溢れんばかりの熱気と興奮、掻き立てる闘争心、頬を撫でる風……自分はここに立った事すらなかった。それなのにこの場に立てた事が酷く懐かしさすら感じられるのが不思議だった……自分に此処に立つ資格があるのかとさえ思う程に、自分は不釣り合いだ。
「ケ~イッ!!」
「うわぁっ!?」
後ろから思いっきり抱き着かれて前に倒れそうになった、顔を向ければそこには心の底から笑っているビゼンニシキがいた。
「ずっと待ってたよ貴方が帰って来るのを、ルドルフと一緒にさ」
「ニ、ニシキ……わ、私は……」
「心の底から、待っていたよケイ」
その言葉にルドルフも心から賛成していた。ソウルディケイダー、元ルドルフの同室且つ彼女の親友だったウマ娘。そんな彼女に向けるルドルフの瞳は何処か喜びと哀愁に塗れていた。それを感じ取ったのはテイオーだった。思わずランページに声を掛けに行く。
「ね、ねえカイチョー如何したんだろ、なんていうかもう会えないと思ってた友達にあったみたいな感じじゃない?」
「実際そうなんだろうよ、ソウルディケイダーさんは元中央トレセンに居たけど自主退学した人なんだ。周囲からのやっかみのせいでな」
「ん~どういう事?」
一緒に居たターボが思わず首を傾げたのでランページは当時の事を知っているシービーやモンスニーからの事を話す。ソウルディケイダーは一目見たウマ娘の走りを完璧に模倣し自分の走りに取り入れられる特徴な才能を持っていた。
「全身走法も出来るってモンスニーさんは言ってたな。一度見ただけで」
「イッカイダケデ!?スゴイジャン!!」
「凄~い!!アニメであった見本見ただけで継承させる剣術みたい!!」
この二人は極めて肯定的な意見だが、周囲からすれば自分が必死の努力の末に体得した技術や長い時間をかけて研究して生み出した走りを一瞬のうちに奪われてしまうという恐怖が勝った。故に、他者の努力を踏み躙る悪魔やレースの破壊者などという悪名を付けられた。それによって精神を病んでしまったという。
「今回、あの人がレジェンドレースに出たのも会長さんが粘り強く説得したからって話だしな……実力は折り紙付きだ」
「会長が?」
「ああ、なんせ―――予選は全レースで大差勝ちだ」
「「っ!?」」
レジェンドレースの水準は思われている以上に高い、全盛期こそ過ぎているウマ娘も多いがその分技術で補ったり経験が極めて豊富なウマ娘が数多いのである。それこそとんでもないのが出て来るのがレジェンドレースの面白い所。そんな中を全て大差勝ち……その事実に二人は喉を鳴らし、瞳がギラついた。
「カイチョーが説得したんならそれだけ凄いって事だよね」
「だよね、だったらターボも本気で走ってもいいよね。寧ろ走らないと失礼だよね」
ギラギラと燃える闘志の炎。ブリーダーズカップを制している二人からしてもルドルフが直接説得してレジェンドレースに誘ったという時点で興味が尽きない、そして大差勝ちの事実。その走りが何処までのものなのか、如何すれば勝てるのか二人は頭を回転させ続けている。それはランページも同じ事。
「(相手の走りを見ただけで得るか……だったら、あれしかねぇよな)」
「こちらに来て正解だったな、まさかあのような相手と走れるとは」
「そんな事を胸張って言える立場か、お前だって似たようなもんだろ」
ロックスミス。前回はファイナルズを走っていた筈だが今回はレジェンドレースにまでやってきている。理由は唯一つ、自分と走る為だったが標的だったランページ以外にも面白い相手が山ほどいる事に心躍らせているのがよく分かる。
「一応聞いとく、本命は?」
「お前以外に誰がいると思っている」
「ですよね~」
「退屈させてくれるよな、独裁暴君」
「ハッ問題児風情が、暴君に敵うと思うなよ」
「オイ、オ前」
火花を散らすロックスミスとランページのその間に入るかのようにシルヴァリオが割り込んだ。まるで主人を守る為に毛を逆立たせて威嚇するかの如く、凄い形相でロックスミスを睨みを利かす。
「ランページサンニ、何テ口ノ聞キ方ヲシテイルンダ……オ前ナド、ランページサンニ勝テル筈モナイ。ナラバ尊敬ヲ持ツノガ当然」
「シルヴァリオ、一時期は無気力の状態だったと聞いたがいい顔をするな、まるで忠実な犬のような顔だ。どんな走りをする?」
「聞ケッ!!!」
ガルルルルルッ!!と肉食獣のような威嚇をロックスミスにするが、肝心のその相手はガン無視でシルヴァリオの走りに注目している。全く噛み合っていない、これからレジェンドレースが始まるのにこんなのでいいのかと思った時にそれは来た。
「やれやれ、全く貴方達は何しに来たんですか。この伝説の舞台で戦う為に来たんでしょう、喧嘩しに来たなら他所に行きなさい」
ドヤ顔と落ち着き払った態度を見せながら二人を落ち着かせようとするフローラ、ランページからすればこれほどまでに落ち着いたフローラは変な物でも拾い食いしたのか?と思う程にレア。まあ魂胆は透けて見える、この場でまともな事を言って好感度でも上げようとでも考えているのだろう、浅知恵にも程がある。一々こっちを見てウィンクするのをやめろ気持ち悪い。
「ウルザイ黙レ変態ウマ娘!!貴様ガ消エロ!!!ランページサンニ執着スルストーカー風情ガ偉ソウニスルナ!!!」
「んなっ!?誰がストーカーですか!?私は人よりランページさんへの愛が深くて重くて純度が高くてアプローチの仕方が不器用でしつこくて狂信的で熱狂的で陰湿なだけだ!!」
「それは普通にストーカーだと思うが」
「オ笑イダナ!!自分ガストーカーダトイウ事モ分カラナイとは!!」
「断じてストーカーじゃありません!!しいていうなら
「キモいぞお前」
「此処って本当にレジェンドレースの舞台なんでしょうか……?」
「面子的にはその筈だと思うけど……だがこれはこれで良いんじゃないか?型破りで」
思わず呆然とするシダーブレードにブラッククラウドが慰めるように苦笑いしながら言った。確かに伝説のレースの舞台としては些か相応しくないような気もしなくもないが……結局の所自分達に求められているのは走りなのだ、それさえ伴っていれば問題はないだろう。
「漸く来たな……俺が望んだ舞台」
そう呟いたのはサンデーサイレンス。そう、この舞台は彼女の為の場でもあるのだ。ずっと思って来た願いが結実する、全身が武者震いしている……早く、早く走りたい……そんな思いが実を結んだかのように―――ゲートインの時が来た。
じ、次回こそちゃんと走るから!!