貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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515話

トレセン学園に入学出来たのは嬉しい限り、此処から私のトゥインクルシリーズは始まるんだという実感が現実味を帯びてきた。だがここは文字通り弱肉強食のレースの世界、弱き者が強き者に淘汰され、その強き者でさえ平然と負ける事だってあり得る世界。故に私は入学当日だからと言ってものんびりとしている訳にはいかないのだ。

 

私の同室は居なかった、正直言えば気が楽だった。誰も居ないのであれば存分に好きに出来るし気を遣う事もない訳だ。外出届を提出し早速走り込みを開始する、夕暮れなのに走るのかという問いにも当然とだけ答えた。夜が近い……走るのならば星空の下が良い。

 

「ハァハァハァッ……」

 

呼吸音と虫の声だけが耳につく。どれだけ走り込んだだろうか、気付けばすっかりと日も落ちて星空が輝いていた。そんな空に向けて自分は願いを放つ、必ず貴方の分も走って勝つ……そうしなければ貴方に償えないから―――

 

「っ……!?」

 

街灯の一つが突然消えた、停電かと思ったが他の街灯はついている。直後に自分の身体が金縛りにでもあったかのように硬直してしまった。全く身体が動かない……一体何が起こっているのか……そんな時、背後から不気味な音が聞こえてきた。一体何なのか、恐怖が一気に駆け上がってくる、怖い怖い怖い、今すぐにでも此処から離れたい……!!

 

「寝ない子悪い子だぁれだ……お前じゃああああああ!!!」

「きゃああああああああああああ!!!??」

 

肩を掴まれて自分でもどうかと思う程の大音響の声を放った。そして必死に振りほどくかのように暴れて、なんとか身体が動いた。そして一体何が自分を掴んだのかとそちらを見るとちょうど街灯が復活した。

 

「いやぁ悪い悪い、ちょっち悪戯心が産まれちまってな。あんなにびっくりするとは思わなくて、ごめんごめん。マジで悪かったな」

「あ、貴方……メ、メジロランページ!?」

「はいそうです、私が独裁暴君でお馴染みのメジロランページです。今年でトレーナー3年目」

 

Vサインを浮かべながらも驚き過ぎて力が抜けてしまったのか思わずへたり込んでしまった。

 

「いやな、仕事終わりのドライブ楽しんでたらトレセンのジャージ着て走ってる姿見えたからよ。ちょっと気になってな、見た所新入生か。まだ入学初日なのに張り切ってるなぁ~……お前さんの名前は?」

「……ア、アドマイヤベガ……」

「アドマイヤベガか、んじゃアヤベさんだな」

 

世界最速最強のウマ娘、メジロランページ。私だってその名前は知っているしレースは欠かさずに見ていた位にはファンだ。そんな人が目の前にいて気軽に話しかけてくるという現実が、いまいち受け入れられなかった……

 

「あの、サインってもらえます?」

「応幾らでも書いてやるよ」

 

一先ず、家族分と一緒に自分のサインを確保しようと思った。

 

 

「悪いな、だけど初日に無理はし過ぎるな。環境の変化をあんまり舐めない方が良い、寮生活ってのは慣れるまでストレスが掛かるから順応してからこういうのはやった方が効率がいい」

「そう、なんですか?」

「俺の海外遠征もそんな感じだったからな、実体験みたいなもんだ」

 

ランページはアドマイヤベガを車に乗せて走らせていた。そこで様々な話をしながらも彼女の事を見る、矢張り見える……カフェのお友達と同じように見えるのだ。こういうのを矢張り霊能力というのだろうか……カフェに弟子入りしたら霊媒とかできるようになるのだろうか……。

 

「(この子のケアか……三女神、俺の事部下かなんかだと思ってるのか?まあ言われりゃやるけどさ……アドマイヤベガ、か)」

 

欠けた天秤の一等星、アドマイヤベガ。史上初となった日本ダービーの連覇を成し遂げた武 豊、その伝説を共に作り上げた名馬、テイエムオペラオーとナリタトップロードの三強の一角を担っていた。が、矢張り語るべきはその出生。母は二冠牝馬のベガ、そんな母のお腹の中では双子が生を受けていた。人間でもそうだが、競走馬の双子は大成しないのというのと母体に危険が及ぶことから減胎処置が執り行われ、生まれたのがアドマイヤベガだった。

 

「アヤベさんっつうかこの呼び方で良いか?いやならベガとかアドマイヤさんって呼ぶけど」

「大丈夫です、お好きに呼んでください」

 

胸にサインを抱きしめながらもそう言う彼女に遠慮なくアヤベと呼ぶ事にする。

 

「さっき言ってたよな、俺のチームに入りたいって」

「はい。私はもっともっと速く強くなりたい、その為には強いチームに入ってその指導を受けたいと思っています。驚きではありましたが貴方と会えたのは幸運でした」

「ふぅ~ん……まあ入れる事は別にいいと思ってるが俺からも聞いとく事があるけど良いか?」

「どうぞ」

「何の為に走る、速くなるのは何のためだ。そこん所をはっきりさせておきたい」

 

これだけはハッキリ聞いておく必要がある、自分はその答えを知っているようなものだが建前上、取り繕う事も必要になってくる。それを聞かれてアヤベは直ぐに答えを返してきた。

 

「私は勝たなければいけません、勝たなければいけないんです。そうでなければ私は……」

 

其処まで言って彼女は口を噤んだ。何も知らない自分にそこまでの事は言えないという事なのだろうが知ってしまっている。三女神に言われているのだ。

 

『アドマイヤベガの妹さん?』

『そうなんだ子羊君。双子で生を受けたが何方を選ばなければ生きられない、という事はある話なんだ。だが彼女はその事を心から悔いていて妹の命を奪った、妹が味わう筈だったレースの楽しさを自分が奪ったと思い込んでいる。勿論妹さんはそんな事全く気にしてない。だから君にフォローを入れて欲しい』

『そういうのこそ三女神の仕事でしょうがよ、なんで神様の仕事を俺がやるんですか』

『だってほら、私のお気に入りですから』

『マジでバラムツ送るぞ駄女神』

 

そんなやり取りが脳裏を過る、そして視界の端では気まずそうにしつつも心配そうにアヤベを見る妹の姿がそこにある。こう見ると互いに干渉できるカフェとお友達の関係性の異質さが際立つ。それを感じ取れる自分も十分異質ではあるのだが……。

 

「まあ敢えて深くは聞かない、いいだろう明日プレアデスに顔出しな」

「はっはい、有難う御座います……!!」

 

いきなり深入りするのもあれだろうし、じっくりと時間をかけてケアをしていくとしよう……。と言っても自分に本当に出来るのかという疑問がなくはないが……いざとなったら自分の自殺云々持ち出せばなんとかなるだろう、と少しだけ楽観視するのであった。




という訳でアヤベさんでした。ランページ経由でカフェと絡ませるのも面白いなぁと思って。
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