貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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524話

「気分は良いが、最悪な見出しだなこれ」

 

ライスが春の天皇賞を取ったのは嬉しい事だ。移籍したマックイーンに変わって現役最強ステイヤーとしての強さを見せつけたと言った具合になった。がこれでは浮かばれない、去年の覇者が。

 

「持ち上げたい気分は分かる。話題性にも理解はする、だが共感出来ねぇ……なぁハヤヒデ」

「負けたのは事実ですがね」

 

困ったような顔をしながら食事をとっているハヤヒデ、そう去年の天皇賞(春)を制したのは彼女なのだから。

 

「私とブライアン、そしてローレルを比べたら話題性で言えば負けるの当然です。実際ブライアンの方が単純な強さで言えば上ですから」

「だからってこれは気に喰わねぇに決まってんでしょうが、順位で言えばお前さんの方が上なんだぜ。ステイヤーとしてはお前の方が上っていう証明でもある。天下の天皇賞でこんな見出しとか」

 

一着ライスシャワー、クビ差で二着ビワハヤヒデ、ハナ差で三着にナリタブライアン、数ミリのハナ差で四着サクラローレルという結果だった。それならば前年覇者の事を載せないのは理解に苦しむ。

 

「盛り上げる為ってのは分からなくもない。無敗の四冠に凱旋門二着様だ、確かにネームバリューはある、だがあるだけだ。リスペクトの欠片も無い、取り繕っただけの三流記事だ」

「……そう言っていただけるだけで嬉しいですよ私は」

 

実を言えばハヤヒデもこの記事には少々ショックだった。自分は全力で走った、あのメルボルンカップの覇者であるライスシャワーと全力で勝負をしたいと思っていた、長距離の舞台で、彼女が最高の力を出せる舞台で、その末に負けた。妹よりも迫って負けた、それは少しだけ自分の中で誇りになった。自分よりもずっと凄い妹に少しだけ姉らしい所を見せられたと思った。

 

理性的に考えればこの手の手法はよくある事だ。トゥインクルシリーズを盛り上げる為に特定のウマ娘を強調したり、不吉ともヒールとも思えるような表現を用いるのはよくある事だ。重々承知している……だが少しだけ落胆してしまった自分もいた。

 

『ハヤヒデ、貴方の走りは素晴らしかったわ。フローラに言われた事を確りと反芻して進化させた。今回ライスシャワーが貴方に勝ったのは単純明快な理由よ、彼女は世界レベルを知っている上にその舞台を制した。世界を目指す覚悟さえあれば貴方もきっと勝てるわ』

 

東条トレーナーに言われた言葉を胸に努力しようと思っていた自分がこんな事で足踏みをするのは珍しいと思ったが……小さな躓きだが歩みは止まっていた。

 

「ああそういう訳だから今後、プレアデスは月間現代ターフランの取材は一切受けない事にした。ああっ?メジロランページを騙るな?言ったな、吐いた唾は飲ませねぇぞ?んじゃ明日直々にテメェの所に殴り込んでやるよ、お望みのメジロランページがな」

 

気付けばランページが電話をしていた、そこまでに自分は気落ちしていたのか……如何やら小さな躓きとは思えぬ程に自分は気にしてしまっていたらしい……しかし今の電話の内容は一体何だったのだろうか……心なしか妙に覇気が溢れているような……そんな自分にランページはバナナが沢山乗っている特大のパフェが差し向けられた。

 

「こ、これは……スプーンで簡単に掬える程に柔らかく、だがニンジン本来の甘さを最大限に引き出すように煮たニンジンをカップにいれ、そこにニンジンクリームとホイップ、カスタードを三重に重ね、数多の菓子とバナナをこれでもかと使って作るカフェテリアデザートの裏メニューの一角―――DXマウンテンパフェ Ver.B!!!??」

「……詳しいな、おい」

 

ハヤヒデの前に出されたのは学園の食堂の裏メニューの一つ、基本的にトレセン学園の食堂というのは超が付く程に忙しい。何せウマ娘はよく食べる、が極偶に食堂の手が空く時がある。そんな時が来た時に出すメニューが裏メニュー。と言っても出される機会なんて滅多にない……なので、今回はランページが自分のネームバリューを利用しつつ受付のおばちゃんと軽く話をして受付に人が来ないようにするという荒業を使ってこの裏メニューを作って貰った。今のハヤヒデを元気づけるにはこの位しないとダメだと判断した。

 

「ハヤヒデ、有象無象の戯言なんて気にするな。価値もない唯の感想だ、お前が気にするのはそんな事か違うよな、今回お前は二着だが、チケットやタイシンには勝ってる。お前に二人は勝とうと努力する、ならばお前はこんな所で燻ってる場合か。英気を養って次へと向けて走れ、前を向け、越えていけ敗戦を糧にして過去を今で塗り潰せ」

「―――そうだ、私は如何して……いや今だけは考える事をやめます。そして、前へと進みます。これは有難くいただきます!!」

「応食え」

 

一心不乱にパフェを食べ始めるハヤヒデ、そんな彼女の邪魔をしないようにと席を立つランページ。遠巻きに羨ましそうにハヤヒデを見る生徒達に今度メジロ家のシェフたちの力を借りて似たような事をしてあげるかな、と思いながらも食堂を出ればそこにブライアンが居た。

 

「すまない先輩、手間をかけた」

「気にするな、可愛い後輩の頼みを無下にする程俺も野暮天じゃねえよ。お前も惜しかったな」

「私は姉貴程繊細じゃない、寧ろ―――ライスシャワー先輩を絶対に倒したいという思いでいっぱいだ」

「まるで狼だなお前の顔」

 

姉に対してブライアンは至極単純、ライスへのリベンジを誓っていた。きっとそれはローレルも同じだろう、同じチームカノープス故にその思いも一層強い筈。この二人は更に伸びていくのは目に見えている。

 

「先輩、今度また走ってくれ」

「長距離は勘弁してくれ、絶対勝てん」

「なら中距離だ、宝塚記念対策をしたい」

「俺出てねぇんだけど……まあその位ならいいか」

 

宝塚記念が迫っている、その言葉に無性に不安が募った。だがその不安を吹き飛ばすかのようにスマホにライスからメッセージがきた。

 

『お姉様、一緒にお昼食べませんか?お弁当作ってみたの、良かったら返信ください』

『食べたい』

 

「その距離は俺の領域範囲だって事をそのうち教えてやるよ」

「最高だな、ついでだから姉貴も誘っていいか」

「好きにしろ、んじゃお前もちゃんと飯食えよ」

 

そう言いながら去っていくランページだが、その背中は威厳ではなく寧ろ浮ついていた。ブライアンはそれに気づかずに幸せそうにパフェを頬張る姉と同じテーブルへと向かうのであった。




ライス関連なので競馬にありがちなキャラ付けというか、メディアでよくやる手法についての奴を書きました。
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