貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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520話

いよいよと迫ってきた皐月賞。マヤは皐月賞に向けて追い込みを掛けている、その仕上がりは中々のもので坂原も唸る程。心身ともに仕上がっているためにこれはいい結果が期待出来る。そんな先輩の姿を見つめる後輩たちにもいい刺激となっていた。

 

「皐月賞かぁ~……私達もいずれそこで走るんだよね、ううっ~どうなっちゃうんだろ」

「あら、自分達の手番が来た時にそれは考えればいい事よ。私達がすべきことはマヤさんが一着を取る事を信じて応援する事だけよ」

「イエイ!!一所懸命、マヤ先輩を応援するデース!!」

「それを言うなら一生懸命よ」

 

自分達のクラシックを重ね合わせ、次代の奏者たちは期待に胸を躍らせていく。自らが奏でる音はトゥインクルシリーズという曲目の中でどのような形で伝わるのか、胸が躍って致し方ない。そんな思いが交錯する中でマヤを見つめるランページは珍しくハーブシガーを銜えていた。

 

「フゥッ~……さてと、後は運を任せるのみか……運も実力のうちよ、三女神を振り向かせられるかなマヤ、天使とダンスを楽しんできな」

 

『さあ先頭を行きますはマヤノトップガン、逃げの名手たるメジロランページのプレアデスが送り出す期待のニューホープが先頭です』

 

皐月賞。マヤが選択したのは逃げだった。強豪揃い相手に万能型のマヤの末脚ではやはり厳しい所があると判断したのか逃げを選択した模様。後方からはジェニュイン、フジキセキが前に付けているが……明らかにマヤのマークについているのが分かる。

 

「おハナさんめ……マヤをペースメーカーにするつもりだな」

「考慮していなかったわけではなかったけど、流石に逃げは失敗だったかもしれないね……」

 

逃げは十八番ではあるが、逆にリギルには対逃げ戦法のノウハウは圧倒的に蓄積されていると言っても過言ではない。何せフローラがいるのだ、彼女が対自分への戦術を後輩に伝授する事は容易い筈……それを加味しても良い手ではあると思ったのだが……

 

『ジェニュイン、フジキセキが変わらずに良い位置に居ります。その背後に更にタヤスツヨシ。さあマヤノトップガンが向こう正面を通過、通過タイムは58.7』

 

「ちと、焦ってるか?」

「いや大丈夫。まだマヤには余裕がある、あるけどこれは……少し速い」

 

ガッチガチにマークされることはされていた筈、それに対するメニューも組んだはずだがマヤのペースはやや速い気がする。相手が有象無象なら気にもしない筈だが、相手は最高峰のリギルが送るフジキセキとジェニュイン故かマークの仕方も酷く嫌らしい上に圧の掛け方も上手い……。

 

「こりゃ、ネメシスの方針が上手く嵌ったと喜ぶべきなのかねぇ……サンデー仕込みの圧掛け(プレッシャー)だ」

「プレッシャー……そんなにかい?」

「マジでうめぇ、おハナさんめ、フローラが海外遠征で得た経験値を上手い事活かしてやがる」

 

「はぁはぁ……」

 

まだ行ける、まだ最終直線でスパートするだけの脚は残っている。それなのにどうしてこんなにも胸が苦しくて脚が重いのだろうか……背後のプレッシャー、ジェニュインのものだ。アグレッサーチーム・ネメシス出身のジェニュイン。彼女はサンデーからの教導に最も適応していたと言っても過言ではない。そして、その教えはフローラによって得られたノウハウと見事に合致した。

 

「さあ、こっからだ、こっからぁ!!」

 

『最終コーナーへと入るぞ、マヤノトップガンをフジキセキとジェニュインが捉えるぅ!!さあ並んだ並んだぞ!!そのまま最終直線だ!!ここでマヤノトップガンがアフターバーナーを点火、逃げ切りを図るがピッタリとフジキセキとジェニュインが張り付いて逃げ切れない!!如何なる、どうなってしまうのか!?さあ坂に入るぞ坂に強いマヤノトップガン、飛び立てるか!?いや飛び立てない!!マヤノトップガン完全に頭を抑えられてフジキセキとジェニュインと横一線!!スキージャンプ式滑走路を上手く使えません!!うまく抑えている!!さあ間もなく坂を越えてラストだ、如何なるこの三人が一気に抜き去る―――』

 

「いけぇっマーベラス!!」

「この瞬間、とってもマーベラァス彡☆★☆彡」

 

『さ、最ウチから最ウチから一気にマーベラスサンデーが上がってきたぁ!!!3人の真後ろから一気に抜け出してトップ争いに参戦だぁ!!マーベラスサンデーが今、1番手!!いやジェニュインも意地を見せている!!マヤノトップガンも必死に足を伸ばしている!!フジキセキも輝き続ける!!これは激しい戦いになってきた!!後方からはタヤスツヨシも一気に猛スパート!!皐月賞の栄冠を取るのは一体誰なんだ!!?ゴールまで後僅か、誰が勝つ誰が勝つんだ!!?』

 

 

『ゴールイン!!勝ったのは―――マーベラスサンデー!!!マーベラス一着!!中山に満ちたのは驚きと奇跡のような素晴らしい走りのウマ娘ぇ!!!二着にフジキセキ、三着にジェニュイン、四着にマヤノトップガン!!しかし殆ど差がありません!!ハナ差でフジキセキの二着と三着のジェニュイン、クビ差でマヤノトップガンの四着!!誰が勝っても可笑しくなかった皐月賞!!今年のクラシックは四人が台風の目になること間違いなしだぁ!!!』

 

「マーベラァァアアス!!!」

 

心の底からの笑顔を浮かべながら声を上げるマーベラスサンデー、その言葉にフジとジェニュインは悔しさなど微塵も出さずに拍手を送るのであった。

 

「いやはやまいったよ、勝てると思ったんだけどなぁ……いや何を言ってもいい訳になっちゃうね。素直におめでとう」

「ぬぅぅっ……マヤに集中しすぎちまったか……だがいいかマベ、ダービーじゃ勝つのは私!!」

「うんっ勿論負けないよ、だってマーベラスなんだもん!!」

 

笑顔で居続けた彼女を一人のウマ娘は荒い息を吐きながらもただ見つめ続けるしか出来なかった。敗北という二文字が重く圧し掛かってくる、それを実感しながらも、拳を強く握りながらも、それらを抑え込みながら友達に抱き着いた。

 

「ホント凄かったよマベちん!!マヤ驚いちゃった!!」

「えへへ~でもでもマヤノもマーベラスだったよ」

「そうかな~?そうだよね~マヤ達って、とっても~」

「「マーベラス!!」」

 

ニコやかに友の勝利を祝福するマヤの姿にスタンドからは拍手が溢れた。完全な敗北を味わいながらもあれだけ笑顔を作れるなんて、素晴らしい友情だと観客の心を貫いた。そしてそれに合わせてフジとジェニュインも二人と一緒にスタンド向けて手を振りながら揃って頭を下げて応援への感謝を伝えるのであった。

 

『な、なんて素晴らしい光景でしょうか。そう、レースとは争いの場だけではないのです、走り終えればみんな友達、友情が結ばれるのです!!私感動で涙が出てきてしまいましたぁ……!!』

 

赤坂の実況も相まって皐月賞の舞台は勝者のマーベラスサンデーだけを祝福する場ではなくなり、走った全員への祝福、そして次走への期待へと塗り替えられていった。そんな喜びの中でランページと坂原だけは苦い顔をしていた。

 

「こっからだな」

「うん。マヤ一緒に、強くなろう」

 

マヤは心の底から悔しかった筈だ、それを押し殺して友の勝利を祝福している。その姿勢に感服しながらも視線を送り続けるのであった。

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