メジロランページは何を考えているか分からないと称する記者、役人、加えてURA職員は多い。URAファイナルズやレジェンドレースもそうではあるが普通思いついたからと言って開設しようと行動出来る訳がない、出来るだけの力があったとしてもそこまでの苦労をほぼ一人で背負うなど、ありえない。これに関してはメジロアサマやスピードシンボリに関しても同意見。
「何考えているか分からない、ですか。当たり前じゃないですか私だって分かりませんから」
間もなく行われる2400の中距離レースを前に南坂に一人のトレーナーとURA職員が質問をしたのだが何を当たり前の事を聞くんだと言いたげな顔で返答をされてしまった。
「南坂さん彼女と普通に会話成立してるし、彼女の行動とか普通に受け入れてるじゃないですか」
「そ、そうですよ。我々URAだって顔面蒼白になるようなことを連発するんですよ!?」
「そう言われても……という会話が成立しないのは成立させるに足りうる内容ではないからだと思いますよ?大方くだらない事でも言って怒らせるはないですね、あの人を怒らせるの意外に難しいですから。呆れさせてスルーされてるだけですね、成立させるなら沖野さんにだって出来ますし」
「いやトップトレーナーを例に出されても……」
「強いて言うならば、高度且つ柔軟で幅広い思考を常に持ち、どのような問題に直面しても冷静且つ適切な立案が出来るようにしているだけ、つまり全部アドリブです。私もランページさんも」
強いて言うならばランページは物事を深く考えない、何手も先読みして流れを構築する事はせずにその場の勢いをどこまで長く続けさせるかを考えるタイプ。南坂はそれに同調しているだけに過ぎない。
「逃げの戦術と同じですよ。何処までに逃げるのか、そして何処からまた逃げるのか、ペースはどう維持するべきなのか、何処で息を入れるのか……それだけです」
「それだけというには随分とキツいものがあるような……」
「生憎それ以上の答えは私は持ち合わせておりませんのでお答えできませんね」
本当はアメリカにいた時代に色々と磨かれた結果なのだが……南坂はそのままスタートしたレースを見た。そして思わずあの事件が起きた当時の事を思い出した。
「オ~ッホッホッホッホ!!私の華麗な走り、GO SHOW RUN あれ!!ですわ~!!!」
『さあ先頭に飛び出したのはソウマフィオール!!この走り、そして喋り方!!ホーリックスのジャパンカップでそのペース故に次々と他のウマ娘を振るい落としていったイブビンティの鏡映しのようだ!!一気に距離を稼いでいきます!!』
『インタビューで言ってましたけど本当に彼女の弟子らしいですからね!!しかもイブビンティさん自身も日本にいます、だけど日本国籍がないとダメだと勘違いしてたらしいですね。ですが来年には出走するというコメントも貰えてます!!』
『期待しましょう!!さあそんな世界を転戦し続けた師を持つウマ娘が先頭に立っている、そしてそんなウマ娘を追いかけるが、ソウマフィオールペースを上げ続けていく!!そこまで師匠譲りなのでしょうか!!?』
「全くふざけてる、だけどいいふざけ方をするじゃない。こういうのは好きよ!」
「身体にいい負荷が掛かる、スタミナにも自信はある。伊達や酔狂でこんな筋肉をしている訳ではないからな!!」
そんな姿を見ながらも勝負をする為にそのペースに合わせていく者もいれば冷静に自分と相談しながら維持するものもいれば本当にこのペースで行くつもりなのか、2000ではなく2400なのにと疑う者までいた。
「良いですわよフィーその調子ですわ~!!」
「了解ですわ~!!」
と観客席から響いたひときわ大きな声にフィーことソウマフィオールが応えた。件の師、イブビンティが隣にオグリを携えながら、一緒にグルメを堪能しながら応援していた。そんな言葉を受けてフィーは加速していく。
「ハァハァハァッ……!!」
全体的にハイペースになり始めたこのレース、差しや追い込みはこの時点でかなり辛くなる。此処から巻き返すには相当の末脚を発揮するか、先行にまで前に出るしかない。いずれかの選択肢を提示されて選択していくウマ娘の中で苦しげな息を吐きながらも疾駆するウマ娘がいる。
『さあブラックウィドウも上がっていく、続いでヘッドブリンガー……少々走りが揺らいでいるようにも見えますね』
『彼女の本領はダートらしいですからね、芝でも相応に走れるみたいですけど芝だと一歩劣る感じですね。それでもこれだけの走りをするのは流石と言わざるを得ないです』
「何だ、舐めてるのか……!?」
後方にもまだ控えている者はいる、追い込みだが自らの末脚に相当の自信があるという事なのだろう。それは同時に迷っている自分への当てつけのようにも思えた、そして前を行くウマ娘にもそれを思った。差しが本領である筈の奴も前に行く、自分は相手にもならないというのか。
「どいつもこいつも……どいつもこいつもっ……!!」
歯軋りの音が低く響いた。苛立ちが溢れていく、なんの為に芝に出たのか、それも相まって自分への情けなさが増強されていくかのようだ。
『先頭は未だにソウマフィオール、そこから6バ身離れてブラックウィドウ、トワノプリマドンナ。このままソウマフィオールが逃げ切ってしまうのか、おっとここで一気に上がってくるウマ娘がいるぞ!!これは凄い追い上げ、キーボードピッチの背後にピッタリと食らいつきながらも上がってきている!!ヘッドブリンガーが今ッ飛び出して先頭集団に噛みついたぁ!!』
「これで全てを終わらせてやる!!」
「―――あらっ何を終わらせるって?」
「っ!?」
ヘッドブリンガーの背後にスナイパーライフルを担いだギリースーツのスナイパーがいた。一体何時の間に自分の背後にいたのか、自分が気付けなかったのか!?と思いながらもそのウマ娘が悪戯が成功したような声で言った。
「私のこと忘れてたでしょ!!」
「そもそも、眼中になかっただけだぁ!!」
「それは結構」
『さあ今っ最終コーナーを越えて、今最終直線に入った!!アルマスリーリヤ、アルマスリーリヤが凄い末脚で上がってきた!!これは凄い凄い!!これほどの脚を出せるウマ娘はそうはいないぞ!!?』
「スナイパーを、私を忘れたらそこで終わり!!」
『シャルフシュッツェが今ヘッドブリンガーを抜いた!!シャルフシュッツェが今トワノプリマドンナに競り駆ける!!先頭は未だソウマフィオール、ブラックウィドウも必死に足を伸ばす!!ボーテアムールも必死に食らいつくが厳しいか!?』
歯軋りと耳鳴りのようなノイズが一段と酷くなってきた、あのスナイパーに打ち抜かれたかのように抜かれた直後にどっと脚が重くなった、このような所で終わりなのか―――と思った所に
「
観客席の中に知った顔があった。感謝こそしているが忌々しいあの眼帯を付けたウマ娘、自分のトレーナーでもあるライガーテイルだ。自分の走りを見て笑うのか、笑っているんだろう、その笑いはそうなんだろうと思っていれば
「貴様はここからだろう!!さあ愉快な遠足を始めて見せろ!!」
声援とも思えぬような言葉が飛んできた、だが不思議と気合が入るのが腹が立つ……
「上等だ始めてやらぁ!!」
『ヘッドブリンガーが蘇った!?ヘッドブリンガー物凄い末脚です、別人のような走りで今シャルフシュッツェに並びかけた!!さあ抜けるか!?ソウマフィオールも流石にもう限界か!?ブラックウィドウ、トワノプリマドンナがじわじわと迫る!!あと2バ身!!逃げ切れるか!?その背後からは猛烈な勢いで上がるヘッドブリンガー、シャルシュッツェを越えられるか!?アルマスリーリヤ現在3番手!!ブラックウィドウ、流石に厳しい!?ソウマフィオールはまだ粘ってきている!!大混戦のまま今ッゴールイン!!!先頭でゴールしたのは―――ソウマフィオール!!!ソウマフィオールがそのまま逃げ切ったぁ!!二着にアルマスリーリヤ、三着にトワノプリマドンナ、四着にブラックウィドウ、五着にヘッドブリンガー!!』
「や、や、やりましたわ~!!私が一着ですわ~!!」
あれほどのペースで走っていたというのにまだまだ騒げる元気があるフィー、そんな彼女は掲示板のタイムを見た。そこに表示されたのは……2:22:5秒というタイム。ランページが更新する前のワールドレコード、イブビンティが出走したジャパンカップの伝説であるホーリックスのそれに後一歩の所まで肉薄してみせたタイムであった。
「っ……くそぅ……!」
悔し気に地面を殴る、だがヘッドブリンガーの心はその好意とは裏腹に何処か晴れやかな気分だった。何故そうなのか分からない、悪くない気分だが意味が解らずにイライラする……。
「どうせこの後、トレーナーからどやされる、そのせいだ……」
照れ隠しに呟いたその言葉は彼女の意見ではあったが本心などではなかった。そして勝者を見つめながらも肩を竦めながらもぶっきらぼうに称賛を送るのであった。
中距離2400部門チャンピオン ソウマフィオール
幽々やよい様よりソウマフィオール、イスレ様よりボーテアムール、トラセンド様よりブラックウィドウ、ヘッドブリンガー、ライガーテイル、天羽々矢様よりアルマスリーリヤ、ウルルンファング様よりシャルフシュッツェ、シェルフィ様よりトワノプリマドンナを頂きました。有難う御座います!!