貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

52 / 634
52話

ファンファーレが響き渡る、同時にゲートに全てのウマ娘が揃った事が告げられる。間もなく始まる日本ダービー、この世代の頂点を決めるレース。一体誰が栄冠を物にするのか、レースは何が起こるか分からない。実力で圧倒的な物を誇っていたとしても覆る事がこの世界では幾重にもある。誰にもチャンスがあって、誰にも落とし穴があるとも言える。正しく運命のいたずらが勝敗を分ける、最も運を持つウマ娘が勝つのがこの日本ダービーなのである。

 

『さあ間もなくスタート、全ウマ娘ゲートに収まりました。2400m先の栄冠を手にするのは一体誰なのか、さあ今選ばれし優駿たちが今―――スタートしました!!これは綺麗にスタートを切りました、流石は選び抜かれた精鋭たち、その中でも最高のスタートを切ったのはアイネスフウジン!!早速飛ばして行く!!』

 

逃げ宣言のアイネスフウジンが先頭を取った。相変わらずのハイペースな逃げだが、それを逃がすまいと前に出るウマ娘も居るが、その中で突出してアイネスを捉えているウマ娘がいる。

 

『アイネスフウジンに続くのはコクタイヨウ、ハンサムガールと続きますがおっと速くもバ群を抜けだしたのはメジロライアン!!ハイペースで先を行くアイネスフウジンの背後に付きます!!』

 

「簡単には逃がさないよ、今日だけは!」

「ふぅん、着いて来られるなら着いてくると良いの!!」

 

そのまま、ライアンを背負うような形のままアイネスは気儘に速度を上げて行く。ウチを通りながらもどんどんと加速していく、他のウマ娘なんて知った事ではない、私は私の走りたいように走るから着いて来たいなら着いて来い、抜きたいなら抜いてみろと言わんばかりの見事な走り。

 

「凄い逃げるねアイネス先輩……いやでもライアン先輩もそれにピッタリ付いて行ってる」

「当然だよ、だって今日までターボとランが練習に付き合ってたんだもん!!逃げ相手には簡単に負けないよ!!」

「お姉様もお手伝いしたんだ」

「まあな、仮想敵としては最適だからな」

 

恐らくランページ程、逃げウマ娘の仮想敵として適した者はいないだろう。何せ高身長のストライドを活かしながらも猛烈に逃げ続けるのだから。これについて行ければ並の逃げウマ娘ならば捉える事は出来る……が、アイネスは並の逃げではない。自分やターボ程の破滅的なペースではない、追えるが故に心の余裕が余計な力を引き出しやすい。言うなれば自分の逃げよりも相手のスタミナを消耗させやすい逃げ。

 

『さあ間もなく向こう正面に入りますが先頭は変わらずアイネスフウジン、そしてその後ろにピッタリとメジロライアン。そして後方のコクタイヨウ、その差は4バ身程でしょうか。さあブラックジュエルも控えております、此処からレースがどう動くのか楽しみであります』

 

「(このペースなのにライアンはピッタリと着いて来てるの……やっぱり凄いね、でも今日は私が勝つの!!)」

 

アイネスフウジンは普段の練習だけではなく、練習後のアルバイトもメニューに組み込んで自分を鍛えていた。家計を助ける為の物だが、今回ばかりはダービーに向けての特訓という意味合いも強かった。町内を走り回っての新聞配達は中々に距離もあるしストップアンドゴーで瞬発力を鍛えて来た。だから負けないという自信もある、間もなく第4コーナー……そして最後の直線に入る。

 

「負けないのぉぉぉ!!」

 

『此処でアイネスフウジンが加速した!!メジロライアンを振り切るつもりか、さあ直線に入る、後方からもウマ娘が迫って来る。さあ直線に入ったぞ、此処からが勝負、東京の直線だ、直線で全てが決まる!!さあ400を切って坂を上がっていく!!』

 

「さあこっからが正念場……!!」

 

他を出し抜こうなんて逃げではない、仕掛けられたハイペースの消耗戦。十分に追えると思っていたウマ娘達のスタミナは見る見るうちに削られていった、此処まで逃げられるのかと思いながらもその背中を追う。自分こそがダービーの栄冠を手に入れると、だが身体が動かない。

 

「ああっ……後ろ、中々いけないんだ……」

「なんかランみたいだね」

「いや俺の場合は更に差をつけてるからもっと性質悪いぞ」

 

とそんな事を言っている時、アイネスの背後から遂に控え続けていたウマ娘が牙を剥いた。

 

「此処で勝負ぅ!!!」

 

『メジロライアンメジロライアンが遂に来た!!アイネスフウジンの背後で機を窺い続けて来たウマ娘が遂に飛び出した!!そのまま突っ込んでくる、アイネスフウジンを捉えられるのか!?行くか行けるのか!!?』

 

ランページとターボのお陰で逃げウマ娘に対して慣れていたのが幸いした、何よりあの二人よりもペースが楽だから付いて行きやすかった。改めて二人への感謝を捧げると一気に脚に力を込めて大地を蹴る。此処で全てを出し切るつもりで一気に加速する、此処まで抑えていた物を出すとアイネスフウジンを捉えた。そして並び立つ。

 

「このままァ!!」

「負けないのぉ!!」

 

『メジロライアンが抜い―――っいやアイネスフウジンが意地を見せる!!再び並んだ、並び直したぞ!!さあ後200を切った!!さあ第57回東京優駿日本ダービーの栄冠を手にするのは何方なんだ!!?』

 

「負けないの、負けないのっ!!!この日の為に努力し続けてきたのぉ!!」

「そんな事、分かってる!!アタシだって、アタシだってぇ!!!」

 

同室のアイネスがトレセン学園の授業や練習の合間を縫ってアルバイトをしている事だって知っている、そしてそれは奇しくもランページと同じ新聞配達だったと聞いた時にライアンは驚いてしまった。だが同時に思った、彼女はランに似ている。だからこそ分かるのだ、彼女の力の凄さが、その精神の強さを―――貴方の強さを私は知っている。だからこそ―――

 

「ライアァアアアアアンッッ!!!行けええええええ!!!!」

 

聞こえた、聞こえてきた、そして見えた。応援をする友の姿が、同時に力が漲った。そうだ、自分がランの強さを知っているように、ランだって自分の強さを知っている。だからあの目標を立てたんだ、自分達の力でそれを証明しようと。だから走る。

 

「一緒にっ行くよ―――ラァァァァァンッ!!!!」

 

地面を踏みしめ、強く蹴った。蹴った、蹴った、蹴った、蹴った。時間が矛盾しているように世界がスローモーションに変わっていく、その中で自分は前へ前へと突き進んでいく。見えてきたゴール板をさらに遠くに蹴り飛ばすかのように力強く前へと踏み出した脚は―――ゴール板を踏み越えて行った。

 

『アイネスフウジンとメジロライアンが大接戦!!何方が征する日本ダービーを何方が征する!?今、大接戦のゴールイン!!!これは何方か分からない、何方が勝っても可笑しくない、何方もダービーウマ娘として誇れる素晴らしい走りを見せました!!』

 

「―――っはぁ!!!ハァハァハァ……」

「くっ……ゲホ……ハァハァハァ……」

 

何方も息を荒げながらもゆっくりと静止すると膝に手を付きながらも全力で息をする。互いに言葉を作る余裕すらないのか、俯いたまま言葉を発しない。呼吸が安定して顔を上げた互いに掲示板を見た、何方の番号が先にあるのか……覚悟を込めてみた。そこにあったのは―――写真の文字が消えた瞬間。ダービーウマ娘の決定の瞬間、そこにあったのは―――

 

『メジロライアン!!メジロライアンがハナ差、ハナ差4㎝での勝利ぃぃぃぃっ!!!今年のダービーを征したのはメジロライアン、メジロがまたやりました!!先週のオークスのメジロランページに引き続きメジロがクラシック二冠を達成!!!』

 

「やっ……やった……?」

「凄い、凄いの!!」

 

呆然とし、言葉が見つからない自分にアイネスが抱き着いて来た。その表情はまるで自分が勝利したかのような満面の笑みだった。

 

「完敗なの!!全部出し切って負けちゃったの!!ライアン本当におめでとうなの!!」

「勝った、アタシが……ダービーウマ娘に……いやったぁぁぁぁぁあ!!!!」

 

漸く現実を受け入れられたと言わんばかりに大声を上げながらもアイネスを抱きしめ返した。それに驚きながらもアイネスも抱きしめ返した。

 

「アイネスも凄かったよ!!もう勝てるとか思わなかったもん!!」

「アタシだって負けるなんて少しも思わなかったの!!でも、全然悔いなんてないの、後悔も無いし悔しくも無い!全力出せて本当に満足なの!!」

「うん、うんうん!!有難うアイネス!!」

「此方こそありがとうライアン!!」

 

そう言いながらも互いの健闘を称える二人に観客は溢れんばかりの拍手を送った。拍手で東京レース場が震える中、ランページが笑いながら声を張り上げた。

 

「ラ・イ・アン!!ラ・イ・アン!!ア・イ・ネス!!ア・イ・ネス!!」

『ラ・イ・アン!!ラ・イ・アン!!』

『ア・イ・ネス!!ア・イ・ネス!!』

 

ライアンの名前とアイネスの名前を繰り返し呼ぶコール、それは少しずつ、少しずつ伝播していく。最初はカノープスがそれを受け取ると、次は隣の観客が、それがどんどんと広がっていくと気付けば東京レース場全体がライアンとアイネスの名前を叫ぶ大コールで震えていた。

 

『これは……コールです!!東京レースがコールで揺れております!!惜しまんばかりのライアンコールとアイネスコール!!これこそダービー!!今年のダービーは素晴らしかった、今回のダービーは優勝ウマ娘が二人も居ります!!それはこのコールを聞けば誰もが納得する事でしょう!!メジロライアン、アイネスフウジン!!今年のダービーウマ娘はこの二人!!』

 

「アハハッアイネス……アイネスもダービーウマ娘だって!!」

「嬉しいの、皆アタシの走りをそんなに……有難う~!!皆~!!」

「本当に有難う~!!!」

 

1着:メジロライアン、2着:アイネスフウジン。その結果は揺るがないだろう、だがこの二人がダービーウマ娘という事実を誰も否定せず認める事だろう。二冠ウマ娘の誕生という瞬間よりももっと祝福された事だろう。




コールは……外せなかった。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。