貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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522話

「ふふ~んどうですかランページさん、遂に貴方を負かしてやりましたよ!!」

「誇るならせめてリギルが勝ってから誇れよ、直接対決全敗のクソ雑魚が」

「辛辣!!?これでも凱旋門賞ウマ娘なんですけどぉ私!!?」

「知らねぇよ、テメェの都合なんざ知るか」

「酷い!!」

 

現役を退いたフローラ、彼女もランページと同じでドリームトロフィーリーグに興味を示す事無く引退を宣言しようとしていたのだがURAに全力で止められてしまって今年はドリームトロフィーリーグに出る事になった。尚、ファイナルズやレジェンドレースに出ないとは言っていない上に今年いっぱいでやめる気満々なので極めて性質が悪い。

 

「フジとジェインの仕込みはおハナさんとお前だろ」

「ジェーンちゃんの方はネメシス仕込みって言ってましたから何とも言えませんけど、私の海外遠征で受けたそれらを私なりに再現して二人に習得してもらいましたね」

「ったく俺としたことが……こんな奴の戦略に嵌るとは……いや褒めるべきはおハナさんか」

「あ、あの少しぐらいは飴を」

「サルミアッキならくれてやってもいい」

「せめてハッカにしてくださいよぉ!!!」

 

改めて考えても皐月賞を完全に支配していたのはリギルの二人、しかもそれは海外の戦略……海外遠征前提だと言いたいのだろうか……いや自分を惑わす為か……自分には幾らそれを掛けられたとしても覆す術があったが自分の教え子にはそれがあるとは限らない、全く以て良い読みだ。

 

「マヤの万能性が裏目に出た感じか……強み全部殺したうえで真っ向からの消耗戦とか、普通に考えたら仕掛ける側も辛いだろ」

「その辺りは私がいっぱい追い込みましたから、ランページを二人に重ねて♪」

「素直に二人に同情するわ」

 

自分を重ねた=ガチのフローラと戦っていると同義、それをクラシッククラスにやるのだからおハナが良く許可したものだと思う。完全に自分の負けだと思う上にホープフルステークスというG1を勝たせることが出来たという事で慢心していたのかもしれない……そう思うとマヤには辛い敗戦を味合わせてしまった、これは自分の責任だとランページは羽織っていた上着を脱ぎ捨てた。

 

「おいフローラ、八つ当たりとは言わねぇが……ちと付き合え、テメェにもう一度勝てるかもしれないチャンスをくれてやる」

「マジですか!!!?やりますやります!!あっこの上着嗅いで……―――」

 

そこにあったのは現役時代と変わらぬ瞳を作ったランページ。もう見る事は出来ぬかと思っていた全盛期と違わぬ瞳にフローラは全身がゾクゾクとしてしまった。

 

「良いんですか、生涯無敗返上案件になるかもしれませんよ」

「ジャパンカップ前にマルゼン姉さんとエースさんに存分に負かされてる」

 

この後、東条が練習の前準備の為にコースへと足を運んだのだが……そこには恍惚とした口元だけを露出させ、腕で目元を隠したフローラの姿だった。

 

「ぁぁぁぁっ……やっぱりあなたはぃぃなぁ……」

 

その光景に東条はサブトレーナー候補に据えた事を激しく後悔しつつもキリキリとし出した胃を軽く押さえるのであった。

 

 

「マヤ、すまんかった!!」

「あ、頭下げないでよランページさん!!?もうマヤ気にしてないよ!?」

 

皆が練習している時、マヤと坂原を部室へと呼んだランページはマヤへと頭を下げていた。マヤからすれば一体何でこんなことになっているのか全く分からない上にランページに頭を下げられるなんて収まりが悪すぎて思わず坂原に助けを求めてしまった。

 

「そんな事されてもマヤが困っちゃうよ。如何してそんな事をしているのか、聞かせて欲しい」

「……マヤ、俺はお前の事を天才だと思ってる、いや今でもそれを変えるつもりはない。テイオーと同レベルの天才だと思ってる」

「こ、今度は褒め殺し!?や、やめてよマヤ、困っちゃう……」

 

普段のマヤなら素直に受け取って喜んでいる筈なのに真剣に困惑している、本当に困っている。

 

「だけど俺はそれに甘えちまってたのかもしれない……万能さに目が眩んですべき指導をしていなかった……これは俺の怠慢が招いた敗北への謝罪だ」

「ラ、ランページさん……」

「一つ、聞いてもいいかな。仮に甘えてなかったとしたらマヤに何を教えるのかな」

 

坂原の言葉にランページは素直に答えた。ランページが得意としているチェンジオブペース、逃げと思わせながらも一気にペースを変えて差しや追い込み戦法へと変更。そう言った戦法でマヤの強みを十全に生かすべきだったと話す。

 

「それは確かにされたらかなり厄介だね……」

「それに合わせて幻惑逃げを教えるのも良いと思ってる」

「それってサニーちゃんがやってるあれ?」

 

プレアデスで現在幻惑逃げを伝授しているのはサニーブライアンのみ、それと共にマヤに仕込むのも良いかもしれない。幻惑逃げ習熟中のサニーにとってもペース変化の練習はかなり有用。

 

「……正直、基本を重視させ過ぎたとは思ってる。そのせいでマヤの強みを少し潰してた自覚はあった……だけどそうしないといけないと思ったんだ」

「それは分かるよ、マヤみたいな天才肌の子の育成方針は難しいからね」

 

マヤの天才肌を見るとどうしてもテイオーを被せる、そして史実のテイオーが苦しんだ骨折を連想してしまった。天才であるが故にどうしてもそれに身体が付いて行かない事への恐怖があったのは否定しきれない……だがそれはマヤを信じていない事に繋がる事を理解した。

 

「だからマヤ、俺は君を信じることが出来ていなかった……曲がりなりにも俺はトレーナーなのに、坂原さんと一緒に君を信じないといけないのに……」

「大丈夫だよランページさん、マヤはずっとランページさんを信じてるから!!」

 

マヤのはじけるような笑顔が飛び込んで来た。マヤが思いっきり抱き着いてきていた。

 

「だからね、今度からはマヤを大人のレディとして扱ってね。マヤはそれに全力で応えるから、そしてね、マヤが二人をダービートレーナーにしてあげるから!!」

「マヤ……」

「君の気持ちは僕もよく分かるし君だけが悪いとも思ってない、君と僕は同罪だよ。だから此処からもう一回踏み出そうよスタート、そして今度は勝とう」

「それにランページさんにそんな感じは似合わないよ~何時もみたいにカッコよく構えてて!!ランページさんは王様なんだから!!」

 

二人の力強い言葉にランページは思わず熱い物が込み上げてきてしまった。それを表に出さないようにワザとらしく笑い声を上げる。

 

「クククッ……ダービートレーナーになる事は一国の宰相になるよりも難しいって言われてんだ。マヤ、名実ともに俺を暴君にしてくれるってか?」

「やっと戻ったねトレーナーちゃん」

「そうだね、君にはそう言うのが一番だよ」

「悪い、ちょっとセンチメンタルになってた……フローラのバカにも感謝はしとくか……うしっ気合入った!!マヤ、俺と併走だ。ペース変化と幻惑逃げ、その身体に叩き込んでやる!!」

「望む所だ~!!」

「忙しくなりそうだね」




「―――今ランページさんが私に感謝をしてくれたような……!?いやこの頭の先から脚の指の先まで貫くような快感は間違いない!!ぁぁぁぁっ~ん♪」
「……」
「おハナさん、薙刀お貸ししましょうか?」
「思わず借りたくなったわ……というか待ちなさいグラス、貴方なんて薙刀持ってるの?」
「大和撫子の嗜みです」
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