貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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519話

久方振りにすっきりとした目覚めを迎える事が出来た気がする。妹とレースを走っていた、そこでは妹も笑顔で自分も心から楽しかった。お揃いの勝負服に身を包んでのレース……そんな世界もあったのだろうと思ってしまうのは恐らく願い過ぎるなのだろうと素直に思えている辺り、自分は大きく変わっているのだと思った。

 

「おはよう」

 

見えないが近くにいる事だけは分かる、そこにいる妹へと挨拶をすると不思議と挨拶を返してくれている事が分かったのだ。そして周囲を見回してみるとそこはトレセン学園の学生寮にある自分の部屋ではなかった。自分はあれからどうしたのだろうか……と思っていると机の上に置手紙があった。綺麗な字でアヤベさんへ、と書かれているので読んでみる。

 

よおっ起きたか?どうだ目覚めはハッピーかい?あの後お前さん気持ちよさそうに寝ちまったもんでな、寮に連絡はしといたから俺の家の空き部屋に寝かせておいた。着替えとかは置いといたから、一先ずシャワー浴びてサッパリしてこい 貴方の心の暴君ランページより

 

「そうか、私あの後ずっと寝てたんだ……あっそうだ時間!?」

 

思わず時計を探す、昨日は日曜日で今日は普通に学校がある。掛けてあった時計を見ると午前6時を過ぎた頃だったので思わず胸を撫で下ろした。如何やら遅刻の心配はしなくて済みそうだ。

 

「……シャワー、借りようかな」

 

思えば昨日のお昼辺りから寝ていた事になるのだから身体は少し汗ばんでいる気がする、此処は好意に甘えてシャワーを浴びる事にしよう。と言ってもシャワーは何処なのだろうと……と着替えを持って階段を下りていくと直ぐ傍に洗面所があった、覗いてみるとすぐ隣にお風呂場があったのでそこへと入る。

 

「気持ちいい……」

 

服を脱いで風呂場へと入り、シャワーを浴びる。一日中眠り続けていた故に身体にへばりついていたものが纏めて落ちていくかのようだ。そしてシャンプーなども使っていいのかな……と思ったがそこにあったのは最高級品のシャンプーやリンスだった。自分とて女の子、身だしなみを整える為に様々な物を吟味する、その中でも最高ランクのそれらに思わず喉が鳴った。試してみたい、どんな風になるのか……だが使っていいのかと迷っているが気づけば押してしまった。

 

「……ええいもう使うしかないわ」

 

実は妹が心を押して使わせたのは内緒。因みに妹は迷っている間にランページに許可を貰いに行っているので問題はない。出したそれを髪へと浸透させていく、市販のそれとは全く別の手触りと泡の心地よくも程よい抵抗を感じさせるそれに思わず陶酔してしまう。

 

「これは、やばいわ……やば過ぎるわ……」

 

身体を洗い終わった後の爽快感は異常の一言だった。身体を洗う物一つ変えるだけで此処までの事になるなんて……そう思いながらも尻尾を手をくしのようにして水けを切った後で強めに絞る。

 

「んんっ……よし」

 

水気を取り終わると脱衣所へ、そこで使ってくださいと書かれたタオルがあった。至れり尽くせりとはこの事か……と思いながらも感謝の気持ちでタオルを取るのだが

 

「―――っ……!!!?」

 

アヤベに電流走る。

 

「何このタオル……羽毛のように軽いのにこの重量感、軽いのに何で重く感じられるの……?このずっしりとした重みの中に確かな暖かさと優しさを内包している、指を優しく受け止めながらもその奥に確りとした反発がある、それすらも心地いい……こんなもので身体を拭いてしまったらこの心地よさが損なわれて……い、いえ濡れている手で触れているのにこれなの!?それならこれで身体を拭いたら―――」

 

 

「ふふ~ん……よっと」

 

朝食調理中のランページ、今日は鮭を行きつけの鮮魚店から仕入れたのでそれを使った朝食。それを準備していると風呂場からアヤベの妹さんが飛んできた。

 

「応どうしたい?」

『―――、―――っ!!……~!!!』

「あ~……あ~うん成程、お婆様から貰ったバスタオル……貰ったまんまだったから出したんだが……なんかまずかったかな……」

 

結局アヤベが風呂場を出たのは15分も後の事だった。リビングにやって来た彼女の顔は妙に艶々としていた。

 

「応おはようさん」

「おはようございます……最高の、お風呂でした……」

「それ7割がたタオルに関してじゃねえのか?まあいいか、朝飯用意したから食おうぜ」

「えっ朝御飯まで!?」

「今更遠慮すんなよ?もう作っちまったんだから」

 

そう言ってテーブルの上を見ればそこには朝から鮭の刺身をメインとした朝食が用意されていた。思いもしなかったのかアヤベは驚きながらも席に着いた。

 

「それじゃあ手を合わせて」

「「いただきます」」

 

挨拶をしてから共に朝食を取る。まさか朝からお刺身が食べれるなんて……朝に塩焼きの鮭ならよく食べていたが……そう思いながらも刺身を口にする。脂がよく乗っていて舌の上に乗せると脂が溶け出し、噛み締めれば鮭の味がいっぱいに広がる。

 

「美味しっ……!?鮭の旬って秋とか冬じゃ……」

「これは春先が旬の時不知(ときしらず)って言ってな。秋に日本の川へ戻って来るはずの白鮭が、時季を間違えて春から夏にかけて戻ってきた奴なんだ。この時期は卵とかに栄養が行ってないから身には上品な脂がのって美味いってされてるんだ。漁獲量が少ないのが唯一の難点だけどな……まあ蘊蓄は兎も角美味いだろ?」

「とっても……まさか朝からこんな美味しい鮭のお刺身が食べれるなんて……!!」

「はははっそうだろ」

 

鮭だけではない。胡麻の風味がたまらないこんにゃくの胡麻和え、甘酸っぱくてフルーツのようなトマトのサラダ、口の中を綺麗にする豆腐と水菜のすまし汁、そして艶々で美味しいお米……こんな朝御飯は初めてだと感動しながらもアヤベは初めて朝食に此処まで集中したかもしれない。

 

「ご馳走様でした……本当に、美味しかったです……」

「応お粗末さん。やっぱ誰かに飯を作るのはいいもんだな、年空けてからまた一人になっちまったからな」

「それまでは、誰かと……?」

「ああ、ちょっとしたホームステイって奴だ」

 

ファイナルズとレジェンドレースの終了と同時にファインはアイルランドに帰って行ってしまった。元々この二つを見る為の日本滞在だったのだから致し方ないのだが、ファインは思っていた以上に素直に帰国を受け入れていたのが意外だった。

 

『しんゆ~私、絶対日本に帰って来る!!その時はトレセン学園に来る時、その時までに私はきっと凄いウマ娘になってみせるからね!!』

 

自分にそう誓いを立てて、ファインは帰っていった。次に会う時は日本に来る時……そして自分が彼女を担当する時……単純な計算で3年後……これでまた、忙しくなるなと思いながらも唯々嬉しさもなかった歳を取る事への喜びが出来たな、と笑うのであった。

 

「さてとアヤベさん、こっからがお前さんのスタートだ。ハッキリ言っとくがお前さんがデビューする時にはまたスゲェ奴らが出て来る筈だ。生半可な覚悟と努力じゃそいつらに勝つ事なんて夢のまた夢だ。その覚悟はあるか?」

「私はもう迷いません、妹と一緒に走ります。その為に……プレアデスで頑張らせてください」

「良い顔をするようになったな……よしそれじゃあ行くか、今日も練習が忙しいぞ~」

「はいっ!!」

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