「それで、私に何のお話があるのでしょうか」
「そう焦りなさんな、暴君の家への興味が絶えないって尻尾揺れてんぞ」
「そ、そんな事は……」
指摘を隠すように尻尾を握りしめたアヤベに笑いながらも珈琲を淹れる、カフェには連絡は取ったが矢張り休日にする事に変更した。じっくり話す事が恐らく正しい。
「それで……えっと、この子は」
「ああ、俺のダチでマンハッタンカフェって言うんだ」
「初めましてマンハッタンカフェです」
「よ、宜しく……」
流石に此処まで来させるわけにもいかないので先にカフェを迎えに行った、その際にタキオンとポッケからも自分達も行きたいと言って来たが流石に遠慮して貰った。その代わり今度一緒に遊びに行く約束をする事で勘弁して貰った。
「ほいカフェ、ランページ特製ブレンド珈琲だ。但し日によって味が変わるから保証は出来ねぇけどな」
「いえ、これは香りから分かります……これは、とてもいい物です」
「そりゃ上々。ほいアヤベさんの分」
「ど、どうも」
アヤベからすればどうしてこんなことになっているのか分からなかった、念願のプレアデスに入って練習に明け暮れようとしていた矢先にランページから少し付き合ってくれと言われて自宅へと招待された、そしてそこにはランページの友人という少女のウマ娘がいた。一体何をさせようというのだろうか……しかしこの珈琲、美味しいが苦みが強すぎないだろうか……。
「んっ~今日のは苦み強めコク濃い目だな、牛乳いるか?」
「私は大丈夫です、この味好きですので」
「……私もいいです」
カフェが平気そうな顔をしながら珈琲を飲み進める姿を見て自分が飲めないのは恥ずかしいと思ったのか我慢して飲む。美味しい事は美味しいが……苦みが強い、その苦みも美味しく思うが……苦い物は苦いのだ。
「カフェ、お友達の様子は如何?」
「ランページさんにお会い出来てテンション高いです」
「だろうな、さっきから俺の背中バシバシ叩いてる。おい勝手に尻尾結ぼうとしてんじゃねえよ塩まくぞテメェ」
「やれるものならやってみろよ、だそうです」
「応待ってろ、ロックソルト弾喰らわせてやるから」
「それは勘弁だそうです」
一体何の話をしているのか……お友達とは一体、二人だけに分かる何かがあるのだろうかと思う一方で奇妙な程に胸がざわめいていた。不安な訳でもない、怖い訳でもない、如何して……自分は何に期待をしているんだ。
「ンでどうだカフェ、お前にも見える?」
「はいバッチリと。此方を隠れながら見て伺っているみたいです」
「だよなぁ~……お友達よ、お前さん迫力あり過ぎてんじゃねえの?」
「あ、あのっ!!先程から一体何を話して―――」
「妹さんの事です」「お前の妹さんの事だよ」
その言葉を聞いた途端に思考が死んだように何も考えられなくなった、身体の中が冷えていくような感覚がある。一体何を言っているんだ……いやランページは自分のトレーナーでもあるのだから資料かで知ったのだろう、ではもう一人の少女は一体どうして……いやそうだランページから聞いたに決まっている……
「そうなんですね、お姉さんは尻尾を握って眠る癖が」
「あ~あるよな、寝てるときに出ちゃう癖って」
「何で知ってるのよ貴方達!!?」
「「妹さんから聞いた」」
誰も知られていない筈の癖、同室もいないのに知られたという事実から導き出された答え。それは―――この場に自分の妹がいるという事。そしてこの二人は妹と対話をする事が出来るという事だった。
「つまり、貴方達は死者と話せる……って事ですか」
「いや俺は別に無条件で話せる訳でもないし、偶に見えるんだよ」
「私はまあ……良く見えます、一緒にいるお友達もいますので」
「それじゃあ私の傍には妹が……あの子がいるって事なんですか……!?」
「ああいる、如何やらずっと一緒にいたらしいな」
その言葉を聞いた途端、アドマイヤベガの涙腺は崩壊した。大粒の涙を流しながらもそこにいるであろう妹を見た。驚くべきことにその方向は妹が本当にいる方向だった。
「ずっといてくれたんだね……本当に、嬉しい……そしてごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい……私が私が貴方の全てを奪ってしまった……私が、貴方のっ……!!」
まるで懺悔だ。見る事も感じることが出来ぬ妹への懺悔、後悔、贖罪、これまでの彼女の生き方を示すかのような発露に流石のカフェも言葉を失っているがこれは同時に彼女が妹へと向けている愛情の深さを示している。それ程までに妹の存在は大切なのだ……二人は静かに、落ち着くのを待ち続けるのであった。
「……すいませんお恥ずかしい所をお見せしました」
「家族への思いを恥ずかしいという必要はない」
「はい、妹さん思いのお姉さんで良い人なんだと思いました。私の知り合いのお姉さんより余程……」
漸く泣き止んだアヤベは顔を赤くしながらも頭を下げるが、二人はその必要はないと止める。だが問題はここからだ、例え妹がいると分かってもアヤベはそう簡単には止まれない。これまでそうして生きてきたのように突然生き方を変えるなんて事は出来ない。
「私は正直、お二人が羨ましい……あの子と話せるなんて……」
素直な羨望の眼差しが向けられた、それだけ羨ましいという事だろう。だがまあこればっかりはどうしようもない、そして話を前に進めよう。
「ンでアヤベさんや、この前強くなって勝たなければならないっつってたな。それはその妹さんの為って認識で良いのかい?」
「はいそうです、私は……私がそうと望んだわけではありませんが、妹の命を貰って生きているようなものです。私はあの子の為にも走って勝ちたいんです」
より一層の強い意志があった。妹が確かに共にあるという認識は彼女の矜持をより一層強固にしてしまったと言ってもいい。それをカフェも感じ取っているのか、如何するんですかと言いたげな視線を送ってくる。正直自分だってこんなのは嫌だ。何を偉そうに語るんだと思われるかもしれない……それでもいい、この子を此処で潰させるわけにはいかないのだ。
心配そうに姉を見つめる妹、此方を見て何とかしてほしそう必死に頭を下げている。なんて姉思いなんだ。姉の幸せを願っている、だからそれを叶える為にも一つの案を実行する。らしくないかもしれないが―――暴君なんて二つ名なんだ、らしくなろうじゃないか。
「へぇっ……じゃあお前はプレアデスにいる意味はねぇな、出て行ってくれ」
「―――えっ?」
「ランページさん……?」
そこにあったのは二人が見た事がないような冷たい顔をした暴君。二人だけではない、彼女を知る大多数が見た事がないような冷たく鋭利な瞳と顔を作っていたランページの姿。
「強くなりたい速くなりたいそりゃ結構だ。妹の為に勝ちたい、ほうほう崇高なお考えをお持ちなこって……負けたら勝てなくてごめんなさいトレーナーの指示に従ったけどダメだったごめんなさいトレーナーのせいですってか」
「そ、そんな事を言うつもりは……!!」
「何言ってんだそれ自体は良いんだよ、責任を被るのもトレーナーの仕事の内だ。だけどな、自分の為に走れない奴は何やっても駄目だぞ、何れ自分を食い潰して果てる」
何処まで冷徹だった、暴君の言葉にアドマイヤベガは言葉が出なくなっていた。自らの言葉全てが法だと言わんばかりのそれは正しく独裁。
「私はっ……それでも……!!」
「今度は妹に姉の人生を私が奪ってるという懺悔を背負わせるか」
その言葉にアドマイヤベガは、呼吸がつまり胸が締め付けられるような痛みを覚えた。今まで考えた事もないような鋭く、締め付けるような、深い痛みを感じた。
「アドマイヤベガ、そうなったらお前は今度こそ孤独に堕ちる。間違いなくな」
それ以上に―――暴君の言葉が唯々怖かった。