐダービー、ウマ娘達の祭典が始まると思うともうゾクゾクしちゃうよ!!」
「やれやれだな、俺が勝ったオークスなんて唯の前座扱いみたいで複雑だぜな」
「あっゴメンそういうつもりじゃ……」
「気にしちゃいねぇよ、俺だってダービーの方が上って事は分かってんだよ」
格式や歴史で言えばダービーの方が優れているのは分かっている、それなのに自分はティアラ路線を選んだ。ラモーヌからの誘いというのもあるが……
「んで如何なんだ、勝てそうなのかアイネスには」
「う~ん如何だろ……精一杯やるつもりだけど、皐月賞だって実力というか運勝ちな気もするし」
「フロックでもねぇだろ、単純に時の運がお前さんを選んだだけの話だ」
勝負事に運が絡むなんて当たり前の事、天気にバ場状態、その日の体調やら全てに運が絡む。出来るだけ誤差が起きにくくしたり、起きたとしてもブレ幅を極力狭くするようにするのが努力という物。最大限の努力をしたとしても運が悪い事は突然やって来る、残酷とも言えるし致し方ないとも言える。
「そういう時の運は誇っていい、運命を引き寄せたってな」
「運命……なんか話大きくなってない?」
「なってねぇよ、小さい運命を運っていうんだよ」
別に大きな話なんてしていない、これ自体はヒトソウルにある自分の持論だ。正確に言えば祖父から受け継いだ考え方。祖父は特攻隊の一員だったが、その役目を果たす前に終戦を迎えた。そして自分が生まれたのだと、夏休みに帰省する度に話していた。だから命を大切にしろと言われた。
「命を運ぶ、運命はそういう意味だ。ライアン、俺にとってお前は運命のウマ娘だよ。こうして生きれてるんだからな」
「―――それ、言うのズルいよ」
「クククッ戦いの世界にズルいも糞もねぇよ。卑怯を煮詰めて相手に押し付けて自分が勝てるようにするから戦術っていうんだよ、ンな事言ったら俺のペース変更だって大いにズルいだろうが」
「違いない」
そう言いながらも笑い合った。矢張り、こうしている時に自分はランページとなっている。唯のランページに、心がそうなっているのが分かる。そして疼いている、走りたいと。
「折角だライアン、併走相手になってやる。オークスウマ娘を相手にしてダービーに備えろ」
「えっでも休養しなくいいの!?」
「もう体調は万全だ。純粋に今日は休みなだけだ、やる事なくて暇だからブラブラしてただけだしな。それとも俺とやると負けてダービーへの自信を無くすから嫌か」
「言ったな!?上等じゃない、だったらアタシがブッちぎって今度の秋華賞に出る気を無くさせてやろうじゃない!!」
「そっちも言ったな、それじゃあやろうじゃねぇかよ」
そう言いながらもまずは軽くコースを一周してウォーミングアップ、その間にライアンも準備を済ませて先に待っていた。そして水分補給をしてからその隣へと並び立った。
「天候良好、バ場状態良ってとこか。悪くない」
「それじゃあやる?」
「応。俺もアイネスと同じ逃げだ、俺に喰いついてみろ、それならアイネスの逃げでも大丈夫だ」
「ランの逃げってペース滅茶苦茶だもんね……」
「うるせぇ、さっさとやるぞ」
「それじゃあ……」
「「GO!!!」」
「あ~先週のオークス凄かったよね!!ランページ先輩の走り凄すぎ!!」
「あ~もう、分かったっての……全く何回その話すれば気が済むんだか」
「それだけ感動したというのも分かるさ」
ジャージに身を包んだ三人のウマ娘が、今ランとライアンが疾走しているターフへと近づいていく。自主練の為だろう、しかしその口からはオークスの話題が溢れている。それに触発されてジッとしていられないと言った所なのだろう。
「単純な大逃げじゃない、私も数回見直してタイムを見て分かったが先輩は少しずつペースを落として途中まで超スローペースでレースを進めていた。そして最後には蓄えていた力で逃げ切った……見事な作戦だ」
「それでカノープスに鞍替えでもする訳?」
「リギルにも入っていないぞ私は、だが改めてカノープスも良いなと思っただけの事さ」
「アタシとチームメイトになる!?アタシはもうカノープスに決めたよ!!」
「それはそれで面白いな」
そんな話をしていた三人が到着したターフには先客がいた。どうやら走り終わっていたのが片方は倒れこみ、一方はそれを見つめている。
「あっ先客さんがいるね、一緒に走れないか聞いてこようか」
「い、いやまてあの二人は……」
「うっそ……噂をすれば影が差すって奴?」
「ハァハァハァハァ……ラン速すぎぃ!!何あれ、何であんなペースなのに脚が溜まってるの!?逃げてるのに差すとか意味分かんないよぉ!!」
「何だよもうへばったのか、この程度でアイネスに勝てると思ってるのか。それに多分逃げて差すが出来るのは他にも居る」
「会いたいような会いたくないような……」
「というか、パーマーだってそれに近いだろ」
「確かにそうか……」
一先ず一周を終えたのだが、ライアンは見事にブッちぎられてしまった。それでも中々に食い下がった方ではあるのだが……そんな事をやっていると自分達に熱い視線を送ってきているウマ娘二人がいた。
「あ、あのメジロランページさんにメジロライアンさんですよね!!?」
「如何にも俺は独裁者メジロランページさんだよ、んで此処に転がってるのが皐月賞ウマ娘のメジロライアン」
「ちょっとラン……ワザと皐月賞ウマ娘って付けたでしょ……」
「当たり前だ」
「うわムカつく……」
そんなやり取りをする二人を見つめる三人だが、口こそ悪いが二人の間に感じられる絆のようなを強く感じられた。
「え、えっと先週のオークス凄かったです!!」
「応あんがとさん、んじゃ次は転がってる奴がダービー制覇するから応援してやってくれ」
「任せてください!!アタシ、ダービー凄い楽しみにしてるんです!!」
何やら、酷く興奮している黒鹿毛のウマ娘。そしてその両隣に居るのは眼鏡を掛けている葦毛のウマ娘、少々目つきがきついが此方をチラチラとみている栗毛のウマ娘。その三人を見てそれが一体誰なのかを察してしまったランページだが、即座に挨拶をされた。
「アタシ、ウイニングチケットです!!夢はダービーウマ娘になる事です!!」
「ビワハヤヒデです、突然お邪魔して申し訳ありません」
「ナリタタイシン……です」
「(うわぁっBNWだぁ……)宜しくな3人とも」
新平成三強とも呼ばれたライバル関係とされた三頭の競走馬、ビワハヤヒデ、ナリタタイシン、ウイニングチケット、この三頭を総称してBNWと言われた。史実のクラシック三冠競走で同世代のライバルとして火花を散らして激闘を繰り広げ続けた。そのウマ娘が目の前にいるというのは中々に迫力がある。
「メジロランページ先輩、オークスでのペース変更戦法は突然の起用だったのでしょうか」
「いいよランで。いや、元々得意だったけど同じチームでそれが通じない奴がいたから使わなくなったんだよ」
「それってイクノディクタス先輩?」
「そそ、流石のイクノも数年ぶりに使って来るとは思わなかったから見事に嵌ってくれたわ」
「おおっ凄い!!そんな戦いもあったんだぁ!!」
そんな話をしているとライアンが起き上がって来た。
「んじゃ続きやるか?」
「勿論!」
「悪いな、今ライアンに付き合って特訓中でな」
「特訓!?」
「ああ、俺をアイネスフウジンの仮想敵にしてダービーに向けての特訓だ」
それを聞いて3人の瞳が輝いた。三人が狙っているのも同じクラシック三冠路線なのが伺えた。
「お邪魔でなければ、それを見学させては頂けないでしょうか」
「アタシからもお願いします!!」
「お願いします」
「別にいいよなライアン」
「うん、別に隠してる訳じゃないし……それに、いざという時はランが責任取って3人が挑戦する時にも同じ事してあげればいいよ」
「おいおいおい人を便利屋みてぇに……まあその位良いけどその時まで俺走ってるのか?」
「走ってるでしょ、ランだし」
「なんかムカつくなおい」
そのままライアンの特訓は継続されたのであった。その後は、BNWの三人も混ざっての練習も行ったりもしたのであった。そして―――時は過ぎ、その日が来たる。
「うわっ通知がうるせぇ!!?ライアンとのツーショット上げたせいか!?」
「いやいやいや、二冠ウマ娘と皐月賞ウマ娘のツーショットなんか上げたらそうなるってネイチャさんどころかターボでも分かるよ?」
「んっ今なんか呼んだ?」