プレアデス、マヤノトップガンの再出発計画が始動し休養を取ったマヤは早速その計画に則って強化メニューをこなし始めた。
「マヤ、負けないからね~!!」
「幻惑逃げなら、私の方が一日の長があるんだから、負けないぞぉ~!!」
皐月賞での悔しさをバネにして前へと進んでいく事を決めたマヤは今まで以上に練習に熱心になった。坂原をしてあんな練習をしたがるマヤを初めて見たと言わしめるほど。
「如何だマヤ、幻惑逃げを体験した気持ちは」
「う~ん……サニーのはなんかスタミナで無理矢理こっちのペースを崩してやろうっていう意図が見えちゃってる感じがするからもうちょっとさりげなくした方が良いかなって思った」
「私の幻惑逃げの感想だった!!?」
マヤに感想を聞いたのは間違いないが、別にサニーの走りを評価しろという意味で言った訳ではなかったのだが……
「まあサニーの幻惑逃げがまだ未完成なのは事実だな、あれはあれで負けん気が強い相手になら良い感じに刺さるだろうけど冷静な相手にはいまいちなのは同意する」
「あぅっ……」
「そう凹むな、随分と上達してんだデビューする時までには完成させてやっから」
サニーは物覚えが特別いい訳ではない、この場合は既にコツの一端をサニーから得ているマヤが良すぎるだけの話。その分サニーはスタミナがあるという長所を生かして自分の幻惑逃げを更に速い領域で出せるように調節している。後は数をこなしていくだけ、まだ2年もある。それだけあれば十分すぎる。
「でも結構難しいね、相手の呼吸に合わせてそれをわざと乱してかき乱すんでしょ?」
「お前の場合は俺達にはない脚質の万能性がある、一気にトップを取ったのにそれが一気に下がってきたらどう思う?」
「あっそっか」
「ホントちゃんとこの使い方に至れてればなぁ……いややる為にも基礎はマジでしっかりしないとマヤの身体が壊れるかもしれなかったからある意味不正解とは言い切れないのがまた……」
「ランページさ~んまた落ちて来てる~」
トレーナーとしての壁にぶち当たった事でランページはちょくちょく凹む癖が出るようになってきた。それだけ自分の至らなさを実感したという事だが、チームでやると周囲が困惑するのでマヤがストップをかける。
「んんっ!!あ~つまりだマヤ、今まではお前の基礎レベル上げに徹して来た訳ですがこれからはそれと同時並行で応用編もこなしていくぞ。基礎重視は変わりねぇけど応用も疎かにしないように気を付けましょのお時間って訳だ」
「ハ~イ!!」
「という訳で―――よいしょっと」
背負っていたバッグを地面に落とす、大きな音を立てながらも落ちたそれにプレアデスの面々はまさか……と言いたげな顔を作り、それに応えるかのようにランページはそれを取り出した。
「ランページ鉄~をマヤにも導入します」
「わ~いマヤにもいよいよなんだね!!」
実はマヤへのシンザン鉄改めランページ鉄導入は迷い続けていた面があった。それはマヤの体格が小さいことに由来する。小さい身体でシンザン鉄を使うと使い切れずに壊れる可能性の方が高かったのだが、今回の事で決心をして本格導入を決定した。
「よくよく考えればターボの奴だって使ってたし何今更悩んでるだよってなったわ、まあターボは重すぎるのつけてないんだが……ほれマヤ着けてみな」
「は~い、うんしょっと……確かに重いね~」
ステゴに続いての本格導入、やや不安もあるがつけてみてマヤはそこまで重さを深刻には受け止めていなかった。それどころか平気そうな顔をして走りだした。それを見てランページは愕然としてしまった、この重量強化蹄鉄は身体の正しい使い方を覚えるための物でもある。正しい走り方をすれば走れるし重さも逆に味方をしてくれる。そこに至れるまでかなり苦労したのに……
「一瞬で、使い方をマスターしやがっただと……!?」
「マヤはね、ランページさんが走ってるところをずっと傍で見てたからそれを真似っこしたの」
「ラ、ランページさんなんかさらに愕然としてません!!?」
「……あ~マヤ、一回普通の蹄鉄でランページさんの走り方を再現してみてくれないかな?」
「うんいいよっ!!」
愕然としているランページの代理として坂原が指示を出す、そしてマヤはランページの走りの再現を行うのだが……
「……練りが甘いけど……全身走法の基礎、出来始めてる……」
「心なしか安心してません?」
「これを完璧にされたらもうさ、俺の立つ瀬がねぇのよ。下手したらブライアンすら立つ瀬ないのよ、あいつなんてそれが目的で俺が一対一で走り込んだ末に会得してるのよ?」
だがこれで未来への希望が加速度的に増していく事にもなったのだ、マヤにはこれだけの先がある上に他にも様々な事を教えてもいいという事にもなる。
「坂原さん、天才肌の子って育てるの難しいって言ってたじゃん」
「言ったね」
「あれ違うな、俺なんかすげぇワクワクして来たわ」
「同じく」
これからマヤはどんどんと強くなる、それは間違いないしそんなマヤが走るレースが今から楽しみになって来てしまったのか二人して笑い声を上げてしまった。
「何二人として悪の組織みたいな笑い方してるんですか」
比較的冷静な視点にいるのは上水流トレーナー、彼は今デビュー前のウマ娘達を纏める立場にあるので二人とは立ち位置がやや異なる為か落ち着いていた。
「いやぁマヤが天才過ぎてなんか泣けて来たって話」
「そうそう、そんなマヤの将来が楽しみだって話」
「楽しそうなのはいいですけど、今年はエアグルーヴのデビューでもあるんだからマヤばっかりってのは勘弁してくださいよ」
「分かってるつの……甘く見るなって」
勿論他のメンバーの事を忘れている事なんて事は有り得ない、自分はチームトレーナーなのだから……さて頑張ってお仕事をしようと思った時に携帯に新着ニュースが入ってきた。そこにあったのは―――
「……おい、今から俺と走りたい奴集合だ」
「えっどうしたんですかいきなり」
「何が起きてそうなったの?」
「え、え~っとはいっ!!」
突然の模擬レース開催宣言に驚く二人とちゃっかり手を上げるサニー、だがあれよあれよと人数が集まっていく。一体何事かと坂原トレーナーは自分でもニュースを確認するのだが……それを見て思わず納得してしまった。
『無敗の四冠ナリタブライアン、凱旋門2着のサクラローレルに見事に勝利。スタンドに満ちた祝福の青い薔薇、ライスシャワー天皇賞(春)を制覇!!』
「確かに、これはランページさんならテンション爆上がりするよね」
「マヤが勝ったらランページさん同じ位に喜んでくれるかなぁ……?」
「きっと喜ぶよ、それと確実に僕が喜ぶ」
「ヤッタ~!!マヤもっと頑張る~!!」